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『あたしンち』随一の厄介キャラ「ほほえみさん」を語る

新聞に連載されていたマンガの割に、またゴールデンタイムに放送されていたファミリーアニメの割に、『あたしンち』は闇深い作品だ。

一番に挙げられるキャラといえば、ユズヒコの友人・藤野。普段は明るいお調子者だが、彼の家庭は結構闇を感じる。

個人的には、アニメ第408話「藤野、カゼで休む」の回が印象深い。
風邪を引いた藤野の家を訪れたユズヒコは、冬なのに暖房もついておらず、電気もついていない室内に、藤野の弟が鼻水を垂らしたまま佇んでいるのを目撃する。そして藤野は、ゴミに埋もれた部屋に寝ている。親は仕事に行っていて不在なのだという。

この回や第334話「ユズ、藤野の家に行くっ」で垣間見える藤野家の様子は、作中で深堀りされることはないが、見る者に多くの疑問や心配を与える。

そんな藤野以上に、私が個人的に闇を感じるキャラは、母の知人・マチコさん(通称・ほほえみさん)である。
そのあだ名の通り、一見穏やかでおっとりした女性に見えるが、彼女の性格や言動には、藤野とはまた違った方向の闇を感じる。

ほほえみさんは、よく言えば奥ゆかしく、悪く言えば、言いたいことを言い出せないグズグズした性格のキャラだ。

第473話「先に言ってよっ!」では、ほほえみさんの「言い出せない」っぷりがよくわかる。
街で母や水島さんらにバッタリ会ったほほえみさん。彼女たちに誘われて、新しく出来た駅ビルに一緒に行くことに。
しかし帰り際になって、ほほえみさんは「実は今日、お見舞いに行く予定だったんだ・・・・」と打ち明ける。母たちは「それを知ってたら誘わなかったのに!早く言ってよー!」と大騒ぎ。

別の日も、水島さん宅を訪れたほほえみさんは、コーヒーが苦手な体質であることが言い出せず、無理して飲んで体調を崩してしまう。
後日水島さんたちは、謝罪も兼ねてほほえみさん宅を訪れる。気にしていなさそうなほほえみさんの様子に安堵し、楽しく過ごす一向。
しかしそこへかかってきた電話で、ほほえみさんの夫が現在入院中で、しかも今日が手術当日ということが判明し、一同「早く言ってよ~!」・・・・というお話。

これだけだと、まだ「ほほえみさんは、すごく気ぃ使いな人なのかな」という気がしないでもない。
が、第590話「言いたい、言いたいっ」では、我々は彼女のより深い闇に触れることとなる。

ほほえみさんは40歳で、高校生の息子と、生まれたばかりの赤ちゃんがいる。下の子のママ友は、20代の若い母親ばかりだという。
ほほえみさんは、周りに話を合わせるうちに、自分を30歳と偽ってしまう。
「なかなか本当のことが言い出せなくて・・・・」と水島さんに相談を持ちかけるほほえみさん。水島さんは内心、「この人、大人しいんだか図々しいんだか・・・・」と驚く。ソツなくその場をやり過ごそうとして、かえって面倒な状況を呼び寄せてしまうという、ほほえみさんの厄介な性質がよく現れている。

さらにほほえみさん、下の子のママ友に対して、上の高校生の子を、自身の弟ということにしてしまったという。
推測だが、「兄弟に年齢差がありすぎて、変に思われるかも・・・・」という思いでとっさに付いたウソであろう。

ラストシーンでほほえみさんは、ベランダで空を見上げながら「神様、あのおしゃべりなタチバナさんと水島っちが本当のことを喋ってくれて、私の悩みを解消してくれますように・・・・」と呟く。
自身がついてしまった嘘の罪悪感を、スピーカーおばさんである母や水島さんが肩代わりしてくれることを望んでいるようで、少しゾッとしてしまった。

私自身も、言いたいことや言うべきことをなかなか言いだせない性格である。だが、ほほえみさんというキャラクターを通して、客観的に自分の性質を見た時に、「言うべきことをサッと言わないのって、こんなに迷惑なんだ」と気づいた。

『あたしンち』は、マンガ・アニメとは思えないほどリアルな描写が特徴であるが、その中でもほほえみさんのリアルな人物描写には舌を巻く。
おそらく、今までにどんなマンガやアニメでも描かれていなかったタイプのキャラではないか?と思う。


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さるなし@誰が見た夢
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