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クラウス・テンシュテット(1926/6/6 - 1998/1/11)、あるいは響きと怒り その2

 そして1985年、病の発表がありその治療を優先して活動は中断されました。後にリリースされた大地の歌は1982および1984年とクレジットされている。他にも頓挫した録音計画は山ほどあったと聞く。1986年マーラーの第六番で指揮台に復帰したと記憶する。そして同年の第八番のセッション録音。冒頭からこの大編成で細かなアゴーギグ、それがこの上なくピタッとハマり説得力が凄い。展開部で突進する寸前の“アッ(ブレス)チェンデ”のブレス。再現部に向け次第にテンポを落としていきながら壮大にクレッシェンドするのは他には誰もなしえなかった別格の表現でした。第二部冒頭の沈潜、次第に増していくきらめき、チェレスタやハープの音色の活かし方はこれまでのテンシュテットには感じなかった一面かも。ふと気がつくといつの間に、これまでの録音とは明らかに一線を画した超鮮明な優秀録音になっとる! そして終結部も聴いた事のない絶妙のアゴーギグがこの大編成オーケストラでなされていて圧倒的な感銘を受けました。
 前年常任指揮者を辞したものの桂冠指揮者として1988年来日、R・シュトラウスのドン・ファンとベートーヴェン交響曲第三番のプログラムを実際聴けました。生命力の塊のような音楽で、ホルンの活かし方が特に印象に残りました。オール・ワーグナープログラムがNHKにより収録され今でも語り草ですね。

 1994年10月に引退を余儀なくされるまで、その後も病と戦いながら、演奏活動を続けました。1988年のマーラー第五番ライブ、圧倒的で、第五楽章ロンド主題の再現に向けて大胆にリタルダントする部分が忘れられず。1990年シカゴ響とのマーラー第一番ライブおよび映像、1991年の強烈なマーラー第六番ライブ、同年の第八番ライブ映像記録、1992年の来日公演では帯同はしていたらしいですがギリギリで残念ながらキャンセル。ベートーヴェン田園運命のプログラムは運命田園の順番に変えられまだ若き日のヴェルザー・メストが代役でした。
 最後の録音は1993年のマーラー第七番、インバルとは違う視点からこの曲の多様性を最大限生かしつつ眩いばかりの高揚感で終結する秀演でした。

 テンシュテットの初めての伝記 possessed by musicが上梓されているのに気付き早速読み始めました。必読の内容です。
※補足:possessed by musicを読み進めて、このマーラー第七番がまさにLondon philharmonicとの最後のコンサートだった事を知りました。何だか胸のつかえがとれた感じす。

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