30年ぶりの高値におもう。時給800円だったころの話(9)
最近、ニュースで「マンボウ、マンボウ」聞くのだが、「まん延防止等重点措置」を略して「まん防」というらしい。
ちみら、まんぼういいたいだけやろ。
家電量販店で働いたことがあると、マンボウと聞くと、ちょっと高額なデジカメみたいな商品のデモ機などにつける万引き防止装置、通称「万防」のことを思い出す。
静電気とかですぐに警報がなるので、止めるための鍵を取りに行かねばならない。
冬場は「あー。マンボウ鳴ってるから、誰か鍵取ってきてー」みたいなことが増える。
うっかり止めたままで、再起動させてなかったりすることもあるのだが、万引きGメンが教えてくれたりする。
TシャツにGパンで、黒髪ロン毛のちょいオタっぽい兄ちゃんが、僕を手招きして呼んでいたので、用件を伺いに行くと
「すいません。このマンボウ、起動してません」と、ランプが消えているのを指差して小声で教えてくれた。
完全にプータローのパソコン好きにしか見えなかったのだが、実は万引きGメンだったのだ。
これは、絶対に気づかないなぁと関心したものである。
長く店に勤めていると、何人かの万引きGメンに遭遇するので、プライベートで他の店に行くと、知ってるGメンがいたりする。
面が割れると覆面パトロールの意味がなくなるのだが、明らかに隠す気のない人もいる。
ゴルゴ13みたいな顔とスーツで、耳からイヤホンのコードを垂らしているという、どこからどう見ても私服の警備員にしか見えない人もいる。
多分、存在を見せることで抑止効果になるのと、全くわからなかったロン毛の兄ちゃんみたいな組み合わせで、業者から派遣されているのだろう。
実際、万引き犯にはそこそこ遭遇する。
アジア系の外国人窃盗団は手慣れていて、手のひらに小型のカッターを仕込んで、高価なソフトのビニールを開いて中のソフトだけを抜き取ったりしていた。
そういう手口が流行ってからは、高価なソフトは空箱になって、レジに持っていくように変わった。
同じ外国人でも黒人系は、すごく大胆なタイプが多い。いきなりレジの中のバルクメモリのカゴをつかんで持っていこうとしたので
「お客様!」と、とっさに腕をつかんで止めた。
「オォ。ソーリー。ソーリー」とヘラヘラ笑って去っていったが、メモリ1つ1万円としてもカゴにドサっと入っていたので、100万円とか強奪されるところだったのである。
普通にiMacを防犯タグ外して担いで持っていった奴もいる。あまりに大胆すぎて誰も気づかなかった。
後で防犯カメラで確認すると、悪いことをしているとかやましさを微塵も感じさせることなく、堂々と正面からiMacを担いで出て行ったのである。
印象に残っている万引き犯がいる。
普通のサラリーマンで、なんならちょっといいコートとスーツで一見して、大手企業の部長といってもおかしくない。
ベテランの店員さんが、僕のところにきて
「あいつ。やるぞ。見張ってて」とこっそりと耳打ちをした。
「ほんまかいな」と、半信半疑でいると、確かに動きが怪しい。
WindowsのOSパッケージを手に取っては戻しているのだ。OS単品で買うのはパソコンに詳しくないと難しいので、悩んでいるようにも見えた。
さりげなく監視していたのだが、他のお客さんに呼ばれて、離れざるを得なかった。
監視している店員がいるのはわかっていたので、その人たちに任せて接客をしていると、店内放送がしきりに掛かるようになってきた。
「○○さんは、ノートPC売り場の柱Gにお願いします」みたいな感じで、こっそりと店員を店の出口までの通路に配置をしているようなのだ。
僕も配置を指示されて、最後の出口ゲート付近に陣取った。
出口から店内方向を見ると、一直線に10m置きに1人配置されている。
奥の方からターゲットの部長風の男が現れた。すでに何かを万引きしているらしい。
フロア長が万引きGメンに声をかけて、ターゲットを指差した。
ターゲットはその動きを見て、万引きが発覚しているのに気づきダッシュで出口に向かってきた。
僕の方に向かって、全速力で走ってくるのだ。
捕まえねばならぬと身構えたところ、配置されていた店員が次々とタックルを決めて部長風の男を倒した。
抵抗を心みるも結局はGメンに取り押さえられて、事務所に連行されて行った。
Windows2000が箱がぐっしゃぐしゃになって床に落ちていた。
お金に困ってるようにも見えないし、ある程度地位もあるだろう。こんなものを盗んで人生を棒に振るのがわからなかった。
万引きを察知した社員の人がWindows2000の箱を拾っていたので、
「何で万引きするって分かったんですか?」と、僕は聞いた。正直、僕には万引きするような人には全然見えなかった。
すると、社員は
「あのおっさん、昨日も捕まってるんだわ」と、驚くべきことを言った。
「もう2度としませんって号泣してたから、警察呼ばなかったんだけどさ。あれは病気だね」
人の心の闇の深さを感じた。
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