アイデン、伝説の投資家に出会う。
ビジネスプランコンテストの発表を終え、10分間の休憩となった。アイデンは慣れないスピーチと怒涛の質疑応答によってボロボロとなり、自分の席に座ったまま呆気にとられていた。
「花岡くんで合ってましたかいね?」
声をかけられ、顔を上げるとそこには40代くらいの男が立っていた。
「いや〜わたくし、スピーチ聞いとりまして、実はいくつか気になった点がありましてですね〜」
男は目を見開いて、ものすごいスピードで話を始めた。その勢いに押され、反応が遅れたが慌てて椅子から起立したアイデンを見ると、男は大袈裟に頭を抱えた。
「あた〜、わたくしとしたことがっ……。自分の名前も言わずにビジネスの話など言語道断! 食事の前にはまずウコン! 必須ですたいっ!」
かなりなまりの激しい、かつ癖強いおじさんの独擅場が目の前で繰り広げられている。アイデンはこういうとき、引きつった愛想笑いを浮かべることしかできない。
「わたくし、巷では”伝説の投資家”なんて呼ばれておりますけれども、皆様もそろそろお察しのことかと御座います、ただのおじさんですたいっ。え〜ってなもんで、姓は村田、名は華丸、人呼んで村田華丸なんて申し上げとります」
「あっどうも、アイデンス株式会社の花岡藍伝です」
とっさに自分のターンが訪れ、簡素な挨拶になってしまった。そんなことも構わず、村田は話を進め始めた。
「いや〜、パンケーキ! あそこのパンケーキ屋は学生さんにえらい人気でしたもんね〜。是非とも! 是非ともアイデンスの立て直し、応援しとりますばい! くぅーーー!! 絶対に負けられない戦いがここにあるんですっ!」
「は、はぁ……」
この男がのちにアイデンスの運命を大く左右することになることなど知る由もないアイデンは、終始にやけ顔で会釈を繰り返すばかりであった。
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