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僕とバカ騎士とポンコツ魔法使い

●あらすじ●


冒険者――治療師の僕と騎士オオガミと魔法使いエナは今日もお金に困っていた。
バカでトラブルメーカーのオオガミ、偉そうでろくに魔法が使えないエナ。
落ちこぼれの僕たちだけど、今日も借金返済のために冒険に出かける。




第1話 バカ騎士オオガミ

 緑に囲まれた野原で涼しい風に当たっている僕は路頭に迷っていた

 残高0ゴールド。

 お金がない。金欠だ。 
 何度巾着の中を見ても、丸い硬貨は一枚もなかった。

「……ヤバいな」

 思わず声が漏れてしまった。
 まだ家賃も払ってないし、武器のローンだってまだ残っている。それに飯も食べないといけない。
 日が経つたびにお金は増えるどころか減っていくばかり。そしてついに所持金は底をついてしまった。
 本当はお金はあったはずだったんだ………冒険者になった時にもらった10万ゴールドが。だけどそのお金は一瞬で溶けてしまった。
 こんなにも僕を金欠で悩まされているのは、2週前の出来事が原因だろうか? それとも昨日の出来事が原因だろうか?

「……そんなことを考えても意味ないよな」

 僕は重いため息を吐く。
 過去のことで悩んでもダメだ。先のことを考えよう。
 お金を稼ぐには働くしかない。
 僕は冒険者だ。
 依頼主からの報酬やモンスターの鱗や皮、肉などを商人に売ることで収入を得る。
 ということはお金を稼ぐには依頼を受けて、モンスターを倒す必要がある。
 だけど一つ……問題がある。
 依頼を達成できなければ報酬をもらうことができない。それどころか失敗料としてお金を払わなければいけない。
 冒険者は金稼ぎにもってこいの職業だ。うまく依頼をこなせば巨万の富を手に入れることだって夢じゃない。 
 だけど必ずしも儲けているわけじゃないのだ。僕たちみたいに失敗料を払い続けると赤字になってしまう……
 

「お……い。サク……」

 空っぽな巾着を見ながら、これからどうやって生活しようかと考えていると、背後から弱々しい声で僕の名前を呼んでいるのが聞こえる。
 あ、オオガミだ。
 振り向くとパーティーメンバーがいた。
 身長はだいたい180センチと高く、体つきもいい。鍛えられた身体には白銀の鎧を纏っている。
 鋭い目と細い眉が印象的な顔、それに加えて赤髪はオールバックなのでオオガミからには威圧感があった。
 強面の彼なのだがいつも「へへへ」と笑っていて陽気な性格……なのだが今は違うみたいだ。

「大丈夫!? オオガミ」

 顔を真っ青にしながら腹を押さえている。あきらかに体調不良だと分かった。

「回復を……頼む……腹が痛てぇ」
「腹? まさかモンスターにやられたの!?」
「……キノコに」

 は?

「腹へったから……道に落ちていたキノコを食ったら……毒キノコだったみたいだ」
「……」

 冒険者になって依頼を受ける前にやることがある。
 それは仲間を集めてパーティーを作ること。
 依頼を達成するには役割を分担して、人と協力する必要がある。
 中には一人で依頼をこなす一匹狼の冒険者がいるという噂があるが、本当にいるかどうか定かじゃない。
 彼は同じパーティーに所属するオオガミ。
 盾でモンスターの攻撃を防ぎ、大きな剣で反撃をする騎士である。

「くっ……」
「くっ……じゃないよ。なんで落ちてた物を毎回食うのさ?」

 オオガミは力持ちでモンスターと戦闘になった時、頼りになる存在なのだが、ただ……
 バカなんだよな。
 このようにキノコや薬草をすぐ食べようとしたり、モンスターを倒すための作戦を説明するのだが、理解できずに結局敵に突っ込んだり……
 彼の弱点を挙げるとしたら、すごいバカ。あと女性に騙されやすいところだ。
 そのせいで2週間前、武器商人の女性に騙されて聖剣 (ニセモノ)を買ってしまったのだ。
 値段は5万ゴールド。僕らにとって大金である。
 この世界に一本しかない聖剣が5万ゴールドで売っていたら普通疑うのだが、オオガミは満面の笑みで買ったらしい。

「本当にバカだ……」

 呆れてため息と共に本音が出てしまった。

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 オオガミは腹から大きな音を鳴らして、崩れ落ちた。
 明らかに緊急事態だっていうことが分かる。

「うおおお!! やばい……は、はやく……ヒールを」
「……ヒールじゃ下痢は治らないよ」
「なに!?」
「毒だから解毒薬か解毒術じゃないと」
「じゃ解毒術を頼む……」
「……使えないんだよ」
「おいおいサク。治療師だろ? 毒ぐらい治せないのかよ? 情けねぇな」

 お前の方がよっぽど情けないよ。
 僕は漏れそうなのを我慢しながら地面に倒れているオオガミを睨んだ。

「しょうがないよ。まだ冒険者になったばっかりなんだから。これから覚えるようになるんだよ」
「じゃ、解毒薬でもいいからくれ」
「持ってきてないよ。今日の依頼は電光虫を捕まえるだけで、毒属性のモンスターを討伐するわけじゃないし」
「なんだよ。気が利かないな……いいか冒険者っていうのはトラブルが付き物なんだ。どんなことでも対応できるように準備しねえと。これ基本な」

 お前がそのトラブルを作っているんだよ。
 オオガミに言われても説得力がない。
 僕は「そうだね」と軽く流す。

「ったくよ。やっぱり俺様がいないとダメだな。ハハハハハッ」

 殴りたい。こいつの腹を殴りたい。
 普通に戦ったら間違いなくオオガミに負けるのだが、腹をくだしている今、もしかしたらこいつに勝てるんじゃないか?
 しかし、どうやら腹を殴る必要はないみたいだ

「うおおおおおお!! ……またきやがった」

 グルグルグル!と嫌な音が野原に響く。
 オオガミは震えながらゆっくりと立つ。

「俺は……騎士。だから無様な姿を見せるわけにはいかない……」

 もう十分無様な気がするが。
 思ったのだが、口に出さないでおこう。

「サク……俺は……いい作戦を今……思いついた」
「なに?」
「あいにく、ここは野原だ……周りには森がある。そこでしようと思う」

 分かったから、早く行けよ。
 決断したオオガミは走ってもないのに息切れをしていて、辛そうだった。まぁ、自業自得だけど。

「しかし一つ問題がある。尻を拭く物がない」

 知らねぇよ!!

「……そこら辺に生えている草で拭けばいいんじゃない?」
「それだ!!」

 適当に言ったが、どうやらオオガミには名案だったらしく、僕の肩を叩いて褒める。
 もう呆れて笑うしかなかった。

「じゃ……俺は……作戦を実行するために森に向かう」
「そ、そう。気をつけてね」

 出ないように姿勢よく歩くオオガミの後ろ姿を見て、僕は再び思う。

「やっぱりバカだな」


第2話 ポンコツ魔法使いエナ

「なに落ち込んでいるのよ」

 森に向かうオオガミを見送って、しばらく経った後。
 オオガミは無事に間に合ったのだろうか? と心配している僕に話しかけてきたのはエナだった。
 
 パーティには僕とオオガミ以外に女の子が一人いる。
 腰まで伸びているストレートヘアーの金髪はサラサラして艶があった。そしてオシャレのために赤いカチューシャをつけている。
 まるで人形のような綺麗な白い肌と整った顔立ち。緑がかった大きい瞳。
 可愛らしい顔をしているのだが、気が強くてワガママなのが残念な少女である。

「別になんでもないよ。……ただ金欠に悩んでいただけさ」
「簡単よ。そんなの私に任せればすぐに解決できるわ!」
「……」

 ………解決できてないんですけど
 僕が回復担当、オオガミが接近戦担当なら、彼女は遠距離担当。
 エナは自分の血を使って詠唱し、巧みに魔法を使って戦う魔法使いである。
 だからなのか、ワイシャツとスカートの上に着ているローブが似合っている。
 魔法使いの攻撃は強力。そして派手である。なのでエナの攻撃は毎回僕を魅了する。
 でも訳あって……エナの魔法は滅多にしか見れないけど。

「ねぇサク。あんたのヒールで空腹治せないの?」

 こいつは何を言っているのだろうか?

「できないよ。ヒールは傷を治す魔法だから」
「万能じゃないのね」
「無茶なこと言うなよ!!」

 ヒールを何だと思っているんだよ!? 

「エナ、さっき僕とオオガミの昼飯奪って食べてたじゃないか?」
「少ないわよ!! 魔法を発動させるにはかなりの体力を使うの!! だからすぐにお腹減るんだから」
「そのせいでオオガミ毒キノコ食べて、下痢なんですけど」
「知らないわよ。でもさすがオオガミだわ。毒キノコ食って下痢なんて子供じゃないんだから。あ! 頭は子供だったわね」

 ……最低だ
 下痢しているオオガミを心配することなく、あざ笑うエナ。食べたオオガミも悪いけど、なんだか可哀想になってきた。
 彼女は可愛いのだが、性格に難がある。
 出会った当初、美貌にときめいた自分がいたが、人の不幸が大好きなところ、貪欲なところなど知ってしまった今、恐ろしい女だと思っている。

「さっさと依頼を終わらせて、ご飯にするわよ!! もし依頼失敗して飯抜きとかになったら許さないからね!!」
「……分かったよ」
「さぁ、今日も肉を食べるわよ!!」

 ……マジかよ。
 あんなに肉食べたのに、まだ飽きないのかよ。
 所持金0ゴールド。僕らが金欠になったのはオオガミが聖剣 (ニセモノ)を買ったせいでもあるが、エナのせいでもあるのだ。
 それは昨夜の出来事。
 依頼を終えた俺らは、報酬が予想以上に多くもらえたので、酒場で宴をすることにした。
 それが事件の始まり。
 彼女は大食いだった。酒場にある肉全てを食いつくすほどの。
 次々に出てくるお肉を一瞬で消してしまうのだ。この人魔法使いだから魔法で消しているのかな? と思っていたけど、魔法は関係なく、普通に食べていただけだった。
 その結果、俺らは多額のお金を請求をされてしまい血の気が引いてしまった。
 冒険者なりたての僕たちは払えることができず、「すみません……必ず払いますから」と土下座した。
 だけど酒場のオーナーは激怒。「二度と来るな!!」と出禁にされてしまった。
 さっきは所持金0ゴールドって言ったが、まだ酒場の支払いが終わってない。
 ……借金だ。

「はぁ……お金……あんなにあったのにな」
「確かに。あのバカがガラクタなんか買わなければ、もっとマシな飯が食えたのに」
「……」

 エナがあんなに肉を食わなければ、金欠に悩まされることはなかったのに
 じぃー……
 僕の視線に居心地の悪さを感じたのか、エナは冷や汗を流しながら睨む。

「何よ!! 私が悪いって言いたいわけ? あの時はしょうがなかったの!魔法使いすぎて限界だったんだから、いい? 私は空腹が続くと理性を失うの!! 何か食べ物を口にしないと暴走してしまうのよ!!」
「つまりあの日酒場の肉を全て食ったのは、暴れないためって言いたいの?」
「そうよ。納得でしょ」
「……そうっすね」

 どんな設定だよ。
 僕は視線を逸らしながら答える。
 なぜか威張りながらドヤ顔をしているエナを見て、自然とため息が出てくる。

「うおおおおおお!!」

 遠くから聞き慣れた声が聞こえる。
 声がしたほうを見るとオオガミがこっちに走ってきてる……それと後ろから誰かが追っている。
 オオガミは僕とエナのほうに近づいてきて、目を凝らすとオオガミの後ろを走っているのが誰なのか分かってくる。

「げっ!!」

 分かった瞬間。自然と声が漏れる。

「なんでゴブリンなんか連れてきているんだよぉぉぉぉぉ!! あのバカぁぁぁぁ!」

 僕とエナはゴブリンから逃げるように後ろを走る。
 オオガミは僕たちに追いついて「へへへっ」と笑っていた。

「糞してたらゴブリン見つけてよ。こいつなら食えると思って」
「食えるわけないだろ!! あんな腐った肉!!」
「いや、一匹だったから勝てると思ったけどよ。あの野郎仲間呼びやがって……卑怯と思わないか?」
「……」

 ゴブリンは臆病な生き物だから、敵を見つけたら襲う前に仲間を呼ぶ習性があるんだよ。って言ってもオオガミは分からないだろう。
 早く逃げよう。
 後ろをちらっと確認をするとゴブリンは10体。冒険者なりたての僕たちにとってかなり苦戦する数だ。
 ここは逃げたほうが賢明だ。

「二人とも私の後ろにいなさい」
「エナ!」

 僕とオオガミと一緒に走っていた彼女は走るのをやめて、後ろを振り返る。
 そして親指を噛み、親指から出た血で手のひらに『Ⅲ』と文字を書く。

「赤き子よ」

 そして言葉を呟き、文字を書いた手をゴブリンたちに向ける。
 
「我の血で目覚めよ」

 エナが唱えると、手に書いた文字に赤い光が輝き始める。
 次第に赤い光は大きくなってエナの右手が赤い光に包まれる。
 僕は綺麗だなと思いつつ、今回は成功するんじゃないかと期待する。
 倒せっ!! エナ。 ゴブリンの素材はよく売れるぞ。

「英雄リリーアの第3の魔法……インプレしゅぅ……ん」
「噛むなぁぁぁぁ!」

 大きくなっていた赤い光は消えてしまった。その代わりエナの顔が真っ赤になっていた……羞恥で。
 失敗だ。
 魔法は呪文を唱えて発動させるものなのだが、その呪文を一回でも間違えたりすると魔法は消えてしまい不発に終わる。
 彼女は呪文を唱えるのが苦手だ。それはもう呆れて笑うことしかできないぐらいレベルの。

「エナ、オオガミ、退散っ!!」

 僕が入っているパーティーは、バカでトラブルメーカーの騎士オオガミ、意地っ張りで滅多に魔法を発動しない魔法使いエナの三人で活動している。
 もちろん弱小パーティーだ。その上お金がない。
 こんな僕たちだけど今日も生きるためにお金を稼ぐ。

 ……てか金欠の原因、僕関係なくない。

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