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「チャイニーズブッキーを殺した男」ジョン・カサヴェテス監督

"The Killing of a Chinese Bookie" by John Cassavetes

1976年のアメリカ映画。「オススメのカサヴェテス監督作品を」と兄から聞いて提示されたのが高校生の時。当時は何が面白いのか全くわからなかった。アクションはほぼ無し。イケメンもでてこない。ストリップクラブが舞台なのにエロくない。「超つまんないよ…」というのが第一印象だった。

当時の自分に言いたい…お前はバカか!

監督・脚本:ジョン・カサヴェテス
出演:ベン・ギャザラ、シーモア・カッセル、モーガン・ウッドワード、ティモシー・ケリー、ミード・ロバーツ、アル・ルーバン
撮影:フレッド・エルムス、マイケル・フェリス
美術:フェドン・パパマイケル
編集:トム・コーンウェル

物語はこんな感じ。

ストリップ・クラブの経営に命をかける男、コズモ。借金をしてでも店の女の子たちに金を投資するのが彼の生き様だ。ある日、そんなコズモがマフィアの仕掛けた罠にはめられ、多額の借金を背負うことに。暗黒街のボス<チャイニーズ・ブッキー>の暗殺を引き受けざるを得なくなる…と「アンタッチャブル」や「ゴッドファザー」のようなマフィア映画のような物語だ、と言いたくなるが全く違う。

何が違うのか?

当時流行していたギャング映画の枠組みを借り、映画作りの新たな方向性を模索した意欲作。(−DVDジャケットより)

つまり「映画作りの新たな方向性」を提示した作品であり、制作から40年以上たった今もまだ「新しい」ままだ。その新しさが保持されたままなのは、この作品をフォローするのは勇気と潔さが必要で、かつ商業的成功をリスクに晒すことになるからだと思う。

何が「新しい」のか、個人的な見解になるが物語をわかりやすく説明するようなセリフやカット割りがことごとく排除されている所にあると思う。

マフィア映画にある「暴力性」は存在しているものの、カメラは「暴力」を映さない。「音」やセリフなどで表現されているのみで、観客は何が繰り広げられているかしっかり想像しないと置いていかれる。しかしよく見えない分、想像力をしっかり駆使すればそこにある暴力性はリアリティを帯びて観客を襲ってくれる。

と、書いておきながらふと思う。

カメラが暴力を映さないのは単純に「大事ではない」からであり、カサヴェテスが新しいマフィア映画の表現を模索したいと思ったからではない、ということ。

おそらく大事だったのはベン・ギャザラ演じる主人公、コズモが抱く店と店で働く女の子たちへの愛情だ。(ベン・ギャザラ氏については先日少し書いた

「なんでこんなつまんないストリップの舞台を延々と見なきゃならんのよ…」

はじめは退屈して途中で観るのを辞めたくなったりするのだが、マフィアが暴力性を発揮すると同時に、観客はコズモの店への執着に対して憐憫の情を抱き始め、終いには「おいマフィア!何をやってくれてるんだよ!」という気持ちになる。

「ストリップクラブへの愛情」がいつの間にか大きく育ち、最後には「こんな退屈なもの見せるな!」とは真逆の、愛情たっぷりに見守っている自分がいるのだ。これには驚いた。

特に最後のシーンは忘れられない。
観終わって何度も何度も、その時に感じた愛情×憐憫を反芻して悦に浸っている。

「人生って哀しいものだけど、愛おしいものではないか」

カサヴェテス監督作品を観ると、いつもそういう感情が心に残る。
正直、観ると疲れるし、生きるのが憂鬱になるようなメッセージに辟易する感触もある。けれど、か弱い人間に対する圧倒的な肯定感があるのだ。

多くのカサヴェテス作品は物語の説明ほとんどせずに、登場人物の感情で時間を紡いでいく。主人公の感情の機微がとても丁寧に描かれており、高校生の自分が感じたように「放り出される」観客もいることは想像に難くない。

けれど映画に流れる感情に乗れれば、映像体験は最高のものになる。
「面白い映画」なのではない。カサヴェテス監督作品は「映像体験」なのだ。

「フォロワーになるには勇気がいる」と前述したが、観ているとジャームッシュが頭にちらついた。映画の世界観は全然違うのが映画の時空の歪み方が近しい。実際にこの作品の撮影監督がジャームッシュ作品の常連らしいので、何か関係があるのかもしれない。

ちなみに。
先日書いた「カフェ・ソサエティ」レビューに登場したセリフ
"Religion is the opium of the mind."
はこの作品に登場していた。ウディ・アレンもカサヴェテスが好きだったのか!と感動していたらカール・マルクスの名言でした。すみません。

この作品から学んだこと。
物語をフォローしやすくするための「説明」を排除しても「何を撮っているのか」狙いを定めていれば観客にちゃんと伝わる。

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