鬼滅の刃はなぜヒットしたのか〜コロナ禍の逆風をバネに

劇場版鬼滅の刃が空前絶後の興行収入を叩き出したのは、コロナ禍という運命に翻弄されたからに他ならない。

コミックスランキングで1位から19位までを独占する快挙を成し遂げている間、日本ではコロナの感染が拡大していた。

2020年2月13日には国内初の死者が確認されている。コロナの怖さが明らかになり、2020年3月29日が延期となるのである。

4月7日に緊急事態宣言がなされ、おうち時間というワードとともに、自宅で漫画を読んだり動画のサブスクサービスを見るという需要が発生する。

アニメから火がついた最高潮で、劇場版公開という流れが潰れてしまったと思われたのだが、NetflixやAmazon primeなどに配信をしており、映画公開までアニメを見て追いつける環境が発生した。きっちり予習して劇場版にのぞめるのだ。鬼滅の刃はNetflixのデイリーランキングの常連となっている。

2020年4月10日に10月16日の公開が発表される。この段階での発表は、ギリギリの決断だったかもしれないが、この公開時期が絶妙なタイミングであった。これより早くても遅くても、300億円を突破することはできなかっただろう。

緊急事態宣言は延長を経て5月25日に解除される。しかしながら、イベントの制限は続き映画館では収容率50%に制限されてた営業が続いていた。

9月19日についに条件付きではあるが、満席での営業が解禁された。

しかし、解禁されたはいいが、公開する映画がない。コロナ禍が本格化する以前に撮り終えているものでなければ、撮影すらままならない。この年の鳴り物入りの洋画といえばTENETくらいしかない。TENETは9月18日公開で、鬼滅の刃とはかぶらなかった。アジア初のアカデミー賞を取ったパラサイトも1月公開。ぽっかり空いた空白地帯に投げ込まれような感じなのだ。

ボーナスステージに入っている鬼滅の刃は、タイアップが鬼のようにされているので、コンビニにも寿司屋にも至る所に鬼滅の刃コラボであふれている。

もうどうせ空いてるなら鬼滅の刃で埋めてしまおうということになる。

1日で42回上映という前代未聞の出来事が発生するのである。

これが鬼滅の刃の興行収入の最大要因であり2度と抜かれないだろう理由である。

どんなにいい映画でも、上映館数が限られていては、興行収入は伸びない。君の名は。のように初速そこそこで、あそこまで伸ばしたのはなかなかない。君の名は。のヒットは鬼滅の刃よりある意味すごい。

今後、ほぼ全スクリーンを朝から晩まで上映される映画はこのコロナの時期でしかも、解除の瞬間にしか起こらない。

実際、12月には感染者が増え、再び緊急事態宣言が発令されてしまった。

コロナの規制の隙間をぬって奇跡的に成し遂げられた偉業であり、それをつかみ取ることができたのは、作品の持っていたポテンシャルとヒットの要因の積み重ねである。

鬼滅の刃でなければならなかった理由をひとつあげろといわれるなら、こんなに優しい主人公は珍しく、伊之助なんかに罵られても「わかった」とか素直に返事をする。

この優しさと、鬼を人智を尽くした薬を駆使して、沢山の仲間と助けあって倒すという物語が、コロナの世の中と重なって人々の心を掴んだのではないだろうか。

それはデータでは説明できないけれど、本当の理由なのかも知れない。




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