我々は墓までModを持っていくことが出来るのか
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Mod(モッド)はゲームによって開拓された文化だ。
Modによって素のゲーム体験がさらに拡張し、ゲーム自体の評価にプラスされることがある。
さらには、Mod対応できるかどうかというのが発売前に注目され、公式がゲーム内データを提供する事例もある。
一方でModは、言葉を選ばなければ「看過された犯罪」である。
他のゲームのキャラクターをModで登場させても、実際の世界にある銃器をModに登場させても、
Modの使用に対する同一性保持権の侵害に抵触するにもかかわらず、立件されることは少ない。
Modとはピカレスクな存在だ。
文化として容認されるまでの「功」と看過される「罪」が同時に存在している。
ただし、それが永続するという保証はなに一つもない。
本投稿では「Fallout4」に革命を起こした「AnimeRace Nanakochan」Modを「功」の事例として取り上げ、
一方では上記Modによって生まれた萌えニーズと後に続くModの「罪」を比較する。
その上で「罪」の側面へより一歩踏み込み「我々は墓までModを持っていくことが出来るのか」
つまり、Modは文化として永続することが、出来るのか、否か、ということを論考していく。
長いお時間をいただくことになるが、どうぞお付き合いいただきたい。
■前提として
Modのほとんどは「Modコミュニティ」で入手できる。
その中でも最大のModコミュニティの1つが「Nexus Mods(ネクサスモッド)」だ。
このサイトは2021年7月時点で2700万人の登録メンバーがいる。
もともとはTESⅢ:Morrowindのファンサイトとして2001年に設立されたこのNexus Modsは、今では1,000本以上のゲームをサポートしているなど、
Modに興味がある人が真っ先に触れるコミュニティの一つでもある。
そんな「Nexus Mods」の中でも、同じBethesda製の「TES」シリーズや「Fallout」シリーズは豊富なModサポートが整っている。
最もダウンロードしたもの、最も人気なもの、でソートをかけると、そのほとんどがクラッシュに対するパッチだったり、
既存ゲームシステムの拡張、そして外せないのがポルノ関連である。
誰が言ったか定かではないが「技術の発展は戦争とエロである」という言葉がある。
もっともらしく見える理論だが、ことMod文化において、ポルノ無くして盛り上がることはなかっただろう。
生物として抗うことのできない性欲と、非実在であるゲームキャラはこれ以上ないぐらい相性が良かった。
実際にポルノはModの中でも一つのカテゴリであるし、
Mod製作者によっては「おっぱいが無くてもDL数は稼げる」と自身のModページに明言するほど、ポルノとはMod文化の中でも大きな存在なのである。
しかしその価値観がひっくり返るような革命が起きる。
■「萌え」という革命を起こした「AnimeRace Nanakochan」Mod
遡ること2年前。Nexus ModのFallout4ページに彗星のごとく現れたModがある。
それが「AnimeRace Nanakochan」Modである。
製作者の「ひよこ2号」氏が受けた悲劇(※1)をバネに、
ゲーム内に新たな種族を追加した本Modは、発売から4年経過したFallout4に革命を起こした。
それはなぜか
一部Modderの中で重視される「ロアフレンドリー」とは程遠いアニメ顔追加Modだったからだ。
※ロアフレンドリー……ゲーム本編の世界観から近しいMod。
核による最終戦争後、汚れたアポカリプスの世界には絶対に合わないにも拘わらず本Modは人気を博した。
人気の要因は2つある。
1つ目はロアフレンドリーではないからこそ、既存のユーザー外にも刺さったことだ。
これは完成度の高さ、それに基づく普遍的な萌えを造形化したことが前提にあったこと、
あまりにも異質かつ、画面映えするために本Modを取り上げるゲームメディアがいたことが、新たなニーズを創出することになった。
2つ目は「Fallout4」だったからである。
今までTESシリーズやFalloutシリーズには、プレイヤーのロールプレイ体験を向上するため、
主人公が発声するということはなかった。(例外中の例外として自分の脳に「俺を何だと思ってるんだ」と言われることはあったが)
しかしFallout4では主人公に親という属性が強制的に付与され、なんと日本語吹き替えも完備でフルボイスで喋ってくれる。
今まで自分の選択によって物語を紡ぐFalloutシリーズだったが、
Fallout4は主人公にキャラクター性があるような、もっと突き詰めるとDetroid:Become Humanのようにインタラクティブな映像作品に近い、異質な作品に仕上がっている。
今までのFalloutのような、自分がそっくりそのまま冒険に出るRPGではこのModは成立しえなかった。
Fallout4という、自分の生み出したパパママが冒険に出るという一歩引いたデザインだからこそ「萌え」というキャラクター性が成立したのだ。
■ポルノと「AnimeRace Nanakochan」Mod
しかしこのModを公開に踏み切ったのはかなり危ういものであったことにも触れておく必要がある。
なぜならばMod文化にはポルノが切っても切り離せないからだ。
前述したように、Nexus Modの看板でもあるSkyrimや、Fallout4にはセックスModが存在する。
また、セックスまで行かなくても「CBBE」というボディーリシェード系Modは大体下着を除去してヌードになる。
そういったポルノModが転がっているNexus Modに「萌え」Modを投稿するのはいろいろと問題がある。
準児童ポルノとして標的になる可能性があるからだ。
前論で「プレイヤーは親という属性がある」と述べているが、別に親だからって対象外ではない。
児童という言葉は広義的には18歳以下を指す。18歳以下で親であるという可能性が0とは言い切れない。
また、これも組み合わせの問題ともいえるが、「Start Me Up」というModによって、
親という属性を捨てて、まったく別の背景を持つキャラクターとしてゲームを進めることも出来る。
こじつけであるように思えるが、リスクに当たらないと軽視出来るものでもない。
そして、準児童ポルノという面からみて本Modは反論が出来る根拠を持ち合わせていないのだ。
そこで製作者の「ひよこ2号」氏はModの説明ページにハッキリと以下の文面を記載した。
本Modにおける禁止事項である。
「Nexus Mods」における「アダルト」カテゴリのメディア投稿禁止。
これはまず、全世界からアクセスが出来るNexus Modsで禁止であることを明確にして、準児童ポルノに対するリスクヘッジをしつつも、
それ以外の媒体に関しては言及しないことから、ユーザーには自己責任の上での自由を担保しているように読み砕くことが出来る。
Mod文化という自由と、萌えやポルノに対する制限の合間を縫うギリギリラインでの文面なのだ。
もちろんリスクヘッジは禁止事項だけで留まっているわけではない。
本Modは前述した「CBBE」に対応していないのだ。
明確に言えば、本Mod単体では「CBBE」との互換性がないため服を脱いでもボディテクスチャがバグる。
Modを導入していないバニラ体系。下着を着用している体系しか対応していない。
これによって、安易にアダルトコンテンツにアクセスできないようにしているのだ。
ちなみに、本Modの製作者とは全く関係ない別のクリエイターが「CBBE対応パッチ」をNexus Modsに投稿している。
しかしヌードは無しである。というかヌードメッシュのあるパッチも存在していたが削除されている。
本Modは単体でのリスクヘッジもさることながら、周りを取り巻くユーザー、Modderのリスクヘッジといった環境も合わせて素晴らしいものだ。
すべての関係が大本のModに対するリスペクトと、そして禁止事項の文脈を読み解き違わず行動することによって、
2年経過した今この時も「AnimeRace Nanakochan」Modは存在し続けることが出来るのだ。
「AnimeRace Nanakochan」ModはFallout4において「萌え」というニーズを創出した革命的な作品である。
しかしその革命はクリエイターだけではなく、ユーザー各位の道徳によって成立することが出来た。
発売から年数がたったゲームでさえも、ゲーム体験を拡張し、新たな価値を生み出すことができる。
そして奇跡的に、今まで見向きもしなかったユーザー層でさえも取り込んでしまう可能性を秘めている。
これこそがMod文化が容認される「功」なのだ。
だが、すべてのクリエイターがそうあるわけではない。
本Modによって創出された「萌え」と「アニメMod」という新たな価値は、
新たなクリエイターによって、Mod自体を混沌へと突き落としかけている。
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