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kiraku_san
忘年怪異【毎週ショートショートnote】
「その年の苦労や嫌なことを忘れる会ですので、この機会にいいですか?」
A男は隣の席に来て早口で捲し立てる。
「嫌いです。部下の成功は自分の手柄にするし、指示したことが間違えていたら、人のせいにするし。上司にはテキパキした声も僕たちの前でねっとりした声も。俺50歳なのにモテるっていう雰囲気だしてるのもイタいし育児のこと「手伝ってあげろよ」言うのにもイライラします。無礼講にもほどがあるですか?これ飲んで明日には夢になるから。思い切って言ったんですよ」
A男は勝ち誇った顔でビールを一気飲みする。
嫌われてるのは知っていたよ。
それより。
「これいつから夢なの?夢のはじまりっていつかな」
怒りも悲しみもしない俺を一瞥し、A男は顔を歪めて別の席に移動した。
昨日妻が渡してきた離婚届も夢だ。
寝て起きたら、妻はいる。
そうだ、そうに違いない。
大丈夫。全部夢だ。
席を変えB子の胸を挨拶代わりにつかみ、すぐに俺はビールからウイスキーに切り替える。
(410字)
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