ジョゼフ=ギィ・ロパルツ(1864/6/15 - 1955/11/22)「故郷」(1912)、三幕四景からなる音楽ドラマ その1
1894年から1919年までロレーヌ地方のナンシー音楽院の院長を勤め、第一次世界大戦後の1919年から1929年はハンス・プフィッツナー(!)の後を襲ってアルザス地方のストラスブール音楽院院長を勤めた後、ロパルツは公務から引退し故郷ブルターニュへ隠棲しました(創作は続きます)。同時代の著名な音楽家が定期的に客演する等音楽院の活動を活性化し、また文学者やエミール・ガレ等とも交流が多く多忙な日々であったでしょうがそれでも多数の充実した作品を発表していました。
「多忙な中でも私は繰り返しブルターニュの事ばかり思い出していた。それに以前から、内面的で限られた事件と感情、少ない登場人物に見世物要素のない音楽劇の題材を探していた。ある朝ロレーヌの友人が、ブルターニュ人の書いたブルターニュについての本なのできっと君が気にいると思うと送ってくれた。」 それがル・ゴフィックの短編集“passions celtes”でした。「…二番目の”島の娘“を読んで大いに心を動かされ本を閉じた。…オペラの題材に最適なだけでなく、なによりもブルターニュへの私自身の郷愁を表現出来る。」ル・ゴフィック自身に台本を依頼、1908-10年に作曲、1911年に作曲家自身の指揮でナンシーにて初演されました。
登場人物はアイスランドの娘ケーテ(ソプラノ)、ブルターニュ出身の漁師テュアル(テノール)、ケーテの父ヨルゲン(バリトン)の三人のみ、合唱はありません。テュアルは海難事故の唯一の生存者でアイスランドの海岸に打ち上げられ自力で這いあがろうとしたが、Hrafuaga(カラスの谷)の泥炭地に呑み込まれかかっていたところをヨルゲンに救われその娘ケーテに介抱された。
第一幕前奏曲、陰鬱なHrafuagaの付点音符の動機、これは即ちアイスランドも象徴していると思われます。その変形でテンポアップして海難事故を表している様子のテーマ(CD解説Michel Fleuryさんはカラスの鳴き声のモチーフとしてます)がR. コルサコフのシェヘラザード(1888)第二楽章「カランダール王子の物語」中間部のファンファーレを思い出す(海の場面ぢゃないんですが)。中間部のコール・アングレ独奏(フランク!)の民謡風メロディがテュアル=ブルターニュの象徴です。後半にケーテ=愛のテーマ(下降しては五度、七度やオクターブ上昇する)も聴かれます。
第一場、九月の朝、冬に向かうとは言えまだ咲く花も多いアイスランドのフィファ・フィヨルド(アイスランドって国じゅうがフィヨルド)近く、砂丘にあるヨルゲンのboer(ターフハウス)から出てきたケーテとテュアルの二人、愛の場面です。ワーグナーにありがちな先述の前史、説明語りでもあります。知ってるわ、ブルターニュの男は皆故郷が忘れられないものよとかスパイス、伏線も効いている。お互いを確かめ合い愛のテーマで高揚したピークで第二場、ヨルゲンが「ケーテ!」と雰囲気を一変させる。...続く