渋谷と茨城、2連勝のために必要だったこと

11月10日(日)、第8節GAME2の茨城VS渋谷は、渋谷が前日の敗戦から見事バウンスバック、29点差の完勝を果たしました。

「渋谷がGAME1の内容から対策して、地力で上回った」

というのは間違いないのですが、数字と1個1個のプレーからその内容を紐解きます。

この記事を軽く読んでいただけると色々わかりやすいかもしれませんね。

そして、さらなる改善として「2連勝」するための課題は何か?まで見ていきましょう。


数字で見るGAME2の変化

渋谷が完勝しましたが渋谷のシューティングスタッツは以下の通りとなっており、

GAME1:2pt  50.0%(40本中20本成功) 3pt 39.4%(23本中9本成功) FT 15本献上→80失点
GAME2:2pt 54.9%(51本中28本成功)  3pt 30.0%(20本中6本成功)FT11本献上→83失点

と大きく変わっていません。

一方で変わったのは茨城のオフェンスです。細かい数字を見るまでもなく、30点も得点が減っています。
ここには3つの要因が重なっています。

①渋谷のターンオーバー減少
GAME1 ターンオーバー数 16 そこからの失点 20
GAME2 ターンオーバー数 8  そこからの失点 5

②渋谷のディフェンス変更
これは後で詳述します。

③スリーが入らない

GAME1 24本中9本成功 37.5%
GAME2 22本中5本成功 22.7%
と大きく下がりました。

特に中村・フランクスの合わせて0/8が大きく響いています。これを抜いて考えると、14本中5本成功の35.7%と平均的な数字です。
ただ、彼らが外したというよりも、そのうち4本がかなりタイトなタフスリーです。

フランクスと中村のスリーの内訳

また、今シーズンのフランクスはスリーの確率が28.2%とそこまで良くありません。昨シーズンは38.7%と高確率なので、苦手なわけではないかもしれませんが、この確率なら「撃たせてもいい」選手になります。

なので、そこに誘導した②渋谷のディフェンス変更が奏功したと言えるでしょう。

プレーで見る変化

では、この数字の変化を引き起こしたプレーはどのようなものでしょうか?

GAME1、茨城のミスマッチアタック&ハードショーディフェンスに苦労した渋谷は、特にディフェンスにおいてやることを明確に変えました。

また、オフェンスでも狙いを外すために違うプレイコールを取り込むことで、ターンオーバーを減らし、効果的に得点を狙ったことが結果にも繋がっています。

一方で茨城も、特にオフェンス面で新しいアイデアを取り入れる一方で、それでも対応されてしまうため「個人技勝負」のシーンが増えていきました。そこでは検討したものの、やはり限度がありましたね。
それぞれ詳しく見ていきましょう。

この試合で見られた渋谷の「GAME1とは違うアイデア」

オフェンス:スペインピック

スペインピックとは、スクリーンをかけた選手にもう1回スクリーンをかけるやり方です。次のプレーをご覧ください。

ホーキンソンがいつも通り、スクリーンをかけます。
この後、反転してゴール方向に全力ダッシュ
すると、今度はゴールにダッシュするホーキンソンのマークマン、フロイドに
田中がスクリーン。
ここで、クレモンズのマークマンの鶴巻も含めて一気に動きを制限します
抜き去ったクレモンズ。最終的にはファウルも受けてバスケットカウントです

こんなこともできたのか渋谷、というプレイでした。HCチャレンジによるインターバル明けなので、明確にスタッフ陣からの指示で出されたプレイです。

オフェンス:ゴール方向へのカッティング

渋谷は基本的に、トップ付近でピックが発生するとコーナーに選手を配置しますが、この選手が動きません。
このプレイを見ても、右コーナーの船生を捨てて平尾はスティールに走ってますが、船生はコーナーから動いていません。何かしらのアクションを起こせば確実にフリーになれます。
例えば、ゴール方向またはハイポストへのカッティングです。

なんと、その船生が見事に船生が実践してくれました。

向こう側のウィングでボールを持つジョーンズ。
ここで船生のマークマンの長谷川が船生を捨ててマークに行きます
ここで船生はコーナーに待機するのではなくてゴール方向にカッティング
ゴール近くでボールを持ちます。
こうすると、長谷川がマークに戻ろうとしても間に合いませんし、すぐシュートに行きやすいです
そして、逆側のコーナーのクレモンズにパスが出しやすくなります
実際、、船生はクレモンズにアシストパス。
見事にクレモンズがコーナースリーを沈めました。

オフェンス:オフボールスクリーン

スクリーンはボールマンに対してかけられることが多いですが、それだけではありません。ボールマン以外のプレイヤー=オフボールのプレイヤーにかけるオフボールスクリーンというものも存在します。
実際に見ていきましょう。

奥でクレモンズがドライブを狙います。
そこで手前側で黄色4番のトロイのマークマン、
遠藤に対して、ホーキンソンがスクリーンを準備します


完全にスクリーンがかかり、手前のウィングでトロイがフリーでボールを受け取ります
それではまずいのでフロイドが出てきて、スイッチした形です
そうすると、ホーキンソンに遠藤がマッチアップする形になり
このミスマッチをジョーンズが利用してポイントをゲットします

ハードショーは、オンボールスクリーンに対するディフェンス策なのでオフボールスクリーンには当然ながら無効です。意識の外からきたため、遠藤とフロイドも対応できませんでした。

オフェンス:スクリーンフェイク

スクリーンフェイクは、スクリーンをかけると見せかけてやめるプレイです。狙いを外されてディフェンスは困惑します。

ジョーンズがスクリーンをかけると見せかけますが
しっかりかけずに、逆サイドに流れます
マークマンの中村は、スクリーンをかけられて、フランクスのハードショーが来ると予想していたので完全に後追いです。
一方で、ジョーンズのマークマンのフランクスはジョーンズを追って田中とは離れていきます


田中がガラ空きになったため鶴巻がヘルプに出ますが、
そこで鶴巻がマークしていたクレモンズにパス。
見事にクレモンズが射抜きます

オフェンス:1on1アタック

実はこれが一番勝ち筋があると踏んでます。ルカは多分やりませんが。
能力だけを見ると、渋谷の選手は茨城の選手よりも高いです。
実際、1on1を仕掛けたシーンでは渋谷の選手が勝ってます。

と、これも期待していた1on1ですが、かなり多く仕掛けてくれました。しかも得点に直結しています。

まずはベンドラメ。

1Q 残り6:00 トップでボールを持つベンドラメが、スクリーンを使わずあえて逆側に行きます
マークマンの長谷川はスクリーンを予想していたので対応できず
ホーキンソンへのアシストでフィニッシュです

続いてクレモンズ。

2Q残り5.2秒という時間がない中でボールを持ち、
スクリーンを使っている時間がないので1on1
普通に遠藤を抜いて、ホーキンソンにアシストパスです

最後に、ケビン・ジョーンズ。

ごくごく普通にジョーンズがタプスコットに1on1。フックを決め切ります。

ディフェンス:スイッチしないようにファイトオーバー

やはり、スクリーンに対してはファイトオーバーを基本的に選択してきました。それはゲーム開始1分で明らかになります。

奥でボールを持つ長谷川。ここにタプスコットがスクリーンをかけます
マークマンはベンドラメです
これをスイッチせず、スクリーンの間を抜けようとします(間というより後追いになってしまっていますが)
結果、スイッチせず並走することに成功します
(結局、長谷川が上手くて決められてしまうのですが)

このシーンだけではなく、基本的にファイトオーバーで対応していました。
そして、なんならボールを持たれる前からガンガン体をぶつけて対応していましたね。

ディフェンス:ミスマッチを攻められそうになったら3人目がパスカット

これは田中が2本やってました。おそらく、田中の個人戦術です。

白11番タプスコットのスクリーンに、ボールを持つ長谷川のマークマンである
ベンドラメがかかってしまいます。
その結果、スイッチが起きて、タプスコットにベンドラメがマッチアップする
ミスマッチが発生します。そこで、白3番長谷川はタプスコットにパスを入れようとしますが
そのときには田中がタプスコットの後ろからスティールに走っていました(見事成功)

ディフェンス:ミスマッチにボールが入ったらダブルチームからのローテーション

手前側でフランクスがボールを持ちます
マークマンはトロイなのでミスマッチです
ここで、トロイは明確にエンドライン沿いにいかせようと、内側に立って方向づけしています
実際、ホーキンソンがエンドライン沿いからダブルチームにきて押さえ込みます。

このシーンは、結局駒沢に決められるのですが、昨日はこのディフェンスができていなかったトロイができるようになっているので、明らかに昨日からの修正です

なお、本当はホーキンソンはダブルチームをもう少し待ってもよかったです。ドリブルしてきたらダブルチームの形。


このように多くの別の手を使ってきた渋谷ですが、実は
・スペインピック
・ファイトオーバー
・ダブルチーム
以外はチームとしてのルールのもとしていない可能性があります。どれも数が少ないですし、再現性が薄いので、属人的なもの or たまたまの可能性が強いのかなと思っています。

この試合で見られた茨城の「GAME1とは違うアイデア」

オフェンス:オフボールスクリーン

実は茨城、開始最初のプレイでオフボールスクリーンを使います。これは明らかに意図的。
「渋谷はオンボールスクリーンに対応してくるはず」という予想から、オフボールスクリーンを使ってきたとしたら本当にすごい柔軟性と準備だなと思います。

トップでボールを持つ中村。その近くで、白3番の長谷川のマークマンであるベンドラメに対して
タプスコットがスクリンーんをかけます。


その結果、ボールを持った時点でベンドラメはすでに後追いです。
有利な条件でドライブを開始します。
そのまま長谷川はフローターまで持っていきました。
シュートは外れましたが決まっていておかしくないプレイです。

オフェンス:ゴール方向へのカッティング

しかし、渋谷はオフボールスクリーンにも対応してきます。
そこで、今日も今日とて、鶴巻先生がまた別のバリエーションを見せてくれました。

コーナーにいる鶴巻のディフェンスのクレモンズにフランクスがオフボールスクリーンを狙います。
ただ、これを読んだクレモンズは、スクリーン側に体を入れて鶴巻がスクリーンを使うのを防ごうとしますが、これを見た鶴巻はバックカット(ディフェンスの背中をとってゴール方向に走るプレイ)を選択。
見事にフリーのゴール下につなげました。

オフェンス:スクリーンフェイク

このアリウーププレイ、実はスクリーンフェイクです。
フロイトが長谷川のマークマンにスクリーンをかけるフリをして、猛然とゴール方向にダッシュ。そこに長谷川が良いパスを供給しました。

ディフェンス:特になし

茨城は、これが最大の弱みとなりました。

ただし、これらが通じるのは「茨城が同じ作戦できた」場合です。
茨城は、この試合でも途中からハードショーディフェンスを見せ、スイッチディフェンスへのミスマッチアタックを増やすなど、試合の中で対応を変える柔軟性があります。素晴らしい。
また、レビュー記事で紹介した通り、平尾・鶴巻あたりは相手のプレーを見て最適なプレーを選択できるタイプの選手です。
「これをする」と決め切っていると、渋谷はまた別の作戦にハマる可能性があります。

このように前の記事で語っていましたが、特にディフェンスに関しては同じ作戦できてくれました。

ショーディフェンスはうまくいっているのですが、そこの狙いを外されたときの策がなく、ずるずる言ってしまった形です。
シンプルに考えると、ゾーンディフェンスなどの選択肢は持っていても良かったのかなと思います。

茨城の個人技勝負

オフェンスで苦労した茨城は個人技の出番が増えました。
ここで躍動した選手がいたことは好材料と言える一方で、一つの「限界」を指しているように見えます。

①フロイド

完全にチームを救っていたフロイド。
スイッチをしないディフェンスによって、タプスコットが無効化され、点差が離れる中、茨城HCのクリスは早い段階でフロイドを投入しました。
すると
・ハードショー
・ディフレクション(スティールに行かないまでも相手のボールを触ってオフェンスの邪魔をするプレー)
・インサイドアタックの得点
と躍動します。実はインサイドアタックに対して強さがないホーキンソンに対して完全に1on1で優位に立っていました。

ただ、頑張りすぎたフロイド。
2Q以降は足がついていかなくなり、ショーディフェンスができなくなるケースも目立ちました。
それだけ、攻守ともにフロイドの出来に依存していたということでもあります。

②長谷川

渋谷は、誰も長谷川を止められません。
スピード・シュートの両方がありつつ、相手を見てプレーを選択できる長谷川は「ストロングスタイル」の渋谷とは非常に相性が悪い相手でしたね。

2pt 42.9%(7本中3本成功) 
3pt 60%(5本中3本成功)
5アシスト
1ターンオーバー

と非常に素晴らしい出来です。ここまでボールを持ちながら、1ターンオーバーというのが素晴らしい。

以下のプレーも、あえてスクリーンの逆を行ってマークマンのトロイの逆を着きました。本当にハートとインテリジェンスを兼ね備えた素晴らしい選手です。

③駒沢

昨日も何故か後半にプレイタイムを失った駒沢。
ガードの中で、チームプレイから逸脱した唯一の選手であり、そこが扱いにくさである一方、相手としても予測しにくく、止めにくい選手です。
短い時間の中で個人技で得点をとっていきました。

おそらく、ディフェンス面での不安が大きいと考えられますが、改善してもっとプレイタイムを得て欲しいところです。
他のガードとはタイプが違うだけに貴重な選手です。

茨城は2連勝するために何が必要だったか?

オフェンス

選択肢は2つです。
①もっと多くのオフェンスバリエーションを持つ
②個人技勝負で得点できるようにする

「個人技」というと忌避されがちですが、実は個人技勝負はターンオーバーが減り、リスクが少ないですし、ダブルチームなどがない限りは相手のディフェンス戦術に関わらず通用します。なので、「戦術」として個人技を取り込むことは1つの作戦です。

一方で、選手の能力に完全に依存するのが個人技勝負です。
現実的に考えて、個人技が秀でたタイプは少ない茨城が、②の方向性で進ことは、選手に無理なステップアップを求めることになりかねません。まずとられない方向性でしょう。

となると、①がベターな選択肢となります。

相手が優れたチームでも正しい戦術でオフェンスを展開すれば、GAME1のように大量得点が可能です。
GAME2でも、上で紹介したプレーは有効に機能していました。
ただ、それが
・個人の判断でプレーをしている(主に平尾と鶴巻)
・タイムアウトやインターバル後にコーチ陣の指示を受けて展開している
のどちらかになっています。

・40分を通して
・選手たち自身の判断で
・チームとして
・相手のプレーを見ながら
・数あるバリエーションの中から有効なオフェンスを展開する

というのが茨城の目指す理想系です。
実際、HCは様々な戦術を試すタイプのように見えるのでコーチ陣との方向性とも一致しています。

そして、そのオフェンスはおそらくどんなチームよりも美しく、ワクワクするものになるはず。その完成が楽しみです。

ディフェンス

主に2つあります。

①継続性


実は、ハードショーはGAME2でも渋谷には効いていました。長谷川のスティールに繋がったシーンもありましたね。しかも、後半。

ただ、どうやら、フロイドが出てくるまでされていなかったように、タプスコットとフランクスはそこまでハードショーに積極的ではありません。
そして、フロイドは体力の問題でこのディフェンスができなくなっていました。
いかに継続的にこのディフェンスができるか、は注目ポイントです。

②他のディフェンス戦術

先述の通り、ハードショー以外がなかった茨城。
他のディフェンス戦術を構築することが求められます。
言ってしまうと、こちらもオフェンスと同様「バリエーション」が欲しい。

渋谷は2連勝するために何が必要だったか?

一言で終わりですが、試合中の修正力です。
京都戦と茨城戦、全く同じ経過を辿っています。

この2節の共通点として

・得点力はあるがディフェンスに難があるチームに
・第1節は点の取り合いで敗れる
・特にインサイドプレイヤーと日本人エース相手に多く失点
└VS京都GAME1:カロイアロ 26得点 岡田 22得点
└VS茨城GAME1:タプスコット 31得点  長谷川 15得点
・第2戦は修正してインサイドプレイヤーを抑えてディフェンスで勝利
└VS京都GAME2:カロイアロ 3得点 岡田 14得点
└VS茨城GAME2:タプスコット 12得点  長谷川 15得点

という全く同じ展開です。
GAME2でバウンスバックできるのは素晴らしいのですが、「それだけ修正できるならGAME1の試合中にしてくれよ」といいたくなってしまいます。

自分たちの強みを打ち出す「超ストロングスタイル」な渋谷。
選手もコーチ陣も、「試合中の修正」という意識が弱く見えるため、そもそもそちらに舵を切るかも微妙です。

以前記事で書いた通り「選手のステップアップ」が求められる可能性の方が高いですが、やはり試合中に修正して2連勝する渋谷が見たいと切に思います。

まとめ

両チームとも、いいところも課題も明確になった2試合。
それぞれ1勝を積み重ねた以上に、この「明確になった課題」が最高の収穫のようにも思えます。
これをバイウィークで解消して成長していけるかが、後半戦の大きな鍵になることは間違いありません。

バイウィーク明け、渋谷は宇都宮との対戦。今シーズン初めて、勝ち越しチームとの対戦です。選手の質が高い相手にルカバスケが成功するのか。スクリーンに対して2人で襲いかかる「ブリッツディフェンス」を得意とするだけに、渋谷の真価が問われる一戦になりそうです。

一方の茨城は大阪。また渋谷とは異なりガンガン1on1ベースで仕掛けてくるチームです。個人技で対抗するのか、それともチーム戦術で絡めとるのか。こちらも、この2試合で得た課題への「答え」が見れそうですね。

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