電話番号を晒された話

街中でテナント募集の看板をよく見かけるようになった。不動産屋さんの名前と連絡先が書いてある。

連絡先が固定電話の番号ではなく、担当者個人の携帯番号になっていることもよくある。ご丁寧に担当者の名前と読み方まで書いてある。

会社用の携帯番号だろうし、とにかく早く空きを埋めたいんだろうけど、こういうのっていたずら電話とかこないのかなと思って見ていた。

この担当者の勤務体制とか、休暇とか、こちらは知る術がない訳だし。いたずらみたいな悪意がなかったとしても、休日や夜間に突然知らない人から連絡が来るのは嫌じゃないのかな。

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わたしは会社の清算系部署で事務職をしている。

恵まれたことに事務職も含めた全社員に会社用携帯を渡されている。わたしは上司へ遅刻や急な休みを連絡するくらいにしか使ってないけど。あとは総務や経営陣から全社員への連絡程度。

取引先など社外への連絡はデスクにある固定電話からかけていたし、かかってくる電話もデスクの固定電話か代表窓口に入っていた。

コロナで一変した、弊社の電話事情。固定電話、代表窓口の廃止。

さあ何が起きたでしょうか。

弊社から発行する全ての請求書に、問い合わせ窓口の電話番号としてわたしの会社用携帯番号が記載された。

その事実を知ったきっかけ。ある日曜日の朝、珍しく会社用携帯が鳴った。まず電話がかかってくること自体驚き。しかも休日。しかも登録していない番号。えっ、何?????

おそるおそる出てみると、知らない人の声。それもそのはず、知らない人だったから。

「請求書が届いたが、内訳の詳細を教えてほしい。」分かる内容だったので詳細を教えた。ついでに、どうしてこの番号を?と相手に尋ねると「請求書に書いてありました。」とのこと。

翌日の月曜日、上司に確認。問い合わせ窓口がなくなったため、今月からわたしの会社用携帯番号を記載したとの返答。

わたしの会社用携帯番号は、わたしの知らないところまで広がった。いつ、だれが、わたしの番号を知るか、使うか分からない。あのテナント募集の看板を思い出した。

勤務時間前、平日日中、勤務時間終了後、休日、わたしの勤務体制を知らない(知る術もない)人から電話が鳴るようになった。

わたしの生活があるので全ての電話に出ることは不可能だった。無駄に強い責任感のせいで、出れない電話があると吐き気に襲われるような罪悪感を背負った。休日に買い物をするときも、夜寝るときも、携帯を手放せなくなった。自分の携帯より会社用携帯を握っている時間が長くなった。

ある日曜日、電話が鳴ったが出られなかった。飼い猫の調子が悪く、日曜でも診察してくれる動物病院に向かっていた。猫の診察中に着信が1件あったことに気が付き、知らない番号に折り返した。

「ぜんぜん電話出ないですね。」

ぷつんと切れた。電話ではなく、わたしの何かが。

翌日、上司に相談した。翌月から記載を取りやめてくれた。

取りやめてから数か月。前ほどではないが、いまだに電話は関係なくかかってくる。一度広がった情報はそう簡単に消えない。

就活時には強みだった責任感を恨んだ。

寝ている間に電話が鳴るかもという不安で眠れなくなった。


不動産屋さんのテナント募集看板、担当者の方に許可取って番号載せてますよね?

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