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美容室への過緊張

昨日、すごく素敵でかわいらしい美容師さんに、緑のインナーカラーを入れてもらい、ボブにしてもらっている最中にふと思い出したことを慌てて文章にした。

とにかく美容室に緊張する人生だった。書いて振り返ると、随分と面倒な人間だと思うけれど、読んだ人に嫌われるかもしれないけれど、共感してくださる誰かに届いたらなと思い、静かに公開したい。

到着前

何時に着くのが、美容師さんのベストなんだろう。

早く着くのはダメである。美容室の中でだれかが手を止めて、相手をしないといけないからである。それは少し面倒だろうし、手を止められているお客さまにとっても、おそらく少しだけマイナスな感情を生むだろうと思う。

予約時刻定刻も、良くないのではないかと思う。なぜなら、12時に予約をしたということとは、12時に開始をしたいのではないだろうか。定刻でカットを開始するには、定刻に到着では遅い。

よって、予約時刻の2分前に「わたしはこの時間にここにいて迷惑をかけてはいないだろうか」という不安を抱えながら入店する。もっと言うと、5分前にお店の前について、3分店の周りを徘徊した上で入店する。それも中の美容師さんにはぜったいに見つからないようにである。

入店する

「いらっしゃいませ」と声をかけてもらえないことがある。忙しい美容師さんに注目してもらうほどの存在感が、きっとわたしにはないんだろう。どうお声がけするのが良いのかとまごついていると、愛想良く気づいていただける。感謝と申し訳ない気持ちになる。

出迎えている美容師さんを視界にとらえながら入店することもあり、これはとても緊張する。「こんにちは」と言うほどの関係でもなく、この場合も温かな「いらっしゃいませ」に、不自然な笑みで返すことしかできない。

持ち物を預かっていただく際に、本当に鞄に財布が入っていたか不安になる。これから時間をかけて髪を切ってもらうにもかかわらず、支払いができないのではないかと不安が高まる。ただ、そこで財布が入っているか確認させてほしいと依頼することも、進行を妨げることになる。

キャッシュレスが盛んになり、この不安は少し軽減されたことが最近わかったことの1つだ。

ちょっと待つどのくらい待つことになるのか、お店によって未知数である。待つソファの脇には、雑誌が置いてあることが多い。開いた瞬間に呼ばれて慌てるのを懸念して、手にとらない。

これは常々のわたしの準備不足だが、ここに来てどんな髪色や髪型にするのか、決めていないことに気がつくことが多い。こんな髪型になりたいという希望はないのだ。取り扱いやすくて、ちょっと良い感じの見た目にしてもらえたらそれがベストなのだ。

なぜ、こんな髪型にしたいという願望がそんなに具体的に浮かぶのか。どうして自分はその願望が薄いのか。とはいえ、オーダーがなければ切っていただくこともできないので、大慌てでとってつけた作戦を練る。間に合うことはあまりないことは後述する。

席に座る

美容室の椅子に座るために、足置きをまたぐ必要がある。転ばないかどうか緊張する。それは初めましてのキラキラとした美容師さんの雰囲気に圧倒されているからというのもある。

これまで、おしゃれじゃない美容師さんを見たことがない。髪型も、動きやすくも自分の好きとこだわりが詰め込まれたファッションも、いつ見ても惚れ惚れするのだ。

どうして自分の好きなものをラフにつけているように見えるのに、こんなに統一感が出るのか。しかも、その人単体のコーディネートの統一感だけでなく、なんとなくお店全体のトンマナもある。そんな芸当ができるから、美容師という仕事が勤まるのだろう。

さて、どんな髪型にするのかを伝えなくてはならない。髪型を伝える語彙について、学んだことはこれまでにない。

長さは顎のラインで、重くもなく軽くもなく、切りっぱなしの雰囲気で。インナーカラーはリタッチでブリーチして、カーキの7トーンを。全体は今より少し明るめでアッシュではなくブラウンで、前回4トーンで暗くしたからうまくいかないかもしれないけれど、6トーンくらいで、リスクを考えて頭のてっぺん付近は色を落として染めてください。これは今回してもらった内容だが、これをテキパキいえる人間はいるんだろうか。

少なくともわたしは「顎ラインくらいのボブで(写真見せる)、インナーカラーに緑を…全体はいまより気持ち明るい(別に今のままでも良いが…)感じで…」ともごもご言うことしかできない。

美容師さんも、もっと願望に関する要望を具体的に出してほしいと思っているに違いない。違いないだろう。見せるスマホの画面に指紋があることも、相手に不快に思われていないか不安になる。

装着してもらう

ケープを装着してもらう。装着してもらうと、思ったよりも温かさが増す。このときに「次に美容室に来るときは少し薄着にしよう」と思うのだが、次回に改善できたことは1度もない。

「苦しくないですか」と聞いてもらう。美容師さんはいくらでも苦しくケープを締めることができるんだと気がつく。それどころか、背後でハサミを使うのだ。もし手が狂ったり気がおかしくなってしまわれたり、あるいは故意で悪意をお持ちだったりすると、わたしの命なんて簡単に奪うことができる。

苦しくしないでくれてありがとう、どうか安全にお願いします、この場面で苦しいって言われたことあるんですか?と、善人と臆病人とへりくつと3人格が現れる。無論、弱々しく「はい」と言うしかわたしにはできない。

髪を洗ってもらう

背もたれを傾ける時に、頭を支えてもらうのが申し訳ない気持ちになる。頭が重くないだろうか。もしこの手を急に離されたらと思うと、すこし力を入れてしまうが、そうすると緊張していると思われるんじゃないかと、それもいやだと思うのでどうしたらよいかわからない。

薄い紙を顔にかけてもらう。本当に教えてほしいのだが、この紙をかけられているとき、どのぐらい我々は表情がばれているのだろう。そして、正解を教えてほしいのだが、髪を洗っていただいているときは、目を閉じてていいのか、目を開けておくのが王道なのかどちらなのだろう。

「熱くないですか」「力加減いかがですか」「かゆいところないですか」「気持ち悪いところないですか」「洗いきれていないところないですか」と丁寧に聞いていただく。安心してほしい。美容師さんはプロなのだ。力加減も完璧で、洗い残しもあったことがない。

そして仮に、お湯が熱かったら体が反応するはずであり、美容師さんの手でもわかることのはずで、しかもおそらく手遅れだろう。

もし、どうしてもかゆいところがあった場合、どうやって伝えれば良いのだ。頂点から右にちょっとずれたところ…と言っても、ちょっとで齟齬があるはずだ。しかも頭は球体だ。角のような目印があるわけでもない。わたしには自分のかゆいところを説明する能力がない。

カットしてもらう

美容室で必ず聞かれる「この後どこにいかれるんですか」に対して、どの解像度で話せばいいのかわからない。「韓国料理を食べに」というと、おすすめのお店を教えてもらう。となるとわたしもお店を提示しないと対等ではないんだろうかと思う。でも切ってもらっているから携帯の画面を見てもらうこともできないと思い、無力を感じながら雑誌に目を戻す。

雑誌を取るタイミングも難しい。着席から切り始めのハサミを準備するまでの時間に、前屈みになって雑誌を取るのだ。逃すと「あ、ちょっと雑誌を…」と進行を妨げる行為をしてしまうことになるのだ。

カラーをしてもらう

塗りだしてもらう前に、必ずお手洗いに行きたい。カラー材を置いておいている間、お手洗いに行けないことが怖いし、この頃にはもう来店から1時間は経っている。

お手洗いに行くために店を歩くと、美容師のみなさんから「お疲れ様です」と声をかけていただく。そちらこそであり、そちらだけなのである。なんて答えればよく、どんな顔で歩くべきなんだろう。

再び髪を洗ってもらう

さきほどの問いかけをもう一度繰り返す。「熱くないですか」「力加減いかがですか」「かゆいところないですか」「気持ち悪いところないですか」「洗いきれていないところないですか」と丁寧に聞いていただく。

これらに対し「大丈夫です」と精一杯の良い人感を込めて返答している。でも納得はいっていない。

なぜなら、大丈夫どころではなく完璧なのに、大丈夫という言葉だとただの合格点だと勘違いされていそうだからである。かといって「完璧です」なんて言ったら変なひとだろう。わたしは変な人ではないし、変な人だと思われたくない。

一方で「はい」だけでも良いのではという自分もいるのだが、それはそっけない印象を生みそうだ。迷いながら「大丈夫です」と伝えるのだが、気がつくと「大丈夫です」botになっている。それはそれで、30代の語彙としてどうなんだろうと思う。

ほかのひとはどうしているんだろうと聞きたいが、他人が髪を洗われている様子を見る機会はこれまでにない。

髪を乾かしてもらう

美容師さんの丁寧で繊細な仕事の中で、髪を乾かすときだけは少し乱暴だと思う。それはドライヤーのせいだと思う。あればかりは、どうしてもうるさく、どうしても少し熱いのだ。ドライヤーの技術革新を待つ。

わたしは細髪でクセがすこしある髪質なのだが、どうやら乾かし方にコツがあるらしい。美容師さんが説明しながら実演してくれるのだが、問題は相づちだ。通常の声量ではドライヤーの音にかき消されてしまうだろう。かといって、大声を出して他のお客様の迷惑にもなりたくない。

もう少し切り足してもらう

あらゆる切り方で数ミリずつ調整いただく。この間、おそらく正面を見ていた方が良い気がしているからそうするのだが、鏡の自分と目が合うのがちょっと怖いのと、鏡ばかりみてうぬぼれていると思われるのに抵抗があり、少し視線をそらす。

美容師さんの渾身の微調整のあとに「切り足りないところはありますか」と聞いていただく。そんな細心の微調整後に言えない。

気遣いも多少あるが、どちらかというとどれがベストかなんて自分にはわからないのが言えない理由だ。あと2mmでベストですと、わかる素人はいるんだろうか。美容師さんのベストを尽くしていただけたらそれで大満足なのである。

お支払いする

忘れていたかもしれない財布があったことに安堵する。緊張がとけていく。クーポンを使う際に、せこいやつだと思われたんじゃないかなど、少し心配したりする。

退店する

美容室の扉は重かったりおしゃれだったりするので、スムーズに退店できるかに少し緊張する。お店の外まで美容師さんが出てきてくださると、見えなくなる手前で一応振り返って会釈するものの、そんな時間があるなら次のお客様の来る前までにしっかり休んでほしい。

そして振り返って手を振る仲でもないわたしは何をしたら良いのか。

書き終えてみて

という文を書こうと思ったのも、今の美容室にしばらくずっと通い、特に今回は心地よく、美容室に心地よさを感じたことに驚いたので、慌てて文をしたためている。

髪を洗ってカットに入る前にお手洗いに促してもらったり、雑誌を取るタイミングを作ってもらったり、飲み物も良いタイミングで持ってきていただいたり「かわいく切れました!」とあっけらかんと言ってもらったりなどした。それはそれで返答にはつまったが、うれしい気持ちにはなった。

単にわたしの返答の語彙が少ないだけで、照れ屋なのが問題だ。

またあの美容師さんにお願いしたいと思うのだが、名前を聞きそびれたのと、指名して忙しくさせてしまうのも申し訳ないと思うし、どうしたらよいのだろうか。

1番言いたいことは、髪を洗ってもらうときにどんな顔をしているのか、教えてほしいということだ。美容室での振る舞いかたの正解について、誰かと話をしたい。

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