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「いきつけ」になるのには

いきつけの店がほしい。

月に一回、必ずその店に行って会計の前に次の予約を取る。そういったお店がある生活に23歳くらいからずっと憧れを抱いている。三軒ほどを月に1度ずつ通う、その予定が書きこまれたカレンダーはなんだかとても魅力的である。

実は5年前に「ここの常連になろう」と決め通ったお店があった。その店は職場の近くにあった焼酎バーだった。薄暗い店内にはカウンターのみで12席あり、そこを訪れると決まって半分くらい席が埋まっている状態だった。1人客が多く2人客も珍しいそれ以上は見たことがなかった。僕もいつも1人だった。

その店に通って何度目かにマスターが〆にメニューにない料理をだしてくれた。焼酎で煮込んでつくったまかない用の豚の角煮丼だった。これがめちゃくちゃ美味かった。この日以降〆に必ずこの角煮丼をだしてもらった。

いよいよ、この焼酎バーが「いきつけ」になってきた。このころは月に2回とゆうペースで通い、その日を楽しみに生活をしていた。特にあの角煮丼を食べるのが楽しみで、もはや角煮丼を食べるために飲んでいる状態だった。

しかし、ある日を境にそれが食べられなくなった。それ以前にあのお店に行けなくなった。理由は新型コロナによるパンデミックだ。会社からの外出自粛の要請で出勤も含め外に出ることを止められた。

僕にとって、自宅で過ごす日々は思った以上にしんどかった。

「あの焼酎バーであの角煮丼が食べたい」何度もそう思った。自分で豚肉のブロックを焼酎で煮込み作てみたりもしたが満足いくものができるはずもなく欲求はおさまらず、悶々としていた。と同時にあのお店のことが気になりはじめた、そのころ飲食店はお酒の提供を禁じられていたし営業時間も制限されていた。「大丈夫だろうか」心配だった「なんとか頑張ってくれ」と切に願っていた。

月日が流れ、ようやく会社から出勤命令が出たパンデミック明けの初出勤の仕事終わりあの店へ行ってみた、そこには「感染症に負けました。店を閉めることにした」とゆう内容の張り紙があった。初めての僕の「いきつけ」が奪われた瞬間だった。とても悔しくて、寂しくなった。そしてマスターは今何をしているのか、大丈夫だろうかと心配になったが個人的な連絡先もわからず、あの店で知り合った常連客に訊いてもマスターの情報は何一つなっかった。

それ以来「いきつけ」がない、何度かいいかもと思ったお店はあったが何度か通ううちに飽きるというか「行くのが楽しみ」が薄れてくその結果いかなくなる。

今思う、僕はあのお店の角煮丼だけじゃなく、マスターの人柄、常連客の人柄、店の雰囲気からBGM、インテリアまですべて大好きだったんだと、そして今それを求めているのだろう。

僕の「いきつけ」はできるのだろうか。

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