Okamoto-senseiの話は本当だった
ちょうど1年くらい前のこと、職場の同僚が「面白い記事を見つけたから」とSNSにリンクを送ってくれた。それはアラブで有名な日本人空手家の人生を追ったノンフィクションの本の紹介記事だった。
普段、空手も他の武道もほとんど興味の外のことなので、どちらかというとアラブの政治とか歴史が絡んだ部分に惹かれて、私はその記事を読んでいた。けれど何か頭の中で囁く声がする。「あれあれ、この岡本秀樹という人は、うちの夫の昔話に登場するOkamoto-senseiのことじゃないの??」
空手家の夫(エルサーディク・オスマン)からは、度々若い頃の話を聞いていたのだが、なんせ語りがアラビア語と英語と日本語のちゃんぽんのうえに、知らないアラブの人名やら役職やら地名が色々出てくる。おまけに夫は年号が苦手でいつの話なのか確かめるのも一苦労。
ちなみに夫に限らず、西暦を使うのが苦手なのは、アラブ人にはよくあることのような気がする。その事実を知った時は少々驚いた。イスラム暦の方が頭の中心に据えられているのか。カレンダーが違うなんて、住んでいる世界が違う感じがする。。。と言っても、夫の口からイスラム暦がポンポン出てくるわけではない。時代の感覚は〇〇の事件があった年…くらいのもので、カレンダーが頭の中にないと言った方が当たっているかも。
脇道に逸れてしまったが、そんなわけで、空手の話を聴きながら空想を膨らませてみても、途中から意識は朦朧。結局これまで、彼の話はセピア色の記念写真に閉じ込められたままという感じだった。背景知識が私になさすぎて、漠然としか理解できてないなぁと、聞き手としては行き詰まりを感じていたのだ。
そのノンフィクションの記事を読んだ日、早速夫に確認してみると、やっぱりそうだった。紹介されていたカイロの武道センターで、当時夫は空手の稽古をしていた。岡本先生の勧めがあったからこそ日本に来ることになったのだという。
その後、私はその本を読み進め、岡本先生が晩年に病を患いながらも「リビアでもっと空手を普及させたい」と語っていたことを知った。リビアは、かつてサーディクが空手の普及と指導に励んだ土地だ。カイロで岡本先生に会うと、サーディクはリビアでの空手の話をしていたという。
この本が世に出ることになり、それが私の手元にやってきたとはありがたい。アルハムドリッラー。これを手掛かりに、夫サーディクの話をもう少し真剣に聞いてみようと思い立った次第である。
※2024年1月、写真とコメントを追記しました。