デッサンで初心者が人物の描き方をマスターするコツとは?
どうも。プロ鉛筆画家の中山眞治です。青葉にそよぐ風も爽やかで、過ごしやすい季節となりました。元気でお過ごしですか?^^
さて、デッサンを始めたばかりのあなたに最適なガイドです。この記事では、人物デッサンの基本的な技法から、ポーズや比例の取り方、影の付け方まで、初心者にも理解しやすい形で解説します。
美しい人物画を描くための秘訣もご紹介しますので、これからデッサンを学びたい人はぜひ参考にしてください。
それでは、早速見ていきましょう!
1 人物デッサンの基本:初心者が覚えるべきポイント
(1) 正しい姿勢から始めよう
デッサンを始める前に、最も大切なのは正しい姿勢を身につけることです。
イーゼルの高さを自分の扱いやすい高さに合わせ、リラックスした状態で描けるようにセットアップしましょう。姿勢が安定していると、細かいディテール(詳細)も正確に描くことができます。
具体的には、足を組まず背筋を伸ばして、イスに深く腰掛けることで、長時間描いても疲れにくくなれます。
また、イーゼルの上にスケッチブックや紙を乗せて、その画面の左右どちらからでも良いのですが、頭を動かさずに、目線の移動だけで、人物と画面を移動できるような配置が疲労を少なくします。
(2) 基本的な比例を把握する
人物のプロポーション(比率)を正しく捉えることは、リアルな人物像を描く上で非常に重要です。
一般的に、成人は7.5頭身から8頭身が基準です。顔の基本的な割り付けを学び、身体各部の大きさとのバランスを理解しましょう。
(3) 肖像画における比例の理解
肖像画で顔の比例を正確に捉えることは、作品のリアリズム(写実)を大きく左右します。一般的に、顔の長さはその顔の幅の約1.46倍とされています。
また、顔の中心線を基準にして、目はその中心線からやや上の位置に描かれます。
鼻の長さは目の下から顔の中心線までの距離と同じくらいが理想的です。さらに、耳の位置は目と鼻の間に揃えることが一般的です。
これらの基本的な比例を理解し、守ることで、肖像画の基本的なリアリティが生まれます。
(4) 人の顔を描く手順
a 顔全体のバランス
前髪の生え際から眉間まで、眉間から鼻下まで、鼻下から顎先までの長さはそれぞれ同じ比率の1:1:1です。
また、顔の横幅が目の横幅の5倍、顔の横幅と顔の縦の長さが1:1.46の3つの条件が顔全体のバランスの黄金比(※)と言われています。
※ 黄金比とは、古代ギリシアの数学者が最初に発案したといわれており、近代になって「黄金比」と名付けられ、今もなお使われ続けている比率のことです。
「人間が最も美しいと感じる比率」といわれていて、 近似値では「1:1.618」、「5:8」となります。
b 輪郭線と補助線を入れる
輪郭線と補助線を最初に描くことは、作品全体のバランスを取る最初のステップです。輪郭線は、卵形の楕円を描き、画面に縦の中心線を入れましょう。
c 鼻・口・目の位置を決める
・横の比率 1:1:1:1:1
=耳から目尻:目の大きさ:鼻:目の大きさ:目尻から耳
・縦の比率 1:1:1
=前髪の生え際から眉間まで、眉間から鼻下まで、鼻下から顎先まで
d 目を描く順序
目全体の形状→黒目→白目
黒目を描く際は、黒目の中心から描いていきますが、色の濃いとこをから描き始めることで描きやすさが増します。
尚、瞳に映っている光はよく観察して、その部分は最初からトーンを乗せないように注意しましょう。また、黒目部分は一様に真っ黒ではなく、色の変化がある事にも注意が必要です。上の作品例を確認してください。
e 髪の毛を描く順序
髪の毛全体の輪郭を描く→髪の毛の流れを描く→影になっている部分の濃いところと、光が当たって反射しているところを意識して描く
(5) 効果的な構図の選び方
構図は、視覚的な魅力を高めるために非常に重要です。肖像画においては、「三分割法」を利用することも一つの方法です。この法則では、画面を縦横に三等分し、その交点や線上に主要な要素を配置します。
例えば、被写体の目を横の上の第一線(上の線)に合わせることで、自然でバランスの取れた構図が生まれます。また、背景にあえてシンプルで濃いトーンを施すことで、被写体を際立たせる効果も期待できます。
尚、背景に濃いトーンを配置した場合には、改めて人物にも濃いめのトーンを施すことによって、リアリティー(現実性)が増します。
肖像画を描く際には、これらの比例と構図の基本を念頭に置きつつ、実際に多くの作品を参考にすることが大切です。
具体的な作品を観察し、それぞれの画家がどのように比例と構図を扱っているかを学ぶことで、自身の作品に生かすこともできます。
このような基本的な理解を深めることで、初心者でもプロのような肖像画を目指すことが可能になります。
(6) 光と影を意識する
光が当たる角度によって、影の形や大きさが変わり、デッサンにおいて非常に重要な役割を果たします。
光源を意識しながら、影をつけることで立体感が生まれ、作品に深みが加わります。初心者は、まずは単一の光源から始めて、徐々に複雑なライティングに挑戦してみてください。
これらのポイントを押さえることで、人物デッサンの基礎が固まり、さらに高度な技術に進むための土台が築けます。デッサンは練習と経験が必要ですが、基本からしっかり学ぶことで着実に上達していけます。
2 正しい比例とポーズの描き方
(1) 人体の比例を理解する
人物を描く際の比例は、リアリズム(写実)を追求する上で基本中の基本です。人体の各部位の比例を正しく把握することが重要で、たとえば、大人の体は通常、頭の長さが全身の約1/7.5~1/8です。
(2) ダイナミック(動的)なポーズを捉える
静的なポーズだけでなく、動きのあるポーズを描くことで作品に活力を与えることができます。ポーズが自然でダイナミックなものに見えるように、重心のバランスと動きの流れを意識してください。
実際にモデルがポーズを取る様子を観察するか、写真を参考にして練習するのも効果的です。
参考:ボード「ダイナミックなポーズ」に最高のアイデア 89 件【2024】 | スケッチ, 人物デッサン, スケッチのコツ (pinterest.jp)
(3) ポーズのバランスをとる
人物が安定感のあるポーズをとっているかどうかは、作品を観てくださる人に自然な印象を与えられる鍵になります。
特に立ち姿や座り姿では、体重のかかる足や臀部(尻)が地面にしっかりと接しているかを確認しましょう。
実際に自分自身でポーズを取ってみることで、体重のかかり方を体感するとより理解が深まります。
これらのポイントを理解し、実践することで、初心者でも徐々に正確な比例と、自然なポーズの描き方をマスターできるでしょう。観察力を養い、実際に多くのポーズを試してみることが上達への近道です。
3 影の理解と表現技法
(1) 影の基本原則を学ぶ
デッサンにおける影は、人物がどのように空間に存在しているかを視覚的に示す重要な要素です。光源の位置によって形成される影と、その強さや広がりを理解することが始めの一歩となります。
特に、影を描く際には、光の方向と影の落ちる方向が一致していることを確認しましょう。これにより、作品にリアリズムと深みを与えることができるのです。
(2) 硬い影と柔らかい影の使い分け
硬い影は、光源が強く、影がはっきりとしている状況で発生します。真夏の炎天下にできる、樹木の影を思い浮かべてください。
一方、柔らかい影は、曇りの日や間接照明のような光源から生じ、境界がはっきりしない特徴があります。また、窓から室内に差し込んでいる光のエッジは、室内に行くにしたがって弱くなっていきます。
これらの違いを活かして、デッサンに表現の幅と奥行きを加えることが重要です。たとえば、人物の顔に柔らかい影を加えることで、より自然で優しい表情を表現できます。
この影には、H系統の鉛筆で優しいタッチを使い、尚且つ、縦横斜めの「クロスハッチング」を使って重ね塗りしていきましょう。
最初から濃いトーンは乗せずに、様子を見ながらまるで「化粧」をするイメージでトーンを載せることがコツです。
(3) 影を施すことによる形の強調と立体感の創出
影を効果的に活用することは、形の強調や立体感を生み出すことにつながります。影の濃淡に注意を払い、光が当たっていない部分へ徐々に濃いトーンを乗せていくことで、形が浮かび上がってくるように描くことができます。
この技法は、特に肌の質感や布の折り目など、細かいデテール(詳細)の表現に効果的です。
影の正確な理解と表現技法をマスターすることで、あなたのデッサンは一段とリアルでプロフェッショナルなものになります。
初心者から中級者へのステップアップには、実際に多様な光環境での制作を行うことが推奨されます。
4 デッサン用具と材料の選び方
(1) デッサンに適した鉛筆の選び方
デッサンには、さまざまな硬度の鉛筆が使用されますが、初心者の人には、同じメーカーの2H・H・HB・B・2B・3B・4Bの合計7本の鉛筆があれば、当面の制作ができるでしょう。
同じメーカーの製品で揃える理由は、メーカーによって「描き味」や「濃度」多少異なるからです。
そして、それ以上の種類の鉛筆は、あなたが「この先も鉛筆デッサンや鉛筆画の制作を続けていける」と思えたところから、徐々に増やしていけばよいのです。
硬度が異なる鉛筆を用いることで、線の強弱や陰影の深さを表現することが可能になります。
鉛筆の濃度は、B系統の、数字が大きくなるに従って、線は濃く描けて柔らかくなります。このため、細かいディテールには2HやHを、大胆な影の表現には4Bくらいを使うと良いでしょう。
因みに、B系統の鉛筆は10Bまでどこででも購入できますが、最大で12Bという鉛筆まであります。一方、薄い色のH系統は、10Hまであります。詳細は、次の関連記事を参照してください。
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(2) スケッチブックや紙の種類とその特性
デッサンに使うスケッチブックや紙は、その質感や厚みによって作品の印象が大きく変わります。粗めのテクスチャー(感触)の紙は、柔らかい鉛筆と相性が良く、豊かな陰影を表現するのに適しています。
一方、滑らかな紙は細かい線やディテール(詳細)を鮮明に描くのに適しており、硬めの鉛筆と組み合わせると良いでしょう。
スケッチブックや紙の色も考慮し、白以外の紙を選ぶことで異なる雰囲気も作り出すこともできます。 詳細は次の関連記事を参照してください。
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(3) その他のデッサンツール
消しゴムもデッサンには欠かせないアイテムです。固い消しゴムは線をはっきり消すのに向いている一方で、軟らかい「練り消しゴム」は画面を優しくなぞったり、軽く表面に押し当てることで、微妙に陰影を調整できます。
また、小型のスケッチブックを持っていれば、いつでもどこでも描く習慣を身につけることができ、実践的なスキル向上につながります。
その他にも、線の幅やテクスチャーを変えることができるチャコール(木炭)及びペンやボールペンも、表現の幅を広げる選択肢として考慮に値します。
これらの道具と材料の適切な選択によって、デッサンの技術向上だけでなく、表現の幅も広がります。適切なツールを選ぶことで、作品に更なる深みを加え、デッサンの楽しさをより一層感じることができるでしょう。
尚、「練り消しゴム」は、ただ単に線の修整や消し込みだけではなく、「光を描く」ことや「動物の毛並を描く」等の、特別な手法に欠かせないアイテムです。詳しくは次の関連記事を参照してください。
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5 練習方法と頻度のすすめ
(1) 定期的な練習の重要性
デッサンの技術向上には、定期的かつ継続的な練習が不可欠です。毎日少しでも時間を見つけてスケッチする習慣を身につけることが大切です。
例えば、毎日の通勤時間や休憩時間を利用して、手帳や小さなスケッチブックに速写(クロッキー)を行うことで、観察力と描写速度を向上させられます。
(2) バリエーションを持たせた練習法
デッサンの練習では、ただ同じ対象を繰り返し描くだけでなく、さまざまな角度から、異なる光の条件下で描くことも重要です。
また、人物だけでなく、静物や動物を描くことも試みましょう。これにより、対象をより深く理解し、多角的な表現力が身につきます。
(3) 短時間集中練習と長時間の深掘り
練習の質を高めるためには、短時間で集中して多くのスケッチを行う「速写(クロッキー)」や、「長時間かけて一つの作品をじっくり仕上げる」など、練習のアプローチを変えてみることが効果的です。
速写では、即座に形や動きを捉える反応速度が養われ、長時間描くことで細部に対する注意力や細密な描写技術が向上します。
これらの練習方法を実践することで、デッサンスキルの幅が広がり、より多くの状況で柔軟に対応できるようになれます。
デッサンの上達は、時間がかかるプロセスですが、コツコツと練習を重ねることで確実に成果を出すことができます。
頻繁に練習することが、最終的には自信につながり、作品の質を高めることにも繋がるでしょう。
できるものであれば、毎日集中できる時間を30分持てたとすれば、効果的ですし、週に一度は2~3時間は時間を作って、作品の完成に向かって集中しましょう。驚くほど効果が上がるはずです。
参考:ウィキペディア クロッキーhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC
6 よくある初心者の間違いとその修整方法
(1) 過度な細部へのこだわり
初心者の人はしばしば、細部へ過度にこだわり、全体の構成やバランスを見失いがちです。この問題を解決するためには、全体の形状と構成を先に描き、その後に細部に進む手順を守ることが重要です。
大きな形から始めて、徐々に詳細への描写につなげていくプロセスを心がけ、 画面上における全体のバランスを取ることの重要性を理解しましょう。
(2) 比例の誤り
多くの初心者が陥る一般的な問題は、人物や物体の比例が不自然になることです。この修整方法としては、描き始めに対象の大きなブロックを簡単な形でスケッチして、全体の比例を把握することが有効です。
また、鏡を使用して作品を逆さまに見ることで、比例の誤りを発見することもできます。
(3) 光と影の無視
初心者は、光と影を適切に表現できていないことが多いものです。光の方向と強さを意識して、影を置く場所とその強度を決めることが大切です。
簡単な練習として、一定の光源を設定し、その光源からどのように影が落ちるかを観察し、スケッチしてみると良いでしょう。
これらの一般的な間違いを理解し、それぞれの修整方法を実践することで、デッサンの技術は格段に向上します。
初心者の人は特に、自身の作品に対する客観的な視点を持つことが重要で、時には他者のフィードバック(批評)を求めることも有効です。間違いから学び、それを修整する過程が、上達への近道となるでしょう。
7 インスピレーションを得るためのアート作品の紹介
(1) 古典美術から学ぶ
歴史的な名作は、デッサン技術や表現の幅を広げる上で、豊富なインスピレーション(ひらめき)を提供してくれます。
たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチの「ヴィトルヴィアン・マン」は、人体の比例と幾何学的構成を学ぶ絶好の例です。
また、ミケランジェロの彫刻「ダビデ」は、筋肉の表現と動きの捉え方で優れた学習材料となります。
(2) 現代アートから新しい視点を
現代アートは、従来の枠を超えた表現が多く、新しい技術やアイデアに触れることができます。たとえば、バンクシーのストリートアートは、社会的メッセージを含む強い視覚的インパクトを持っています。
これらの作品は、伝統的なデッサンの方法だけでなく、現代の視点でのアプローチをも学ぶことができます。
(3) 自然とアートの融合
自然界の形や色、光と影の美しさは、アート作品に無限のインスピレーションを与えてくれます。
アンディ・ゴールズワージーのランドアート作品などは、自然の素材を使用して一時的な美を創出し、これを通じて自然とアートの関係性を再発見できます。
これらの作品から、季節の変化や自然のテクスチャーをデッサンに取り入れる方法を学ぶことができます。アート作品の紹介を通じて、あなたのデッサンのインスピレーションの源として活用してみてください。
古典美術、現代アート、自然との融合から得られる知識と感性は、あなたのアート作品を豊かにし、表現の幅を広げる手助けとなるでしょう。
8 まとめ
デッサンの基本をマスターするためには、適切な技術と練習方法を理解することが重要です。ここでは、デッサン初心者の人が押さえるべきポイントをまとめています。
基本的な比例とポーズの描き方: 人体の基本的な比例を把握し、さまざまなポーズを自然に描くことで、リアリスティック(写実的)な表現が可能になります。ポーズの安定感や動的な表現に注意を払いましょう。
影の理解と表現技法: 光源に応じた影の落とし方を学ぶことで、作品に立体感と深みを与えることができます。硬い影と柔らかい影の使い分けも重要です。
デッサンツールと材料の選び方: 適切な鉛筆とスケッチブックや紙を選ぶことが、作品の質を大きく左右します。さまざまな硬度の鉛筆や異なるテクスチャーの紙を試してみましょう。
練習方法と頻度のすすめ: 定期的な練習はスキルアップに不可欠です。短時間の速写から長時間の細密な描写まで、多様な練習法を取り入れることが効果的です。
よくある初心者の人の間違いとその修整方法: 比例や光と影の誤りは初心者に多い問題です。これらを修整するためには、基本から正しく学び、繰り返し練習することが重要です。
インスピレーションを得るためのアート作品紹介: 古典美術、現代アート、自然界からの影響を取り入れることで、創造的な発想が豊かになります。
これらのポイントを日々の練習に取り入れることで、デッサンの技術を確実に向上させることができます。さあ、今日からデッサンの練習を始めてみましょう!
ではまた!あなたの未来を応援しています。