【試写】平野レミの早わざレシピ!2024秋
私は、NHK時代には料理番組を多く手がけていた。料理番組のサブカテゴリーは多岐に渡るが、特に長時間に及ぶ生放送での料理ショーは世界でもNHKにしか作れない番組と言える(これは調べたことがある)。
一見簡単そうに感じるかもしれないが、緻密な準備と計算無くして成り立たないのが生放送の料理番組だ。
今回取り上げる「平野レミの早わざレシピ!」も正当なNHKの料理番組の系譜上に存在する番組だ。だが、私も学んできた「NHKの料理番組が守るべきこと」が簡単に打ち捨てられたような番組だったことを、ネットニュースで知った。
試写してみると、制作統括(責任者)の中には知った名前もあった。難しい感じの人物だが、美的センスや番組を見る目のシビアさなど、私はリスペクトもしていた。しかし、その人物がかつて編集室で「演説」していたような高邁な理想とはまるで正反対の番組だった。
気乗りはしないが、このような番組を良しとしていては、NHKから料理番組の火が途絶えてしまう懸念もある。ゆえに、敢えて試写記としてまとめることにした。
番組総評
平野レミの早わざレシピ!2024秋
正確性:★★☆☆☆
速報性:☆☆☆☆☆
公平性:☆☆☆☆☆
演出的工夫:★★☆☆☆
NHKらしさ:☆☆☆☆☆
合計:4/25点
オススメ度:★☆☆☆☆
「平野レミの早わざレシピ!」は、料理研究家の平野レミが独創的な時短レシピを紹介する料理番組だ。今回は前園真聖とみりちゃむをゲストに迎え、10品の料理を披露した。
紹介された料理は、「トンチンカンライス」「苔玉おむすび」「プチ成型オムレツ」「そうめん担々麺」「活気づくカキ焼」「アップルパン」など、奇抜な見た目によるインパクト重視のものであった。しかし、料理自体は、電子レンジやフライパンを巧みに活用し、短時間で調理できる工夫が施されており、放送用のレシピとしての完成度は決して低くはなかった。
調理の合間には、ゲストによる試食が行われ、料理の味や食感についての感想が述べられた。また、平野レミのDIYの様子を写真で紹介するなど、料理以外の話題も織り交ぜられた。
試写した上での感想
総じて本番組は、手軽さと創造性を兼ね備えたレシピの数々を通じて、日々の料理に新たなアイデアを求める視聴者のニーズに応えようとする意図はあったように思える。
また、野球中継の影響で55分尺であったが、10品を実演した上で試食やスタジオトークまで入れ込むのは神技と言える。ふざけたような見た目に反して、番組としての技巧は極めて高く、プロ視点からすると驚異的な番組ではあった。
だが、だからこそ、私としては番組内で起きたことはほぼ全て計算の上での「演出」だったことが容易に分かる。
投げ捨てた食材をネタにする奇怪さ
例えば、プチトマトを投げ捨てた場面もそのひとつだ。
流石にハプニングの類だったかもしれないが、その後にアナウンサーがしきりに「プチトマトはスタッフが美味しく食べる」と繰り返していたのには強い違和感があった。
なぜなら、テーブルの上に投げ捨てられて必ずしも衛生的とは言えないものをスタッフが食べるわけが無いからだ。もし食べていたら、それはそれで人権上の問題もある。
恐らく、放送中は大体Xばかり見ている責任者が天の声で「スタッフが美味しく食べる、とフォローしろ!」と伝えたからだろう。
ちなみに、もしアナウンサーが独断でこのようなフォローを入れたのだとしたら、一般職アナウンサーの暴走だ。
自著の宣伝は重大な放送倫理違反
何より私が懸念したのは平野レミ氏による自著の宣伝だ。昔は生放送のスタジオに出演者が勝手に自著を持ち込んで写り込ませることもあったが、今はそのようなことは基本的には許されない。それは出演者サイドにも必ず事前に伝えられている。
また、料理の生放送となれば、調理台には調理器具や下ごしらえ済みの材料、カセットガスなどが仕込まれている。FD(フロア・ディレクター)や調理助手の守備範囲であり、そこに勝手に自著を忍ばせることなど通常は起こり得ないのだ。
ゆえに、今回の件はNHK側も認めた上でのことであったと考えられる。書影こそアップで撮らなくても、本を出したことを何度も話題にした上に、出演者が「帯を書いた」などさらに話題を引っ張れば、莫大な広告宣伝効果が見込まれる。
同じだけのプロモーションを民放で実施しようとしたら一体幾ら掛かるのだろうか?恐らく1000万円は下らないだろう。それだけの「賄賂」を渡したとも見ることができるのだ。
このような行為をNHKが容認したとすれば、明確にNHKの理念に反する。
もし全て制作責任者が見過ごしていて、現場の暴走の結果だとしたら、それはそれで安全管理や平野レミ氏という人物の生放送におけるリスクを軽視した結果であり、同様に問題だ。
国際放送ジャック以上に重大な懸念
国際放送の問題が起きてから、NHK内では生放送のリスク管理について調査や点検が行われたという。しかし、今回のような番組が堂々と放送された以上、全く無意味だったと言わざるを得ない。
笑い話やネタのようにメディアでも扱われているが、本質的には国際報道問題と同様か、より悪質と言える。
数十年に渡って生放送での料理番組のキャリアを重ねてきた人物が制作責任者として名を連ねながら今回のような事案が起きたことは、私としては非常に残念だ。
今回の事案に対しては、NHK自身による厳しい処分が必要だ。何もせずに放置していたとしたら、公共の電波を私利私欲のために利用することをNHKが堂々と認めたことになる。
制御が困難な人物を生放送に出してはいけない
私が試写していて、もうひとつ違和感があったのは、平野レミ氏のように制御が困難な人物を出演させておきながら、「それもネタのひとつ」くらいに容認するトーンが番組上に滲んでいた点だ。
自著やレミパンくらいなら可愛いものだが、もし、コエツ氏のようなことを突然叫んだらどうしたのか?出したのが自著ではなく、危険な陰謀論や新興宗教関連の本だったら?はたまた、包丁を手に取って暴れたとしたら?
私の指摘は決して脅しではない。制御困難な人物を生放送に出演させるとは、そういうことだ。
生放送の中に料理実演を濃密に詰め込む技巧に溺れ、ネット上での「バズり」に呑まれたからこそ、本質的に守るべき部分を疎かにしたのではないか?
とにかく後味が悪い番組であった。