アルベリック・マニャール「ゲルクール」、三幕五景からなる音楽悲劇 Op.12 その3
そもそもGuercœurという名はguerre 戦争+coeur 心・心臓の造語か。Giselleは元々ドイツ語系の人質や担保という意味から転じて他国の王女、あるいは女性の名として一般化したそうです。Heurtalはheureで時間? heurter なら動詞で衝突するとかノックするとか、どちらもあんまりピンとこない。
さて地上の世界編は中世の時代、フランドルかイタリアの自由都市とされています。
第二幕第一景 幻影(の数々)
交響的前奏曲はパストラル、田園風な曲調で第一幕のやや非現実的、オペラというよりはより荘厳なオラトリオの雰囲気とコントラストを成す。地上、木々が茂る春の丘で一人眠るゲルクール、第一場目を覚まして春の息吹と自然に感謝し、懐かしい都市を眺めて期待に胸を膨らませる。第二場、親しき者達は死んだ筈の自分を見たら恐怖に慄くのではと自問する。2群の乙女達が取り囲んで踊る(バレエだ!)、一つは愛の幻影で「いいえゲルクール、ジゼルはあなたが死んだなどとは信じられない、毎日想って過ごして…」もう一つは栄光の幻影で「いいえゲルクール、民衆はあなたが死んだなどとは…長い戦争から帰還した英雄の様に歓迎...」と歌い、ゲルクールは勇んで谷間の都市へ向って駆け出す。はあ〜辛くなってきた。休み無く結構長い交響的間奏曲へ。朗らかな流れから苦悩の動機をきっかけに影を帯びるも何とか踏みとどまる。バレエとはなるほど、全五幕のグランド・オペラの体裁も有してるんだと気付いた。
第二幕第二景 恋人達
第一場、かつてのゲルクールの家、今やウルタルとジゼルは一緒に暮らしている。ジゼルは今とても幸福だけど嘗てのゲルクールの住まいに居る事に引け目がと呟くとウルタルは今夜からは我々王宮で寝ることになるかもなどと軽口を叩く。今際の際での自らの言葉を思い出すがウルタルは過去は忘れなさいと。第二場、死者に平穏を、生者に悦びを。遠くから群衆の不穏な叫びが、後の不思議に整った行進曲の予告と共に聴こえてくる。第三場、不安に震えるジゼルにウルタルは誇らしげに今夜自分が権力を掌握して支配者になると言い、自由にこだわった亡きゲルクールを批判する。民にはパンと鞭が必要、すでに奴らは新たな圧政者を望んでいるのだ。ちょっと用があると退場。第四場、ウルタルを愛しながらゲルクールもいつも思い出してしまう、特にこの家に一人になると、と独白。第五場物音にウルタルかと戸を開けて驚愕、ゲルクールが。君に会いたい一心で復活して来たんだ云々かんぬん、でもジゼルはすでにウルタルと結ばれている事を告白、ひたすらに謝る。失意のまま去ろうとするゲルクールの足元に取りついて謝り続けるジゼルに心打たれ(「善はんの声を聴いた」)、貴女を許しますと…
気を失った彼女を介抱し長い事見つめた後顔を覆いながら立ち去ろうとするが、第六場急ぎ戻って来たウルタル、怪しい男に体当たりして(あ、ぶつかってまんがな)次に構える、かつての主人にその仕打ちかとゲルクールは静かにその場を去る。第七場、氷の様な冷静さから我に帰りジゼルを介抱すると意識が戻りおかしな夢をみたわ、ゲルクールが会いにきたの、と。幕が降り交響的間奏曲。…続く。