50音から選ばれた4文字
20年の時を経ても
泣き叫ぶほど会いたい相手などいるだろうか
人は忘れゆく生きもの
ならば私は人間ではないのだろうか
目を閉じればすべてが鮮やかに蘇る
私にしか見せない笑顔
私の作る料理しか食べないせいで
瘦せ細り筋肉と血管の浮き出た体躯
私を抱くときの世界の終わりみたいな顔
機械オンチの私にはさっぱりのパソコンで何やら
ずっと作業していて
でもその背中をじっと見つめていると
必ず視線に気が付いて
振り返って目だけでなあに?と問いかけるときの
優しくて子どもみたいな表情
傍らにはいつも山盛りの灰皿を置いて
僕はこれと君の手料理さえあれば
生きていけるんだと
その言葉が冗談じゃなかったのなら
今どうしてるの
何を食べて生きているの
誕生日に大きなワンホールのケーキを作って行ったら
あっという間に平らげてしまって
すごいカロリーだよそれと笑ったけど
もうそのカロリーも残ってはいないでしょう
生きていてくれるだけでいい
今もどこかで呼吸をしていてくれるだけでいい
私の魂の双子
絶対に離してはいけなかったその手を
私は自分を守るために振り払った
なのにいつまでも忘れられないなんて
なんて都合のいい女でしょうね
孤独に打ち震える夜は
頭まで毛布を被ってあなたの名前を叫ぶの
何度も何度も泣きながら叫ぶの
届かないことなんてわかり切っているのに
止まらないの
肺が潰れる勢いで
50音から選ばれたそのたった4文字を
声が枯れるまで叫んでいるの
散々唾を吐いてきた神さまがもしもチャンスをくれるなら
頭を地面に擦り付けてでもお願いするわ
あの人を私に返してください
手のひらをすり抜けていった4文字を
握ってもう今度こそ離さないから
生きていて
そして再び巡り合ってください
またケーキ作らせてよ
今度は一緒に太ろうよ
煙草と私の手料理があれば生きていけるって
それ、現実にしてみせるから