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夕焼けりんご①


吸い込まれそうなダークブルーと温かみのある落ち着いたオレンジ色とのグラデーション、角のない滑らか曲線、ちょうど両手で包み込めるくらいの大きさ。

そのりんごのビジュアルはわたしに衝撃を与えた。

始め見た時はりんごなのか梨なのかまなは別の果実なのか分からなかったが、そこには「夕焼けりんご」と書かれていた。それ見てはじめてこれがりんごだと認識した。

通常りんごは、赤色もしくは薄い黄緑色のものをよく目にするが、明らかにそれらとは違う奇妙な色をしている。

今ぼくは無人の販売所でこの不思議なりんごを目の前にしている。

田舎道で見かける無人のお代は筒状の空き缶の中に入れ野菜や果物を売っている、農家の方が直接設置していると思われる販売所だ。

ぼくはそれを見かけると何が販売されてるのか確かめたくなる。

ぼくは現在36歳独身で13年勤めた会社を2ヶ月前に退職し現在失業中の身だ。だが趣味のソロキャンプを毎週のように楽しんでいる。失業中の身なのに。

今日もソロキャンプに出かけていた。車での帰り道夕方5時を少しまわった頃ぼくは無人販売所を見つけた。気になり車を停めた。そしてこいつを発見したのだ。「夕焼けりんご」の文字の下に「1個12600円」と値段が書いてあった。

思わず「高っ!」と声がでた。大体こういった無人販売所は、売り物にならないような形の良くないものや育ちがやや悪くて小振りなものを格安で売られいる。1個12600円のりんごは無人販売界の富士山ではないだろうか。つまり日本一高いのでは!と思うのと同時に「夕焼けりんご」への興味でいっぱいになった。

ぼくの選択は「買う!」しかなかった。全く迷わずその選択をした。そうしなくてはいけないという使命感みたいなものも感じていた。失業中の身なのに。

そして、筒状のお代入れに13000円を入れた。小銭がなかったし無人販売ではお釣りを貰うわけにもいかず13000円のりんごを買うことになった。失業中の身なのに。

「夕焼けりんご」の横には持ち帰り用と思われる紙袋があった。傷つけないように慎重にその中に「夕焼けりんご」を入れた。「夕焼けりんご」はぼくが買ったのを含めて3つ並んでいたので残りは2つとなった。この先この2つは誰かが買うのかなと思いながらその場をはなれた。

家に着いた頃にはあたりは真っ暗できれいな月が出ていた。
               つづく



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