家族全員にスキーを拒まれる父
今年の冬の話だ。
我が家は、私・弟・父・母の4人家族である。
私に死ねと叫ぶ父の話に書いたように、うちの父はちょっとやべぇ奴なのだが、彼の趣味は非常に真っ当で社会適合者じみている。スキーだ。
父は本当にスキーが好きで、ブラック企業勤めで休日がかなり少ないにも関わらず、冬は少なくとも週に2回は山に行っている。毎年大会にも出場していて、クロスカントリー用のスキー板だけで4、5組は持っている。
そもそも父は運動全般好きなのだ。中・高と野球部に所属しキャッチャーを務めていたらしいし、冬以外のスキーが出来ない時期はよく走りに行っている。マラソンの大会にもよく出場していた。
さて、ここで私・弟・母が中高時代に所属していた部活動を紹介しよう。
私…中学 美術部 高校 美術部
弟…中学 帰宅部 高校 帰宅部
母…中学 トランプかるた倶楽部 高校 演劇部
このラインナップを見れば大体予想はつくだろうが、私達三人は運動を忌み嫌っている。苦手とかいうレベルじゃない、忌み嫌っている。
運動神経の悪い人間の多くが、ただ競技を上手く出来なかった記憶だけでなく、それをクラスのいけ好かない奴らに馬鹿にされた記憶までセットで持っている。私達はそいつらを『運動という概念の化身』として捉えているから、運動を毛嫌いするまでに至っているのだ。
そして、父の小中高時代を知らないので憶測でしかないが、しかしきっとほぼ確実に、父は『運動の化身』としての活動に勤しんでいたと思われる。大人になり、親になってからでさえ私や弟の運動神経をいつも嘲笑っていたのだから、小中高時代の彼が「彼らは運動が出来ないけど、その代わり僕らが出来ないことが出来たりもするだろう?」などと爽やかに微笑んでいた確率はかなりかなり低い。
そんな運動の化身はここ数年、私たち家族に対しよくこう言ってくる。
『親子スキーに行くぞ!!』
…………………。
これを言われた瞬間、私・弟・母の目から光が消える。口角は下がり、顔全体の筋肉が強ばる。
ただスキーに熱中していてくれればいいものを、それを家族で楽しもうとしてくるのだ。やめてくれ。こっちにその気は無い。親子でスキーを楽しむような家族は、運動が出来ない子供だったとしても精一杯寄り添って根気強く教え、ちょっとした事でも上手く出来れば褒め称えるような育て方をしてきて初めて成立するんだろ。あなたはこちらを1から100まで馬鹿にして、化身としての活動を全うしていたではないか。
と、口には出さないもののこのような主張がこちらにもあるので、私達は決してスキーには行かない。
普段は嘘をつかない弟(贔屓目に見て、とかじゃなく弟は本当に嘘をつかない。彼は良いこともしないが悪いこともしないコジコジのような男なので、嘘をつく必要が無いのだ)が、「喉が痛いって言って…行かないことに…」と体調を偽ってスキーを回避する作戦を企てていたほどだ。
しかしまぁ、一般的に考えて、運動とは健全な行いである。全くしないよりは日常的にしていた方が健康にいいだろうし。スキーを断るのは私達を馬鹿にして育ててきた父も原因であると考えられなくもないが、もし父が褒め称えて子育てしてたとしても、私達が運動好きになった可能性は限りなく低いと思う。何故なら根本的に運動神経が悪いからだ。父に馬鹿にされなかったとしても、クラスの誰かからは馬鹿にされ、結局運動嫌いの卑屈人間に育つ運命なのだ。
だからちょっと可哀想だなとも思う。極めて健康的な誘いをかけているのにも関わらず、審議の余地も無く断られるのだから。
でもさ、私達3人は
全員noteをやってるんだ。
弟がnoteを始めていた話は先日書いたが、あの後で母も始めたのだ。
三人とも、全員、発信したいこととか有益な情報とか別に何も持ってなくて、どこかの界隈で有名とかでもないのに、
自分の考えとか日常をまぁまぁ長めに綴っている。
そんな人間達が、爽やかに雪の上を滑り抜けると思うか?
無理なんだよ。
そんな時間があったら、私はネチネチと一記事書き上げるね。
……誰も読まないのに…。
休日にスキーをしに行くことと、誰も読まない記事をネチネチ仕上げること、どちらが有益かと考えれば前者に決まっている。
ま、でも、行かないけど……。私はこのまま死ぬまで運動せずに、順調に太って糖尿病になって死んでいくから……。
おわり
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