コロナ禍の人材育成部門のリアルを書いてみた
「今年も一年早かったねえ」
「年々一年を早く感じるよね」
「えっ!?もう今年って終わりなの??」
毎年、道を歩けば出会えるくらいに、繰り広げられている会話な気がします。それは、今年も例に漏れません。会話だけ見てしまえば、いつもと変わらない12月をむかえています。この2020年は、例年とはまったく異なる1年であったにも関わらず。
さて、おはようございます、こんにちわ、こんばんわ。WSDアドベントカレンダー5日目担当の増田(まっすん)です。WSDとは青学ワークショップデザイナー育成プログラムというもので、ワークショップの「プログラムデザイン」と「ファシリテーション」を学ぶプログラムです。僕はそこの25期修了生です。
※なんとなく白黒にしてみた(25期集合写真)2017.8
今、僕は目下のところ、インフラ企業の人材育成部門で働いている。新卒で求人広告会社で働いたのち、転職をして、とあるグループの人事戦略子会社の社員で、お客さまに研修サービスを提供する企画・営業職、簡単にいうと「企業」と「講師」をつなぐようなことをしていた。入社して10年近くが経った2018年4月に、出向で親会社への人材育成部門に異動となり、現在に至っている。
今のところでは、主に研修を1つのツールとして自社の人材育成に関するお仕事をしている。研修以外にも、対話会、発表会やイベント、色々な改善活動や、留学関係などなど色々な手段を講じている。ただ、研修実務(講師との調整、連絡事項作成、名簿等研修当日の資料作成、研修当日の準備・運営・撤収等)に関するところは、出身元の人事戦略子会社が担っており、どちらかといえば大枠を決めるという役割を担っている。
転職してからの12年は、一貫して「人」に関する仕事はしているものの、まさか出向とか経験するなんて思ってもいなかったし、今となっては(3年くらい前に決めた)、自分の生涯かけて「人と組織の可能性を解放する」ことを仕事にしていくと決めるだなんてまったく思って思いなかった。まあ、キャリアというのは本当によくわからんものです。
しかし、まあ、今年は本当に色んなことがありました。主にコロナに端を発するものばかりだけど…。組織規模が数万となる大きい企業の人材育成部門ではどんな奮闘がなされていたのか、これを機に振り返ってみたいなと思い、noteをしたためています。
ここからは、ワークショップデザイナーというメガネで企業内で起きていたことを見ていこうと思います。
前提として、自分自身が思う「企業研修とワークショップ」とは
企業研修には、色んな種類の研修がある。ただ、どの外部講師の方も口を揃えて、「今日はいつもと違ってみなさんが主役の研修です。ワークなどを中心に展開して、私がしゃべる時間は少ないです」といったことをよくお話しされる。他の会社ではどうなんでしょう。少なくとも、弊社では社内の人間が講義をするような場面も多いので、確かにインプット型が多いのも事実かも。
それはさておき、こうした講師の発言からも見て取れるように、外部講師が担っている研修は、相互コミュニケーションが発生し、場に主体的に参画をするような仕掛けが多く盛り込まれている。
そういう意味では、企業研修においては、ワークショップの性質をもった形式のものが多い。参加者間でのコミュニケーションは必ずといっていいほどあるし、共にワークに取り組むし、ワークしたあとに振り返るし。なので、企業研修の手段の一つにワークショップ型というものがあり、実際のところ、そういうものが多くない?と思っている。
そうした前提はさておき。ここから3月ごろに時計の針を戻していこうと思う。
3月~5月は中止と延期のラッシュ
そんなわけで、どんな1年が起きていたのかを振り返っていこうと思う。3月になるともう、コロナの勢いは増していて、3月から5月は予定していた研修が中止もしくは延期になっていくという時期だった。例年、2月の終わりごろからは実際には研修実施場面は少なく、次年度の設計や、新入社員研修の対応をしている頃だった。
3月初旬には500人規模の大型のイベントの担当もしており、さすがにそれは投資予定の大きな会場で、大幅な規模縮小(30名規模)で実施をしたり。
新入社員研修のオンライン化への移行には時間がかかった。対応は後手後手になったのも事実だ。最後の最後まで、あくまでも気を付けつつ実施する方向で考えていたものが、あるときを境に一気に風向きが変わった。
ここからはある意味激動の日々が始まることになる。ちょうどこのころはコロナの猛威もすごかったので、テレワーク体制もとりはじめているころでもあり、まだそこまでのテレワーク体制がしやすい環境でもなかったので、交代制で出たりと工夫しながらの仕事だった。
日々、起きることへの対処に追われ、一度決めたことも、広いエリアにまたがっていることもあり、エリアによっては状況が違い、非難を受けることも。「良かれと思っての判断が裏目に出る」こともあった。
このころは、意思決定の難しさを感じる日々だった。全体を見ながらの判断をしても、必ずどこかからは非難を受ける。一部、実態に合わないということも。見通しの甘さ、見えていない部分の多さなど難しさはあったが、いずれにせよ、このときは、一度決めたことでも固執せずに、状況によってどんどん更新していくことが大事だと思いながら進めていた。新入社員研修以外は、なんとかして実施に向けて手段を探すというよりは、「まずは中止」「まずは延期」という発想で、急場凌ぎをしていたのが実際のところだった。うちの会社は研修の本数が非常に多いこともあり、担当案件もそこそこある。なので、日々、バタバタという感じだった。
もちろん、新入社員研修のような必ず行うものは手段を何とか考えて対応をしていきました。新入社員研修に関する手続きなどは想像を絶するほどに多岐にわたっていて、メインの担当者でもあった同僚はとても苦しんでいる状況。サポートをしつつも、随時、降りかかる問題に対応しながら進む日々。
4月の中旬には落ち着いたものの、ずーーーっとバタバタしていたという印象。しばらくはその他の研修の対応も含めてバタバタしていたものの、目の前に迫った研修がなくなったこともあり、むしろ、余裕が出始めた時期でもあった。そして、ここから初夏へ突入することとなる。
安易に中止せず、やれることを模索した6-8月
担当者としての仕事の負荷と、コロナ感染防止の観点から、まずは安易に中止や延期をしていた時期が過ぎていたとき、あるとき、経営陣から「安易に中止するな。やれる方法を考えよ」とガツンと指摘されることに。。。
ようやくこの頃から(すでに4月の新入社員研修などでも導入はしていたが)、オンラインという選択肢がメインストリームにやってきた。元々、3年くらい前から個人的にzoomは使っていたし、オンラインには慣れていたものの、まさか、企業研修でオンラインを扱うことになるとは想像もしていなかったのは本音のところ。
うちは、組織が大きいこともあり、ある程度、設備というかツールは揃っていたのが本当にラッキーだった。すでにTeamsは全社員のアカウントがあったため、このころには、すでにもう、Teamsを使ったオンラインでの対話の場なども始めていた(5月から)。ひとえに、アカウントがあったことが大きい。このころはとにかく、Teamsを活用する機会が増え、どんどんTeamsに詳しくなっていた気がする。今でも、コミュニケーションツールとして重宝されている。
とはいえ、Teamsはネットワーク帯域を使うこともありzoom を使えるようにしたい!と、社内的にも動きが出始めたが、とはいえ、zoom爆撃の話題もあり、あまり良い印象をもたれていなかったのも事実。Teamsのアカウントがあるということは、相当のお金をかけているということでもある。なので、できるだけTeamsを使ってほしいとなるのは当然のことだった。
実際のところ、オンラインで実施する相互コミュニケーションをとりながら行う研修においては、zoomが使えた方が圧倒的に良いということもあり、専門部署とうちのマネージャーが調整し、研修でzoomを使用するのが認められるようにもなっていった。会社全体としても、状況を見ながら、随時、やり方を更新していたように思う。こうして、オンライン研修の体制がさらに整っていくことに(もともと、使用禁止ではなかったが、少しグレーではあった)。
この頃は、安易に中止や延期をしてはいけないというある種の強迫観念のもと笑、やれることはTeamsでやる(一部、v-cubeも)。そして、秋以降の研修が本格的に行われるときに向けての企画の変更や、内容の変更、オンラインツールそのものの勉強、各種トライアルなど、本格再開する秋以降に向け絵、色々な土台作りの時期という感じだった。
そして、一方で、リアルの研修も少しずつ再開するようになっていった。事業運営上、どうしてもリアルでないとできないタイプの研修がある、例えば業務上必須な資格を取るためのものや、固有の設備を使うものなどは、どうしてもオンラインではできないという難しい事情もあり、リアルでの研修も実施しはじめた。また、経営幹部養成ものなど、重要度が高く、かつ、関係性を深く構築する類のものもリアルで行い始めていた。
このころは、いかにして感染リスクを減らすかという観点で、研修会場に来る14日間前からの検温の義務付けや、当日の検温、換気、アルコール消毒、レイアウト、マスク着用などなど、あらゆる対策を講じるようなルールづくりや環境整備などに追われた。
「じゃあ、この場合は…」
といったケースの問い合わせが多かったのもこの時期。まさしく、動かしながら修正していくそんなことをずっと行っていた感じだ。本社として決めたことでも、実際に運用をしてみると、実態に合わないケースもあったし、とにかく関係箇所の皆さんには迷惑をかけることも多かった。目の前で対応に追われている皆さんの状況などを聴くにつれ、いたたまれない想いにもなったし、とはいえ、会社として全体を見た中で、やらざるをえないという決定を簡単に覆すことはできず心苦しい時期でもあった。
ここでも、意思決定の難しさを本当に感じた。関係するあらゆるみなさんにとって望ましいこと、それは感染者が出ないこと。なのに、目的は一緒であっても、それぞれがもつ情報も違えば、役割も違うし、相手にしている人も違う。そうした多くの多様性の中から、これ!と決めるわけだが、それでも、誰もにOK!と思われる決定はない。人事評価制度もそうだが、誰もが納得できる制度というのは存在しないと思っている。それと同じで誰も納得できる意思決定というのは存在しないだろう。だからこそ、その部分を埋めるのは対話であり、日々のコミュニケーションに尽きるのだと思う。
さて、だいぶ、話は逸れたが、リアルの方がコミュニケーションを深めやすいというのはあるけど、このころは、せっかくリアルで行っても、場への参画度を高めるための工夫はしづらく、正直、質としてはイマイチなところはあったと思う。果たして本当に実施してよかったのかと悩んだこともあった。なんせ、このころの実施判断はなかなかに難しく、参加者の中には参加への不安の声も上がることもあった。地方の社員からすれば、本人だけでなく、家族から反対されるということもあって、それは当然のことだったと思う。本人の意思を尊重し、ビハインドになることがないようにケアをしながら進めていくということを丁寧に行っていこうとしたのもこの時期だった。
しかし、研修実施への要望も大きかったりと、誰も嫌がっているならまだしも、こういう時期だからこそという想いを持っている方も多く、極力、実施するにはどうしたら良いかを考えながら進んでいた日々だった。
来るべき秋以降の研修ラッシュに備えた準備・仕込み、そしてルールづくりや目の前のことに追われる日々で、ワークショップとかを意識していた時間はとてつもなく少なかった気がする。
そして本格的にやってきた研修シーズン(9月~)
9月以降は本格的にオンラインでの研修が増えていくことになった。zoomをメインに使用し、双方向でのやりとりも、対話も順調に実施していき、参加者の声も上々。オンライン自体が初めてなのに、人生でずーっと経験を積み重ねてきたリアルとは比較してしまうと、劣ると感じる人は多かった。1回のオンライン経験と、何十回と繰り返してきたリアル経験を比較すること自体、前提がそろっていないのでおかしな話ではあるのだが。
一定数はオンラインなら今後も受けたくないといった声を挙げた人もいたが、それよりも新鮮でポジティブに受け止めている人が圧倒的に多いというのが印象的だった。zoomでは、主にチャット機能を上手に使い、場への参画度を高めることにはつなげていた。それに個室で参加しているからか、割とぶっちゃけ率も高い感覚がある。同じ空間からの余計な引力を受けないということはプラスな面な気がする。
10月からは会社公式でzoomも使えるようになり、会社としてアカウントをもつことになり、環境もまた変わってきている。日々、研修が動いている中で、満足度が落ちることなく推移できている。
むしろ、今度はオフラインで会いたい!という渇きを生み出すことにもつながり、つながりの継続性という側面はめちゃくちゃプラスな気がする。
オンラインをオフラインへの誘客につなげるというのもありだなと思い始めたのもこの時期。また、こうした傾向から、フォローアップ的位置付けで今後の仕掛けにも生かしやすいという手応えもあり、その瞬間でのつながりの深さはリアルには負けるが、継続的なつながりを生み出す契機になる面もあり、有効なツールだという手応えもある。当日のワークショップそのものの場だけでなく、実施前から実施後までも踏まえた設計を行うことがオンラインの醍醐味なのかもしれないと感じるようになる。ワークショップデザインの時間軸が当日だけでなく、前後の時間にどのようにコミュニケーションを生み出すかという設計をすることがオンラインではできるという可能性を感じていった。
毎日のように現在も研修は動いているが、いまだにzoomを活用する人は初めてという人が8割~9割はいる。自分自身、毎週4回はzoomにプライベートでも入っているので割と当たり前という感覚を持っていたが、案外そうでもないということは心しないといけないと毎回思わされる。
今まではある意味で、研修会場のセッティングから資料印刷・配付と、何から何までセットアップし、準備をし、という至れり尽くせりな状況だった。そりゃ、全ては用意されるものという感覚になって当然。そういう意味では、オンラインの副次的効果として、自ら能動的に研修に臨む準備をするという意味合いで研修受講環境を整えようと動くので、自ら場に参画するという行動を自然と促しているのはいいのかもしれない。
実務的な面でいえば、正直、研修担当者としては運営を人事戦略子会社に委託していることと、多岐にわたる仕事に随時対応しているため、リアルだと会場に行かないと研修の様子を見られなかったが、オンラインだとラジオ的に自席で聞けるというのがなんともありがたい。
それと、一人ひとりの様子はもちろん見ようとするものの、オンラインでは見られる限界もあるので、ある種、様子を見なくては…とそこに固執しなくなり、参加者に委ねやすくなるという側面もあり、参加者の反応を気にしすぎず、信じて任せるという在り方をもちやすくなったのも大きい。
同じ日に複数本の研修が動くこともざらだが、zoomであればPCとタブレットでそれぞれで入ることもできるし、入退出を繰り返しながら様子を見ることもできる。ながらではあるが、場に触れつつ存在していられるのはありがたい。参加者からすれば違和感があるのかもしれないが…。
プラス面ばかりをフューチャーしているが、やっぱりマイナス面もある。まずはオンライン受講環境の整備や、個々による環境のバラつきだ。こればかりは事務局側でできることは限界があるので、慣れていくしかない。それと、やっぱり同じ空間を共にしたという経験値が少ないので、シリーズもので関係性を深めながら実施していくタイプのものは結びつきの弱さが気になる。この点は事後の仕組みを活用してケアをしているが…。あとは単純に懇親会ができないから寂しい笑(自分はお酒を飲めないけど)。さらにさらに、今はまだ起きていないが、ネットワークトラブルが起きたときに、どう代替していくのか?特にシステム上、別システムが使用できない場合はどうするか。リアルでは講師と参加者さえいれば、何とでもなったが、オンラインではそうもいかない。
こうして、色々な面でオンラインのネックもあるのも事実だ。良いところ悪いところなどリアルとオンラインの性質をしっかりと把握し、いずれも手段なので、目的にフィットするやり方を選ぶ際の選択肢が増えたわけなので、状況に応じてしっかりと選べるようにしていきたい。
そして、これからどうなっていくか(12月以降)
来年度はより一層、オンライン化を進めていく事になるだろう。それはzoomを使用した研修の増加という意味合いだけでなく、反転学習的要素を高めるためのデジタル教材作成や事前学習の充実なども行っていく事になるだろう。それは有効な選択肢が増えたからだ。コロナ云々関係なく、是々非々でしっかりと考えていきたい。なんせ、わざわざ物理的に集まらなくてもできることがわかったわけだから、今まで以上に、集まることができる場自体は、集まることによって生まれる価値が何なのかを明確にしなければつくりだしにくくなるだろう。
改めて、人が集う場の価値が問われている気がする。
リアルで人が集うというのは何が得られるのだろうか。そのあたりの言語化はこれからしっかりとしていきたいところだ。
さて、最後にこの1年をまとめていきます。
・最初はとにかく対処療法で仕事をこなすので精一杯だった(とにかくバタバタ期)。
・徐々にオンラインツールを導入し始め、リアルとはまた違った形のワークショップ的要素のあるものが出てきたが、リアルと比較するやっぱりイマイチ感は否めなかった(やっぱりリアルいいね時期)。
・でも今年度のリアル研修は人が物理的にクロスし合う設計がしづらく、・しかし、講師も研修会社も慣れていき、リアルと遜色ない品質が提供され出し、ワークショップ的要素がしっかりと研修の場に戻ってきた感じがある(オンラインもいいね時期)。
・一方で、今年度は感染防止の観点からリアルの場だからこその良さをそこまで生み出せていない感じはある。物理的な人の交流を設計することがしづらいから。来年度はどうなることやら。
・オンラインという一つの手段は大きな有効策に変わった。ここから、また新たな形でのワークショップも生まれていくと思うとワクワクもしている。
・今年動きながら環境を整えてきたが、来年はある程度、整ったところから始まるし、コロナ収束見込みも立たないため、さらにオンライン化を加速していくだろうなあと来年に向けて考えている。
こんな感じが僕自身の1年間の推移だろうか。いっぱいいっぱいの状況から抜け出し、環境整備・ルールきめなどのハード面の対応をし、やっと行きついたソフト面では、経験がものをいう感じがして、徐々に回数を重ねるごとにリテラシーは高まっていっている。今まさにそんな研磨期にいる気がする。この1年は本当に濃い経験をしてきた。
副次的にではあったが、決断することの難しさ、そして決断の覚悟を学び続けていた部分もあった。正解を探すというよりは正解にするという感じだろうか。
唯一の心残りは、オンライン研修の運営を全然自分が担っていなくてノウハウがないということ。それくらいか。まあ、自分でzoomを開くこともあるし、ちょっとずつ経験を積み重ねていくかなー。そんな感じだ。
今回はWSDアドベントカレンダーということで、人事部門で働いている人が、このコロナ禍でどうやって企業研修をあれこれしてきたのかということをまとめてみました。ともあれ、まだまだ年末にかけてほぼ毎日のように担当している研修は続いていくのであった。。