名もなき女の話

ゴミみてえな家庭で
カスみてえな親に育てられて
ご先祖さまを敬う気持ちが
どこをどうすれば芽生えるってもんだろう
産んでくれた人に感謝したくなるから
そのまた産んでくれた人に頭を下げたくなって
その繋がりを辿っていくから
自然と先祖ってやつに手を合わせたくなる
つまりそんな行為は
幸せな奴らだけの特権ってことだ
家庭内親戚中が憎み合ってるような凄惨な一家だった
父の機嫌が悪いと母は私を盾にした
何もかもが恐ろしかった
生まれてこのかたそんな記憶しかない
愛を知らないで育った少女は
やけをおこしたようにやたらめったら男と寝た
そこに愛なんて存在しないことは
お母さまとお父さまが嫌と言うほど
教えて下さったのですもの
男の家に行って仏壇なんか見かけると
ぶち壊してやりたくなった
あんたもそっちの人間かよ
幸せな奴らの仲間かよ
己の出生を呪うものは
その先祖全てを呪うのだ
なぜこんな世の中に私を産み落としやがったと
空に向かって独り吠え続ける一匹獣
親が今までの態度を改めたがっているような
私に許されたがっているかのような素振りを
見せるようになって
それは増々私の逆鱗に触れた
一生許さない せいぜい財産でも遺しなよ
そう吐き捨てた自分の顔は
見なくても悪魔の笑みそのものだったと思う
私は先輩の紹介でキャバ嬢を始め
ぐんぐん売り上げを伸ばしていった
男の前で天使と悪魔の顔を使い分けるなんて
朝飯前だったから
毎月やって来る生理だけが
私に子孫をよこせと催促しているようで腹が立つ
子どもなんて死んでも産むものか
客の中には私に入れ込んでいてなおかつ
将来有望な上等な物件もいる
でも結婚したら彼は子どもを望むだろう
私は孤独と共に生まれた
そして孤独と共に生きていく
許せないだけ
生まれたことが
ただ
それだけの女の話だ


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