拾い屋
友人らと駅の構内にいる。
駅は海の上に浮かんでいる。
それぞれ、始発の列車を待っている様子。
休暇前の高揚した雰囲気が充満している。
友人夫妻が親しげに話しかけてくる。
長い休みになるので、留守中こどものことが心配だと言う。
奥さんはこども達を置いて行くことがとても気懸かりらしい。
全然大丈夫でしょ。と、旦那さんの方は屈託なく笑っている。
少し離れたところに、もう一組の友人夫妻が立っている。
ふたりでスーツケースの中身を確認している様子。
何気なく見ていると、旦那さんがわたしに気付き、にこりと笑う。
ぺこりと会釈しながら、長いこと会ってなかったけれど変わってないなぁ。。と少し不思議に思う。
「あーーー忘れてきたんだ!」と、先の友人が叫ぶ。
奥さんはどこかほっとした表情で、「しょうがないから帰ろう」と話している。
でも彼のほうはあきらめがつかない。あれがなくてもなんとかなるよ、と奥さんを説得しようとしている。
「すぐに拾って来るから」
いつもどおり、わたしが名乗り出る。
彼は大きく笑って「おぅ!玄関に置いたままだからすぐにわかるよ」と言う。
奥さんは「そんな。もう時間がないからいいわ」とためらっている。
「すぐに戻るから」と言いながら、わたしは海のなかに飛び込む。
「耳抜きー。忘れんなよ!」と、友人が頭上で叫ぶ。
凪。海のなかは思った以上にひんやりとしている。
「いつも必ず誰かひとりは忘れものをする。これは昔から決まっていることみたい」わたしは心のなかで思う。
それから、やっぱりこの仕事好きだなぁ・・・と、あらためて嬉しい気持ちになる。
静寂に包まれ、ふと振り返る。
光の輪の向こうに、浮かんでいる駅が遠ざかっていくのが見える。
友人の家までの道筋を反芻しながら、わたしはさらに深く潜って行った。
08/12/2007
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