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サー・アーサー・ブリス(1891/8/2 - 1975/3/27)の語り、合唱とオーケストラのための交響曲「朝の英雄たち」(1930)
我が弟フランシス・ケナード・ブリスの思い出と戦場で命を落とした全ての同胞に献呈
第一次世界大戦に向き合っての作品、語り手(HMV等に弁士って書いてたが…)に大きな役割が置かれてるのが特徴。”A Symphony”というタイトルはブラームスのドイツ・レクイエムと似て慎ましく感じる。いわゆる一つのって感じ。作品を完成した事で自身が悩まされていた従軍経験による悪夢をみなくなったとブリスが述解したそう。
1. アンドロマケーへ別れを告げるヘクトール
マエストーソ
ホメロスのイーリアス第六歌後半(第394行から第496行)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/135327/1/ebk00075_021.pdf
戦争によって別れ別れになる夫と妻子が語られる。
2. 武装する都市
アレグロ・アラ・マルシア
ウォルト・ホイットマン『草の葉』「軍鼓のひびき」の、まず、おお、序曲のための歌をFirst O Songs for a Prelude
1914年夏のイギリスの雰囲気、例えばIan Hayの”The First Hundred Thousand”に描かれている様な義勇兵志願の狂熱を合唱が歌う。
3. 徹夜 アンダンテ・ソステヌート
- 露営地の篝火 アダージョ・マエストーソ
女声が歌う李白の詩とされる前半、
The warrior’s wife is sitting by her window.
With a heavy heart she embroiders a white
rose on a cushion of silk. She pricks her
finger! The blood falls upon the white rose
and turns it red.
Swiftly her thoughts fly to her beloved one,
who is at war, and whose blood perhaps
reddens the snow.
She hears the gallop of a horse. Has
her beloved come at last? It is only the
tumultuous beating of the heart in her
breast.
Lower she bends over the cushion, and with
a silver thread embroiders the tears that
have fallen about the reddened rose.
from poems of Li Tai Po (701–762)
後半は男声の歌う再びホイットマンの草の葉の軍鼓の響き、露営地の明滅する篝火のそばでBy the Bivouac's Fitful Flame、それぞれの想い。
4. アキレスが出陣する アレグロ・コン・フオーコ
- 英雄たち アレグロ・コン・フオーコ
そして再びイーリアスへ、第十九歌(第356行から第399行あたり)、後半は映画のエンドロールの如くイーリアスに登場する英雄たちを列挙する。
5. さあトランペットを吹く者よあなたの終曲のために アンダンテ・マエストーソ
フィナーレのタイトルはホイットマンの草の葉の、「真昼から星ふる夜まで」の、神秘のトランペット吹きThe Mystic Trumpeterの八聯目冒頭の引用。
詩はあのウィルフレッド・オーエンの作。Spring Offensive、「春闘」とでも訳そうか。語り手のみ、後にティンパニだけが加わる。
後半は少しずつ色彩が戻ってRobert Nicholsの詩へ。
ソンムの戦いをうたっており、前楽章までの一般的あるいは抽象化された悲劇ではない、作者自身の経験と強く結びついた詩を選んでいる。文字通りの夜明けの情景。静かに締めくくられる。
せっかく絶妙なカップリングでサー・チャールズ・グローヴスの名演が楽しめるのだが、ラトルの戦争レクイエムの方は録音にスポイルされている感が強く残念。
新録音もあり。