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ポッペアの戴冠

 アンチヒーロー、アンチヒロインが最後に勝利する喜劇なのか悲劇なのか、類のない内容な上に完全な草稿がない事が逆に懐を深くしている稀有なオペラ。
 最初のチャレンジはアーノンクール1974年録音、中古CDを手に入れたが全く歯が立たなかった。彼らの「オルフェオ」ではアーチ型の劇構成(ベルクのルル!)や冥界の場面とか、わかりやすい要素が助けになって割合すんなり入って行けましたがポッペアは何しろ長いし複雑で。やっとその面白さに気づけたのはポネル=アーノンクールの記念碑的なモンテヴェルディ三部作の映像でした。

モンテヴェルディを始めとして所謂バロックオペラが普通に楽しまれるきっかけになった記念碑的なお仕事です。
 ディスクでは1990年のルネ・ヤーコプス盤が一番知られているのでは。劇的で悲劇と喜劇が交錯する様が鮮やか、今も色褪せません。ヤーコプスには1993年の地味〜な舞台収録もありました。2000年にガリードが録音、より明るく華やかな、けど残響の多い響きが彼ららしい(確かシチリアの教会での収録が彼らの定番で、そうと聞くだけで憧れがありましたね)。
 2000年の夏にエクサンプロヴァンス音楽祭で、クラウス=ミヒャエル・グリューバー演出、マルク・ミンコフスキ指揮の舞台を観ることができました。序奏が始まっても通路に残っていた客席の案内係の制服を着た人がプロローグの“冨”、“徳”を歌い始めます(映像収録では序奏でエクスの遠景なんざ映すもんだから演出の機微が台無しになっとる)。屋外劇場、布を多用した装置が風に揺れる中、静かな動きの演出で時おり鳥の鳴き声が聞こえたり夕暮れから真っ暗に空が移り行く中、ラストの(後世の他人、今の所ベネデッティ・フェラーリの作とは言われてますが)ネロとポッペアの二重唱、忘れ難い体験でした。映像収録あり。

 2018年のザルツブルクでウィリアム・クリスティが上演、CD +DVDでリリースされています。遠目のライブ録音は珍しいかもですが、彼の指揮下レ・ザール・フロリッサンは相変わらず隙のない切れ味鋭い音楽でちょっとだけ疲れるかな。
 他にも舞台の記録では1994年オランダでピエール・アウディ演出、クリストフ・ルセ指揮(音楽的には一番禁欲的な感じです)、2008年グラインドボーンでのロベール・カールセン演出エマヌエル・アイム指揮(どしてもダニエル・ド・ニースのための舞台になっちゃう)なんてのもあります。で、とてもヤバいのを見つけてしまった。噂には聞いていた2023年バルセロナはリセウ劇場でのサヴァールさん指揮、演出はカリスト・ビエイト。アンチヒーロー! 今の所出来るだけ音だけ聴くようにしていて、期待通りコンセール・デ・ナスィオンらは魅力的な音楽を展開している様子です。音源だけリリースされれば私にとっては最高の音源になりそうですが。

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