袴とスーツ
大学の構内で、重い身体に鞭打って走っていた。すると、袴を着た女性やスーツを着た男性の集団とすれ違った。それも一組じゃない。数十組の推定大学四年生が、大学構内を行き交っていた。春っぽい空気で、なんとなく空気も明るくて、ちょっと嬉しくなった。
あー、卒業式か。
他人事みたいに呟いたけど、いや来年はお前の番だからな!と頭の中で突っ込んだ。ぼやぼやしてたらもう四年生だ。はやいナア…と口に出す頻度も上がった気がする。
ランニングの残り1キロあたりで息が上がってしまって、ゼェゼェしながら走っていると、また卒業生らしき集団とすれ違って、ある1人に目が止まる。
彼女は、袴で着飾った友人たちの中で1人スーツを着ていた。
どんな気持ちなんだろう。考えてしまった。
私だったら、きっと居た堪れない。
周りにどう見られてるのか被害妄想が止まらないからだ。実は私だけ仲間外れにされてるように見えるんじゃないか。お金に困ってるように見えるのかも。又は、ウチ卒業式で袴なんて着ねえから!と尖った人間に見えてるのかもしれない。
そんなところまで想像して、ハッと気づく。
苦笑した。
私、死ぬほど偏見するんだなあ。そんで、私が1番他人からの視線気にしてんだなあ。
残念なやつだなあ、と自分を笑いたくなった。
正直に言って、みんなが着るから、似合うと言われたから、成人式の振袖を選んだ。
紺色の着物を着たいな〜と軽く考えて振袖を選びに行ったら、お店の人と母親にピンク似合うじゃん!と言われいい気になって、ピンクの振り袖を着た。別に似合ってるならこれでいいや!くらいの気持ちだった。
私、振り袖着る資格なかったのかもしれない。
あんなにお金をかけて、しかも流されるように選んで。
自分が写真に映るのはさほど好きではないから、本当に横綱みたいに2、3時間、成人式を祝う会で着ただけ。それで終わり。もう一度着るなら、大学卒業式の袴の上として着るだけだ。
走り終えて、クールダウンとしてしばらく歩いた。
別のスーツ姿の女性とすれ違う。卒業生だ。
袴を着た女の子の隣で、嬉しそうに写真を撮っていた。
仲良いんだろうな、と見ていて分かった。すっごく楽しそうな顔が、今でも頭に残ってる。
彼女は何か思うところがあってスーツを選んだんだろう。いや、そんなに深く考えてないかも。その過程を私が知ることはないけど、とにかく、彼女達は楽しそうに見えた。
もちろん、袴を着たら一生の思い出になるだろう事は間違いない。着る事が楽しいと思える人にとっては、晴れの舞台で着飾ることに意味はあるし、それは誰も否定できない。
来年の卒業式、本当に袴を着たいか?と自問自答する。…お母さんごめん。多分だけど、袴は着なくていい。私は友達と写真そんなに撮らないし、袴を着た自分を鏡で見てもげんなりしちゃうだろうし、動きやすい格好がいい。
そんなこと言っても来年には、袴着たいって言うかもしんないなあ〜と無責任なことを考えながら、汗を拭った。
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