千葉ジェッツと三遠ネオフェニックス〜大野HCから学ぶファンタスティックなチームの作り方〜
昨シーズン、大躍進を見せ、今年度も快調な三遠ネオフェニックス。
その立役者の1人に、22-23シーズンから指揮を取る大野HCがいることは間違いありません。
さて、大野HCは、千葉ジェッツで天皇杯を2度取り、悲願の優勝も果たしたという、千葉ジェッツのイメージも強いコーチです。
この大野HCが率いていた時代の千葉と今の三遠には、多くの共通点が見られます。
両チームとも、今や押しも押されぬ人気チームですが、その裏には1つのファンタスティックなチームスタイルがあります。
そのポイントとはなんなのか?
実際に大野HC最終年の21-22シーズンの千葉と24-25シーズンの三遠を比べてみましょう。
①スーパーなガードを用意します
そもそもこの企画を思いついた背景は別の企画の検証で、今シーズンの現時点でスーパーなポイントガードを列挙していました。
「スーパーなポイントガード」の定義として
・アシスト5本以上
・AS/TO ratioが3以上
の選手を抽出しました。
すると該当したのは
・佐々木隆成(三遠)
・齋藤拓実(名古屋D)
・テーブス海(A東京)
・富樫勇樹(千葉J)
・大浦颯太(三遠)
の5人のみです。
この中で、齋藤・テーブス・富樫は日本代表の常連・経験者ですが、佐々木・大浦は違います。明らかに大野バスケの特徴の中で成長していると言っていいでしょう。
さらに、スコアリングに関しても、この2人は素晴らしい数字を残しています。
佐々木 平均得点 8.3点 2pt% 57.1% 3pt% 27.8% (アシスト7.3 リーグ1位)
大浦 平均得点 11.4点 2pt% 56.0% 3pt% 39.7% (アシスト5.1 リーグ10位)
佐々木はスリーの確率をもう少しあげたいですが、両者ともスコアリングをしながら、アシストを量産していることがわかります。
では、21-22シーズンの千葉ジェッツで、この2人のようなスーパーなポイントガードとして誰が該当したかというと、もちろん富樫勇樹です。
富樫 平均得点 13.4点 2pt% 50.5% 3pt% 31.8% (アシスト6.4 リーグ1位)
素晴らしい数字ですが、数字だけで見ると、佐々木・大浦も劣っていないことがわかります。
このように、自分で得点・アシストをすることでゲームを作っていくプレイヤーが大野バスケの絶対的な中心となるのです。
ちなみに、富樫は元々有望株でしたが、佐々木は3シーズン前まではB2にいた選手ですし、大浦は三遠にくる直前の22-23シーズンでは
平均得点 5.0点 2pt% 45.1.5% 3pt% 34.7% (アシスト1.6)
と全くオフェンスに強みがある選手ではなく、ディフェンダーという評価でした。
これをここまで、オフェンシブなプレイヤーに改造してしまうのは間違いなく大野HCの手腕と言っていいでしょう。
②フィジカルでインサイドも守れるウィングを用意します
24-25三遠 デイビット=ヌワバ・津屋一球・吉井裕鷹
21-22千葉 原修太・佐藤卓磨・クリストファー=スミス
この3人セットで、2人ずつ出る形でローテーションしていきます。
彼らの共通点は「インサイドの強さ」です。数字でわかりやすいので、オフェンス面から見ていきましょう。
インサイドのオフェンス
下に、24-25シーズン三遠と21-22シーズン千葉のウィングプレイヤーのシュートチャートを乗せています。
注目するべきは、赤く塗られた「ゴール下」での決定力です。
津屋はアテンプトが少ないものの、全員が50%を超えています。
また、吉井の83.3%が最も高い数字になっており、スミス・原・ヌワバも素晴らしい数字です。
どのくらい素晴らしいかわかって欲しいので、比較として他チームの選手の今シーズンの数字を下に出します。ウィングの選手を割とランダムに出しているので人選は適当です。
ご覧の通り、インサイド寄りの外国籍ウィングでもレイマンが80.7%と実質最大値で、60%台まで余裕で落ちます。
ましてや日本人だと、大学でインサイドを制圧していた佐渡原でも50%を超えるのがやっとです。アウトサイドタイプの西田・金近だと、40%台まで落ちます。
そうすると、吉井の80%台の異常さが見て取れますね。
インサイド/アウトサイドのディフェンス
これはデータ化が難しいところです。
ただ、試合を見ればわかりますが、これらの選手はガンガン外国籍選手とマッチアップしていきますし、スイッチも辞さないです。日本代表選手がほとんど+外国籍選手なので、そうでないと困るのですが、最近原なんかは、むしろスイッチして外国籍選手にマッチアップしたがっている様に見えます。
津屋は昨年渋谷でディフェンダーとして開花し、今シーズンは東京のメインデルにマッチアップするなど完全にスーパーディフェンダーと化しました。
①で見たスーパーなガードたちはアウトサイドのディフェンスは悪くないですが、体格に劣るためどうしてもインサイドで狙われます。ウィングの選手にはそれを補って余りあるディフェンス力が求められているのでしょう。
そしてもちろんアウトサイドのディフェンスも求められますし、その点も特に不安な選手はいません。
アウトサイドのオフェンス
3ポイントの確率を見ていきましょう。
ヌワバ:34.3%
吉井:55.2%
津屋:42.1%
原:30.3%
スミス:40.2%
佐藤:43.0%
スリーはは30%が最低ライン、35%がまぁまぁ、40%優秀なシューターという感覚なので、高確率なシューターを揃えていると言っていいと思います。というか吉井やばすぎ。
津屋・佐藤はそれぞれ、インサイドで50%台と特別高くはなかったですが、アウトサイドのオフェンスで素晴らしい働きをしています。
また、インサイドが強くてアウトサイドが微妙なヌワバ・原
インサイドもアウトサイドも高確率な吉井・スミスという構成もそっくりです。
「シュート力」という観点でトータルはすでに三遠の3人が上回っているように思えますね。
この様に、アウトサイド・インサイドともに戦えてフィニッシュできるウィングを集めるのが大野流です。
では、逆に何が求められていないのか?というと、自分からドライブしてオフェンスを作る「クリエイト能力」になります。ここはスーパーなポイントガードたちに丸投げ。
例えば、西田優大・比江島のようなガンガン仕掛けられるウィングプレイヤーは素晴らしい選手ですがそこまで求められないでしょう。
③インサイドで体を張れるセンタープレイヤーを用意します
24-25三遠 ヤンテ=メイテン・デイビット=タジンスキー・ウィアイムス=ニカ
21-22千葉 ジョン=ムーニー・ジョシュ=ダンカン・ギャビン=エドワーズ
ここもこの3人セットでローテーションしていきます。
ただ、実はこの3人セットはそこまで共通点はありません。
敷いてあげるなら、インサイドでしっかりと体を張れる、という部分になります。
インサイドでの確率を見てみると、メイテンが69.8%と惜しくも70%を下回るものの、それを除けばすべての選手が70%台の数字を出す決定力を持っています。
といっても、このポジションは、21-22の千葉がスーパーすぎて少し24-25三遠が見劣りしてしまうのが正直なところです。
リバウンド数の差
3人合わせたリバウンド数が
24-25三遠→15.6
21-22千葉→24.4
と、リバウンド数では大きく差がついています。
なお、このインサイドの差を埋めているのがヌワバ・吉井のスーパーウィングコンビです。2人で合わせて10程度のリバウンドを稼ぎ、他のチームメイトの助けもあって三遠のリバウンド数はリーグ4位と非常に高水準です。
アウトサイドの精度
スリーポイントの確率を見てみると、
メイテン 15.4%
タジンスキー 22.2%
ニカ 試投なし
ムーニー 36.4%
ダンカン 50.6%
エドワーズ 37.9
と太刀打ちできません。本当にスーパーすぎた当時の千葉のインサイドです。
と、どうしても21-22千葉のインサイドが目立ってしまいますが、共通するのは体を張れることです。
インサイドの選手であってもドライブができたりと器用な一方、体を張れないタイプの選手は意外と多くいますが、この両チームにはそれがありません。
これはウィングで見たときと同じように、ガードが小さくてインサイドが弱い分、それを補う必要があるからです。
また、ガードに対してスクリーンをかけるのも重要な役割であるため、フィジカル的に弱い選手は必要とされてないのでしょう。
まとめ:それぞれの役割を明確にします
おそらく、このような基準から選ばれ、集められている選手たち。
集めた後、大野HCはそれぞれに役割を明確に与え、それを叶えられるように訓練していきます。
原はディフェンス力が明らかに向上しましたし、吉井・津屋は逆にスリーポイントの確率で大きく成長しました。また、スーパーなポイントガードたちもそれぞれで成長をとげ、佐々木は代表候補に選ばれています。
21-22千葉と比較すると
・スーパーなポイントガードの枚数
・ウィングの決定力
という面で現時点では上回りながら、
・3人のインサイドの能力
で大きく水を開けられている形の三遠。
全く同じチームを作るのは不可能な中で、大野HCがこのあとはどんなチューニングを施してくれるのか。
スーパーなポイントガードたちを中心に織りなされるファンタスティックなバスケにこれからも注目です。
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