フリー台本【タイトル:アイスコーヒー】
「相談があるんだけど」
と君からメッセージが来た。
僕は「わかった」と返信をして家を出た。
待ち合わせは19時で駅前の時計台。
君といつも待ち合わせをしている場所だから10分前についた。
「今日は暑いな」
と呟きながらスマホを見る。
熱帯夜が10日連続と適当につけたテレビの天気予報で言っていた。
日本の夏は暑さもきついけど湿気が一番きついんだよなと思う。
そんなことを考えていると君が手を振ってきていた。
「お待たせ。待った?」
「今来た所だよ」
「ならよかった。でもあっついねー。早く行こ」
と僕の手を握って引っ張る。その体温が優しかった。
僕達はいつもの喫茶店に入り、ボックス席に向かい合った。
店員さんにアイスコーヒーを頼み、最近の出来事を談笑していると店員がアイスコーヒーを持ってきて僕達の前に置いた。
君は一口飲むと僕を見て口を開いた。
「あのね。お母さんが体調崩して入院しちゃって」
僕はえっ?という表情になり君の顔を見た。空調は効きすぎているのか少し肌寒かった。体の芯から冷えていた。
「そんな顔をしないでよ。命に別状ないから大丈夫。でも、中学生の弟が実家に一人になっちゃうんだ。お父さんは単身赴任中で家に帰ってこれなくて」
と君は少し間を開けてコーヒーを一口飲んで続けた。
「だからさ・・・。私、実家に帰ることになったんだ。今週中にはここを離れる。だから・・・別れよ?」
僕はその言葉を聞いてコーヒーを飲むのをやめた。
「別れる?なんで?」
そう僕は問うと君は苦笑をした。
「私の実家、新幹線を乗り継ぐ所にあるんだよ?遠距離で出会えなくなるんだよ?君が社会人になったらもっと会える頻度が減るんだよ?私は耐えられない」
「僕も一緒に行くよ」
「大学はどうするの?中退するの?私はいいとしてそんなことさせられない。でもその気持ちは嬉しい。君は私の分まで卒業して」
「でも・・・。僕は・・・」
と言葉が出なくなっていた。そして頬に水滴が流れていた。
「僕は君の事が好きなんだよ。離れたくないんだよ」
と口に出していた。
「私もよ。でも・・・・。君に負担をかけたくない。私が申し訳なくなって生きていけない。だから・・・ね?」
と僕に優しく問いかけた。アイスコーヒーの氷が溶ける音だけが響いていた。
「あれから5年か」
と僕はいつもの喫茶店に腰を下ろしていた。
あの別れから僕は数年は引きずっていたけどなんとか会社に入ることができた。メッセージ送っても既読がつかなかった。忘れようと仕事に打ち込んで所長まで出世することができた。
僕はタブレットを開いてメールを打っている所だった。
「久しぶり」
すると後ろから声がした。僕は振り返り目を大きくした。笑顔で君が立っていた。
「ひさし・・・ぶり。久しぶり!!」
「そんなに驚かなくても」
「そりゃ驚くよ」
「だよねー。ここにくればいるかなって思ってきたけどまさか本当にいるとは思わなかった」
君は照れながら僕の向かいの席に座った。
「メッセージ、返せなくてごめんね。君のことを忘れようとして無視してた。でもね、忘れられなかったんだ。辛かった。本当に辛かった。会いたかった。一緒に居てほしかった」
君は一呼吸をした。
「お母さんね去年、亡くなったんだ」
「そうなんだ・・・。辛かったね」
そう僕が言うと君は頷いた。
「うん。辛かった。立ち直れないほどの悲しみが襲ってきた。弟は大学に入ったら一人暮らししてね、お父さんは単身赴任から帰ってきて一緒に住んでたんだけど、お父さんがもう一度一人暮らししていいんだぞと言ってくれてね、だから帰ってきたんだ」
君はホッとした感じでコーヒーを一口飲んだ。
「帰ってくれてよかった」
「私も嬉しい」
君は少し複雑な顔をしながら言葉を紡いだ。
「私が振っといて都合が良すぎると思うんだけど、もう一度寄りを戻さない?」
僕は顔が晴れやかなになりそうで頑張って隠した。
「僕でよろしければ。でも、また振られるかもなー」
と冗談で言うと君はあたふたしていた。
「ごめんってー。謝るから」
「我を讃えよ」
「ははー。讃えまする」
顔を見合わせて二人で笑った。
これから先、喧嘩することもあるし、立ちはだかる壁もあるだろう。
でも二人でやり直すきっかけを探していければ君とずっと一緒に居れるだろう。
今日もアイスコーヒーは苦かった。