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Okamoto-senseiの話は本当だった

ちょうど1年くらい前のこと、職場の同僚が「面白い記事を見つけたから」とSNSにリンクを送ってくれた。それはアラブで有名な日本人空手家の人生を追ったノンフィクションの本の紹介記事だった。

『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』
著者:小倉孝保、出版社:KADOKAWA、初版発行:2020年6月26日

普段、空手も他の武道もほとんど興味の外のことなので、どちらかというとアラブの政治とか歴史が絡んだ部分に惹かれて、私はその記事を読んでいた。けれど何か頭の中で囁く声がする。「あれあれ、この岡本秀樹という人は、うちの夫の昔話に登場するOkamoto-senseiのことじゃないの??」

空手家の夫(エルサーディク・オスマン)からは、度々若い頃の話を聞いていたのだが、なんせ語りがアラビア語と英語と日本語のちゃんぽんのうえに、知らないアラブの人名やら役職やら地名が色々出てくる。おまけに夫は年号が苦手でいつの話なのか確かめるのも一苦労。

空手之道世界連盟(KWF) ワールドカップ ノルウェー大会にて。
エルサーディク・オスマンの演武(形、準優勝)。

ちなみに夫に限らず、西暦を使うのが苦手なのは、アラブ人にはよくあることのような気がする。その事実を知った時は少々驚いた。イスラム暦の方が頭の中心に据えられているのか。カレンダーが違うなんて、住んでいる世界が違う感じがする。。。と言っても、夫の口からイスラム暦がポンポン出てくるわけではない。時代の感覚は〇〇の事件があった年…くらいのもので、カレンダーが頭の中にないと言った方が当たっているかも。

脇道に逸れてしまったが、そんなわけで、空手の話を聴きながら空想を膨らませてみても、途中から意識は朦朧。結局これまで、彼の話はセピア色の記念写真に閉じ込められたままという感じだった。背景知識が私になさすぎて、漠然としか理解できてないなぁと、聞き手としては行き詰まりを感じていたのだ。

そのノンフィクションの記事を読んだ日、早速夫に確認してみると、やっぱりそうだった。紹介されていたカイロの武道センターで、当時夫は空手の稽古をしていた。岡本先生の勧めがあったからこそ日本に来ることになったのだという。

その後、私はその本を読み進め、岡本先生が晩年に病を患いながらも「リビアでもっと空手を普及させたい」と語っていたことを知った。リビアは、かつてサーディクが空手の普及と指導に励んだ土地だ。カイロで岡本先生に会うと、サーディクはリビアでの空手の話をしていたという。

2021年にリビアはスルークの街で開催された式典で夫に贈られた盾。当地に空手をもたらし普及に勤めたエルサーディク・オスマンの努力への感謝が表されている。

この本が世に出ることになり、それが私の手元にやってきたとはありがたい。アルハムドリッラー。これを手掛かりに、夫サーディクの話をもう少し真剣に聞いてみようと思い立った次第である。
※2024年1月、写真とコメントを追記しました。

スーダンで空手は大人気。2022年、首都ハルツームの友人の空手クラブでゲスト講師に招かれ指導する夫。女の子も多く「空手が好き!」と稽古に励んでいた。母親たちが差し入れのジュースや手作りお菓子、果物などを準備して見学に来ていて、和気藹々と良い雰囲気のクラブだった。
空手道場のイベントに招かれ指導する夫。スーダン人は農園を貸し切って大勢でピクニックに出かける習慣がある。周りは植物が生い茂る中に鳥小屋があるのどかな雰囲気。稽古後は大きな音で音楽を聴きながらワイワイ料理やお菓子を囲む。ランチ後は子供達のゲームや大人も好きなダンス♪
空手を通して軍や警察関係、国のVIPな方々と接する機会があるということは、岡本先生の本を読んだり、夫の話を聞いたりするまでは、門外漢の私には全く想像がつかなかったことだった。写真は、2022年にマダニという街で空手セミナーを行った時のもの。


スーダンのローカル番組の生放送で空手人生や日本での生活について語る夫
写真真ん中が夫の所属する空手之道世界連盟(KWF)の首席師
収録後に。40分間ほどの思った以上に長い番組だった。
写真左端がKWFスーダン支部長のアズハリー氏
2022年3月に開催された空手之道世界連盟選手権大会。上部にはハルツーム州青少年スポーツ最高評議会(と訳したら良いだろうか?)と書かれている。下部の囲みには大会に参加した道場の名前が並ぶ。ハルツーム以外の州の道場も参加。岡本先生がアラブにもたらした空手が一人のスーダン人の人生を導き、こんなにも多くのスーダンの人の心を動かしてそれぞれの人生の一部となっているのを見ると涙が出る。

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