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ダイゴの台本

〇教室・夕方。

中央に長机二つにパイプ椅子二つが置かれている。両端には学校机と椅子たちが綺麗に並べられている。

リコ、パイプ椅子に座って作文を読んでいる。

ススム、リコの顔を嬉しそうに見つめる


リコ  「(立ちながら)将来の夢。二年一組六番 佐藤 進。俺はキムタクになりたいです」

ススム 「どう?先生」

リコ  「うん。やり直し」

ススム 「何ですか!?(勢いよく立ち上がる)

リコ  「ふざけているから」

ススム 「ふざけていないです」

リコ  「じゃあ、キムタクって何?(作文を指さして)

ススム 「木村 拓哉ですよ」

リコ  「それがふざけているの」

ススム 「えーダメですか?」

リコ  「ダメ」

ススム 「もう勘弁してくださいよ~(崩れ落ちる)

リコ  「勘弁してくださいよ~じゃない。真面目にしないのが悪いんでしょ」

ダイゴ 「うっ……」

リコ  「ほら。さっさと書く(作文を机に置く)

ススム 「だいたい何で冬休みなのにわざわざ学校に来て宿題しないといけないんですか!」

リコ  「そりゃ。あんたが普段から宿題出さないのがいけないでしょ。国語の鈴木先生が言っていたわよ。あいつは問題児って」

ススム 「あのハゲ頭が……」

リコ  「そんなこと言わないの。ほら書いた書いた」

ススム 「(作文書く)何で将来の夢を作文に書かないといけないんだよ~」

リコ  「それが宿題なんだから、しょうがないじゃない?それ国語の宿題でしょ」

ススム 「あの先生。毛と一緒に脳ミソも抜け落ちているんじゃないですか?」

リコ  「コラ!!」

ススム 「……」


ススム、頭を掻きながら、作文に書いてある文字を消す


リコ  「……ススム君本当にやりたいことないの?」

ススム 「無いから困っているじゃないですか~」

リコ  「何でもいいのよ」

ススム 「……キムタクじゃダメですか?」

リコ  「ダメ!!」

ススム 「リア充」

リコ  「ダメ!!」

ススム 「……」

リコ  「そんなのしかないの!?」

ススム 「……だって無いものは無いんですもん」

リコ  「うーん。困ったわね……」

ススム 「……」

リコ  「じゃあ。ススム君の好きなことは何?」

ススム 「ゲームですかね」

リコ  「じゃあ。ゲーム作る人になればいいじゃない?きっと面白いよ」

ススム 「いや。する方とやる方は違いますから」

リコ  「そう……」


少し間


リコ  「まぁ。冬休みはまだたくさんあるから、ゆっくり考えなさい」

ススム 「えー!!もう作文書きたくないですよ!!」

リコ  「あのね。あんたが作文終わらせないと私も学校に来なくちゃならないの。私も暇じゃないの」

ススム 「嘘だ。先生絶対暇でしょ?」

リコ  「忙しいわよ」

ススム 「だって彼氏いないじゃないですか?」

リコ  「……」

ススム 「ツイッター見ましたよ。クリスマスの時、彼氏とパーティーとかいいながら結局一人だったじゃないですか」

リコ  「それは……」

ススム 「どうせ一人でやけ酒したんでしょ」

リコ  「うるさいわね……一人で焼酎飲んだわよ!!何か文句ある?」

ススム 「開き直った……」

リコ  「私だって本気なったら、男の一人や二人捕まえられるわよ!!」

ススム 「もう。さすがに三〇後半の先生には無理でしょ?」

リコ  「まだチャンスあるから」

ススム 「え?」

リコ  「私。合コン行ってるから」

ススム 「先生まだ合コン行ってるの!?」

リコ  「もちろん」

ススム 「先生。まだ男諦めていないんですか?」

リコ  「当たり前でしょ。諦めたらそこで試合終了なの」

ススム 「そうですか」

リコ  「合コンでの私は人気なのよ。まるでみんなを癒す子猫のよう」

ススム 「子犬って言うより、男を捕食するハイエナでしょ」

リコ  「……とにかく今度こそは合コンで男を捕まえてやるわ」

ススム 「先生。もうやめた方がいいですって」

リコ  「何で?」

ススム 「忘れたんですか? 合コンであった男のこと」

リコ  「……」

ススム 「あの人にお金だまし取られそうになったじゃないですか?」

リコ  「違います!お金に困っていたから、助けようとしただけです」

ススム 「それが詐欺っていうんですよ!」

リコ  「……」

ススム 「いいですか? 合コンで付き合う確率は4.8%ぐらいですよ」

リコ  「……」

ススム 「先生はそんな低確率で男をゲットできると思っているんですか?」



リコ  「さぁ、書いた書いた」

ススム 「あ、話そらした」

リコ  「今はそんな事話している場合じゃないでしょ?」

ススム 「先に先生が合コン行ってる言ったじゃないですか!」

リコ  「うるさい。ほら、手が止まってるよ」

ススム 「はいはい(書き始める)



ススム 「はぁー何も思いつかね」

リコ  「頑張りなさい」

ススム 「……先生は何で高校の先生になったんですか?」

リコ  「そりゃ~やっぱり運命的な?」

ススム 「それじゃ参考にならないですよーもう少しマジな感じで答えてくださいよ」

リコ  「そんな生徒に話すことじゃないし」

ススム 「じゃ作文書き終わるのは冬休み明けになっちゃいますよ」

リコ  「(ため息)分かったわよ。。その代わり聞いたらちゃんと作文書くのよ」

ススム 「はーい」

リコ  「実はを言うとね……私先生になろうとは思ってなかったの」

ススム 「じゃ、何になりたかったんですか?」

リコ  「ミキサーにやりたかったの」

ススム 「家電ですか?」

リコ  「違うわよ。楽曲とか編集する人のこと」

ススム 「へぇー」

リコ  「それで、親に相談したのよ」

ススム 「で、どうだったんですか?」

リコ  「猛反対されちゃった。小さい頃からピアノとか習っていたし、親もそのつもりと思っていたからビックリして」

ススム 「それで、どうしたんですか?」

リコ  「そりゃ、反発したわよ。てっきり応援してくれると思っていたから。私自身そのつもりだったし。そう簡単に諦めがつくものじゃなかったし」

ススム 「そこで、戦いの火ぶたが切れたわけですね」

リコ  「そうね。どちらかというと私が押されたわね。「お前には無理だ」とか「そんな不安定な業界で生きていけるのか?」とか言われて」

ススム 「マシンガントークでハチの巣にされたってことですね」

リコ  「それでもタダでやられなかったけどね」

ススム 「え?」

リコ  「「要するに音楽で稼げればいいでしょ」って言ったら、お父さんから「そんなに甘いもんじゃない」って言われて、それで腹が立って「絶対稼いでやる」って言っちゃったの」

ススム 「先生根性ありますね」

リコ  「そこからはもう意地よね」

ススム 「なるほど」

リコ  「でもそうやって進路を悩んでいる中でいろんな人に助けられて」

ススム 「先生もオンしているんですか?」

リコ  「いないことはないかな~本当に教師になりたいと思ったきっかけをくれた先生で」

ススム 「誰ですか?」

リコ  「私の高校の先生にね、中村先生って言う人がいるの」

ススム 「中村先生?」

リコ  「その人すっごい怖いの。強面だし、髪もパンチパーマ」

ススム 「大丈夫ですか。その先生」

リコ  「しかも、怒鳴るときも大声で怒るから「鬼の中村」って言われてたの」

ススム 「鬼の中村」

リコ  「そう。だから私関わりたくないと思って、ずっと避けていたの。でも」

ススム 「でも?」

リコ  「私が進路で迷ったとき、助けてくれたのが中村先生だったのよ」

ススム 「マジっすか!?」

リコ  「その時。先生っていいな!って思って憧れたのよ」

ススム 「へぇー意外ですね。先生も進路は迷うですね」

リコ  「そりゃ迷うわよ……今思えば一番優しかったのは中村先生だったな

ススム 「人は見かけによらないって言いますし」

リコ  「で、何か参考になった?」

ススム 「先生。ニートじゃダメかな?」

リコ  「私のエピソードを聞いて、そんなことしか思いつかなかったの?」

ススム 「でも意外ですね」

リコ  「何が?」

ススム 「てっきり生徒と禁断の恋をしたいから先生になったと思いました」

リコ  「んなわけないでしょ?バカのこと言わないで書いた書いた」


少しの間


リコ  「あの子遅いわね……寝坊かしら?」

ススム 「他に誰か来るんですか?」

リコ  「まぁね」

ススム 「え!!誰ですか?」


ダイゴ 走って登場


ダイゴ 「すいません!!」

リコ  「ダイゴ君。おはよう」

ダイゴ 「おはようございます。すいません。忘れものしちゃって」

リコ  「そう。これから気を付けてね」

ダイゴ 「はい。すいません……」

ススム 「ダイゴじゃかいか!」

ダイゴ 「ススム?」

リコ  「ススム君も冬休みにくることになったの」

ススム 「よっ!」

ダイゴ 手をあげ、挨拶をする

リコ  「ススム君。言った?」

ダイゴ 「はい。明日来れるって言ってました」

リコ  「そう。じゃ明日ね」

ダイゴ 「分かりました」

リコ  「ダイゴ君頑張ってね」



ススム 「え?なんの話」

リコ  「え?あーススム君は関係ない話」

ススム 「なんですか?仲間外れですか」

リコ  「何言ってるの……じゃ、私は下で仕事してくるから、ススム君がサボらないように見張っておいてくれる?」

ススム 「いやいや、いいですよ」

リコ  「お願いね」

ススム 「信用ないな」

リコ  「じゃ、後で見に来るから。ススム君」

ススム 「何ですか?」

リコ  「サボったら容赦しないから」


リコ 教室から去る

ダイゴ 机に着こうとする


ダイゴ 「退学?」

ススム 「ちげぇよ!! なんでそう思った」

ダイゴ 「停学のイメージがあったから」

ススム 「どんなイメージ」

ダイゴ 「じゃあ、なんで冬休みなのに学校に」

ススム 「これだよ。これ(作文を見せる)

ダイゴ 「これって国語の宿題のやつだよね」

ススム 「そう。将来の夢を買うやつ。こいつのせいで冬休みに呼び出された」

ダイゴ 「何で?」

ススム 「俺が宿題出していないからだってさ」

ダイゴ 「それはお前が悪いでしょ?」

ススム 「そうだけど? 冬休みに飛び出すのはひどくない?」

ダイゴ 「じゃ、早く書けばいいじゃん」

ススム 「書きたいんだけど……将来の夢とかないんだよ」

ダイゴ 「希望調査は何て書いたの?」

ススム 「出してない」

ダイゴ 「それ。ヤバくない?」

ススム 「ヤバい……」

ダイゴ 「まぁ、頑張れ」

ススム 「ちょっと冷たくない」

ダイゴ 「は?」

ススム 「いや、友達なら手伝うぜとかいうのが普通じゃない」

ダイゴ 「手伝うってなにを?」

ススム 「え?」

ダイゴ 「だって進路って自分がやりたいことを決めて探すんだろ? 俺が手伝うことなんか一つもないだろ」

ススム 「そうだけどさ……」

ダイゴ 「だからお前がまず何をやりたいか決めたら」

ススム 「(ため息)分かったよ」



ススム 「てか、なんでダイゴは冬休みなのに学校来ているんだ?」

ダイゴ 「……」

ススム 「?」

ダイゴ 「実は俺も進路決まっていないんだ」

ススム 「そうなのか?」

ダイゴ 「うん。決まっているのは進学するっていうだけ。どこに行くはまだ」

ススム 「でもよ。お前は頭がいいから、推薦はもらえるだろ?」

ダイゴ 「さぁ?」

ススム 「いいよな。お前は成績もいいし、運動もできるし、先生からの信頼は厚いし」

ダイゴ 「ススムは宿題を出したら少しは信頼厚くなるんじゃないのか?」

ススム 「余計なお世話」


ススム 作文を書く


ススム 「はぁ……作文進まねぇ!!」

ダイゴ 「ススムなのに?」

ススム 「……寒っ!」

ダイゴ 「今は冬だからな」

ススム 「そういうことじゃねぇよ」

ダイゴ 「……」

ススム 「なぁ、なんかいい仕事ねぇかな」

ダイゴ 「いい仕事って?」

ススム 「ほら、楽で、休みが多くて、給料が多い」

ダイゴ 「そんなのあるわけないだろ」

ススム 「だいたい。なんで働かないといけないんだよ」

ダイゴ 「働かないとお金もらえないだろ?」

ススム 「ずっと遊びたい!! 社会人になりたくない」

ダイゴ 「なにわがまま言ってるんだよ? そんなんじゃ、ろくな大人にならないぞ」

ススム 「アイラブ学生」

ダイゴ 「うるさい!!」


少し間

ダイゴ、カバンから本を出す


ダイゴ 「ほれ」

ススム 「なにこれ」

ダイゴ 「仕事の本。いろんな職業がのってる」

ススム 「へぇー(ページをめくる)

ダイゴ 「これを見て参考にしたら」

ススム 「こうして見れば、いっぱいあるんだな仕事って」

ダイゴ 「いい仕事があるかもぜ」

ススム 「デザイナー、歌手、消防士……野球選手!!」

ダイゴ 「どうした? 急に大声出して」

ススム 「決めた!! 俺プロ野球選手になるよ」

ダイゴ 「唐突に!?」

ススム 「だってプロ野球ってモテるじゃん」

ダイゴ 「そんな理由で!?」

ススム 「ほら、例えばサヨナラホームランを打った時」


ススム、野球のBGMを言いながら、ほうきを持って構える


ダイゴ 「さぁー九回の裏ツーアウト満塁。バッターは佐藤ススム」


ススム、バットを遠くに向ける


ダイゴ 「おっと、出ました。予告ホームラン。ピッチャー第一球投げました」


ススム、ボールを見逃す


ダイゴ 「ストライク!! 第二球投げました」


ススム、ほうきを振る


ダイゴ 「ファール。第三球投げた」


ススム、ほうきを振る


ダイゴ 「打った!! これは大きい!! 大きい!! 大きいぞ!!」


ススム、ガッツポーズをする


ダイゴ 「センター取りました。ゲームセット!!」

ススム 「なんでホームランじゃないんだよ」

ダイゴ 「人生そんなにあまくないんだよ」

ススム 「なんだそれ」

ダイゴ 「てか、今から野球選手目指すのは無理でしょ」

ススム 「何で?」

ダイゴ 「俺ら高二だよ? 絶対間に合わないよ」

ススム 「……」

ダイゴ 「てか、お前野球部でもないじゃん」

ススム 「そうだけど」

ダイゴ 「野球選手は諦めらめろ」

ススム 「えー」

ダイゴ 「もっと現実的な将来を考えろよ」

ススム 「そういうダイゴはどうなんだよ」

ダイゴ 「何が?」

ススム 「何って将来の夢だよ。将来の夢」

ダイゴ 「……え?」

ススム 「なんだよ。さんざん人に言っておいて」

ダイゴ 「別にないってことはないんだけど」

ススム 「じゃ、なんだよ」

ダイゴ 「嫌だね!」

ススム 「良いじゃないか? 夢って口に出した方が叶うらしいぞ」

ダイゴ 「……お前絶対笑うだろ?」

ススム 「笑わねぇよ」

ダイゴ 「絶対だぞ」

ススム 「おう」

ダイゴ 「本当に笑わないのか?」

ススム 「笑わねぇよ。俺ら友達だろ?」

ダイゴ 「……ごめん。そうだよな。俺ら友達だよな」

ススム 「おう。で、なんだよ? お前の将来の夢」

ダイゴ 「……脚本家」

ススム 「って話を作る人のこと?」

ダイゴ 「そう」

ススム 「(笑う)お前こそ現実見ろよ」

ダイゴ 「笑わないって言ったじゃないか」

ススム 「ごめんって。で、なんでなりたいと思ったの?」

ダイゴ 「……」

ススム 「そうか。お前演劇部だったもんな」

ダイゴ 「う、うん」

ススム 「台本とかどうしているの?」

ダイゴ 「話作るのが好きだからね。60分劇を毎回書いてる」

ススム 「60分!?」

ダイゴ 「大変だよ」

ススム 「凄いな……お前」

ダイゴ 「でも楽しいんだよ。それが」

ススム 「ふーん」

ダイゴ 「演劇ってもしもの世界を演じられるから面白いんだよ」

ススム 「もしもの世界?」

ダイゴ 「例えば、武士が現代にタイムスリップしたり、人と人が入れ替わったり」

ススム 「好きなんだな。演劇」

ダイゴ 「まぁな」

ススム 「好きなんだな。演劇」

ダイゴ 「まぁな」

ススム 「じゃ、見せてくれよ」

ダイゴ 「え?」

ススム 「あるんだろ? 台本。感想言ってやるからよ」

ダイゴ 「何だよ。その上から目線」

ススム 「いいじゃないか。ほらアドバイス言ってやるからよ」

ダイゴ 「……でも、まだ出来てないし」

ススム 「いいからさ。俺けっこう本とか読むんだぜ」

ダイゴ 「本ってマンガだろ?」

ススム 「いいじゃないか? ほらどこだよ? アドバイスしてやるからさ」

ダイゴ 「だいたいなんでそんなに上から目線なんだよ?」

ススム 「はいはい。すいませんでした。(頭を深く下げる)

ダイゴ 「……」

ススム 「だから、な。(上目遣い)

ダイゴ 「そんな目をしても見せねぇからな」

ススム 「じゃ、分かったヒントだけ」

ダイゴ 「ヒントって?」

ススム 「だからどこに台本があるかだよ」

ダイゴ 「教えないよ」

ススム 「まぁ、どうせ机の中だろ?」

ダイゴ 「いや……その」

ススム 「イエス。図星」


ススム、ダイゴのカバンを持って逃げる

ダイゴ、「おい。やめろよ」といいながらカバンを取り返す 


ススム 「大丈夫だって」

ダイゴ 「何が大丈夫なんだよ」

ススム 「それがお前の夢なんだろ?」

ダイゴ 「そうだけど……」

ススム 「俺はそういうお前みたいな熱量的なものを共有したいんだよ。そしたら俺も作文が書けるかもしれないし」

ダイゴ 「……」

ススム 「だから頼むよ!!」

ダイゴ 「あーもう!! 分かったよ」


ダイゴ、ススムに台本を渡す

ススム 「僕の夢?」

ダイゴ 「夢を追いかける。少年の話だよ」

ススム 「へぇー(ページをめくる)」


少し間


ダイゴ 「この少年は最初夢がなかったんだ」

ススム 「俺みたいだな」

ダイゴ 「でも、ある日友人と一緒にライブに行ったんだ。そのときライブに出てた歌手に憧れて」

ススム 「歌手を目指したのか?」

ダイゴ 「なぜ、わかった?」

ススム 「まぁ、ありきたりだからな」

ダイゴ 「そうか?」


ダイゴ、感想が気になってススムを見る


ダイゴ 「どう?」

ススム 「うーん」

ダイゴ 「本当のこと言ってよ」

ススム 「微妙」

ダイゴ 「え?」

ススム 「いや、母親が少年の夢を認めるシーンあるじゃん? そこが急すぎで、え? とはなったかな」

ダイゴ 「そうか」

ススム 「それに」

ダイゴ 「それに?」

ススム 「誤字と脱字が多い」

ダイゴ 「え?」

ススム 「お前せめて待つと侍は間違えるなよ」

ダイゴ 「どこだよ?」

ススム 「ここだよ。ここのセリフ。『俺お前を待っているから』が、『俺お前を侍っているから』になっているぞ」

ダイゴ 「本当だ」

ススム 「お前漢字苦手なの?」

ダイゴ 「漢検三級五回落ちたことがある」

ススム 「すごいな」

ダイゴ 「そうか……やっぱり。まだまだか」

ススム 「そうだな」

ダイゴ 「俺って才能ないのかな?」

ススム 「知らねぇよ」

ダイゴ 「そうだよな」


少し間


ススム 「まぁ、いいんじゃない? 才能無くて」

ダイゴ 「なんで?」

ススム 「才能がないってことは伸びしろがあるってことだよ」

ダイゴ 「そうか?」

ススム 「そうだよ」

ダイゴ 「ありがとう」

ススム 「でもいいな……ダイゴはやりたいことがあって」

ダイゴ 「ススムも見つかるって」

ススム 「進路は演劇の方向でしょ?」

ダイゴ 「まだ分からない……」

ススム 「何で?」

ダイゴ 「自分の夢のこと、親に言っていないから」

ススム 「早く言ってしまえよ」

ダイゴ 「許してくれないんだよ」

ススム 「いやいや。まだ言っていないんだろ? そんなの分かるわけないじゃないか?」

ダイゴ 「分かるんだよ。昔からそうだったから」

ススム 「……」

ダイゴ 「俺の親スッゲー厳しくてな。習い事とかいっぱいやらされて。反抗もできなかった」

ススム 「……」

ダイゴ 「でも諦めない」

ススム 「え?」

ダイゴ 「俺の夢だからよ。絶対説得してみせるさ」

ススム 「そうか……まぁ、許してくれるでしょ」

ダイゴ 「だといいけどね……」



ススム 「なぁ、ほかの台本見せてくれよ」

ダイゴ 「え?」

ススム 「暇だし。台本を読もうと思って」

ダイゴ 「だったら、いいのがあるぜ」


ダイゴ、カバンから台本を出す


ダイゴ 「ほら、恋愛もの」

ススム 「恋愛もの? お前彼女できたことないくせに書けるのかよ?」

ダイゴ 「そんな事関係ないだろ」

ススム 「そんなに欲しいなら、現実で作った方がいいぞ」

ダイゴ 「うるさいな」

ススム 「今日は~俺にとって大事な日……ってお前」

ダイゴ 「やめろよ!! 別に俺が書いたやつじゃないし」

ススム 「なんだそうなのかよ……あ、そうだ! これやってみようぜ」

ダイゴ 「やるって何を」

ススム 「演劇だよ。どうせ暇だから、やろうと思って」

ダイゴ 「お前作文書かなくていいのかよ?」

ススム 「いいんだよ。どうせ思いつかないし」

ダイゴ 「先生に怒られるぞ」

ススム 「いいって。なぁ一回だけ」

ダイゴ 「……」

ススム 「この通り」

ダイゴ 「分かったよ」

ススム 「じゃ、お前はこの役をやってくれ(指をさす)

ダイゴ 「分かった」


ダイゴ・ススム、準備する


ススム 「(確認して)よーい。アクション」

ダイゴ 「急に呼び出されたけど何かしら」

ススム 「おーい! マユミ」

ダイゴ 「あ、ケンジ」

ススム 「君に言いたいことがあるんだ」


ススム、結婚指輪を開けるしぐさ


ススム 「君にこれを」

ダイゴ 「素敵な指輪」

ススム 「はい!!」


ススム、結婚指輪をダイゴにつける

リコ、教室にはいる

しかしダイゴとススムは気づかずに劇をしている


リコ  「どう?ススム君出来た?」

ススム 「愛している」

リコ  「え?」

ダイゴ 「私も」

リコ  「私も!?」


ススム・ダイゴ、抱きつく

リコ、持っていたバインダーを落とす

ススム・ダイゴ、気づく


リコ  「先に越されたー!!」


リコ 走って逃げる


ススム 「先生違いますよ!!」


〇 教室 次の日

椅子にはダイゴ・ミサキ・リコが座っている。

 

リコ 「えーダイゴ君の第一希望はですね……」


ススム 走って登場


ススム 「おはようございます」


少し間


リコ 「ススム君。おはよう……」

ススム 「おはようございます。……えっとその人は」

リコ 「この人はダイゴ君の母親の」

ミサキ 「斎藤 ミサキです」

ススム 「どうも……」


少し間


ススム 「ダイゴ。何かやったの?」

リコ  「三者面談」

ススム 「そうなんだ……じゃあ。俺違うところで作文書きますよ」

リコ  「ありがとう……隣の教室が空いてるから、そこ使って」

ススム 「はーい」


ススム はける


リコ  「すいません。生徒が急に入ってきて」

ミサキ 「いいですよ。それよりはダイゴの第一希望を見せてください」

リコ  「はい。ダイゴ君の第一希望は演劇の学校ですね」

ミサキ 「演劇!?」

リコ  「もしかしてご存知じゃないんですか?」

ミサキ 「すいません。あんた公務員になるって言ってたじゃない?」

ダイゴ 「ごめん。言い出せなかった」

ミサキ 「何で?」

ダイゴ 「反対すると思ったから」

ミサキ 「は?」

リコ  「あ、あのダイゴ君もちゃんと将来の事を考えていますし、学力の方も問題ないです」

ミサキ 「……そこに行って何になるの?」

ダイゴ 「……脚本家になりたい(声が小さい)」

ミサキ 「何て?」

ダイゴ 「脚本家になりたい!!」

ミサキ 「そになって稼げるようになるの?」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「それは絶対に稼げるの?」

ダイゴ 「分からない」

リコ  「あ、あの一度ダイゴ君の台本を拝見しましたが、とても良いものでしたよ」

ミサキ 「先生は良いと思ったのでしょうが他の人からすると、そうでもないかもしれません」

リコ  「……すいません」

ミサキ 「いいですよ。謝らなくて」

リコ  「……」


少し間


ミサキ 「もし、上手くいかなかったらどうするの?」

ダイゴ 「……何とかするよ」

ミサキ 「何とかって?」

ダイゴ 「バイトとかするから」

ミサキ 「あんた。ずっとフリーターになるつもりなの?」

ダイゴ 「ずっとじゃないよ。売れたらバイトやめる」

ミサキ 「だから。売れる根拠でもあるの?」

ダイゴ 「……」



ミサキ 「正直言って無理だと思う」

リコ  「ちょっとお母さん!」

ミサキ 「何やってもダメだったじゃん?勉強も習い事も」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「あんたがたとえ演劇の学校に言っても、上手くいかないで辞めるのがオチよ」

リコ  「ダイゴ君はとても努力家でいつも授業の姿勢はとてもいいですよ」

ミサキ 「いいや。この子は必ずどこかで挫折すると思います」

ダイゴ 「そんな事」

ミサキ 「(遮り)あるの」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「良い?あんたは公務員になりなさい。それが一番安定しているから」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「先生では第一希望をこの大学に。迷惑かけると思いますがお願いします」

リコ  「ダイゴ君。本当にいいの?」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「お願いします」

リコ  「……分かりました。では希望調査の紙を渡しますので、職員室の方に」

ミサキ 「分かりました。」


リコ・ミサキ 教室から出ようする


ダイゴ 「いやだよ……」

リコ  「ダイゴ君?」

ダイゴ 「もう嫌だよ!!お母さんの言うとおりにするのは」

ミサキ 「!?」

ダイゴ 「昔からそうだ!無理やりやりたくない習い事をやらして、やりたいことを全部拒否して」

ミサキ 「……」

ダイゴ 「いろいろ我慢してきた。でも今日だけは譲れないよ」

ミサキ 「……」

ダイゴ 「だって。これが僕の夢なんだよ!!」

ミサキ 「……」

ダイゴ 「いっぱい頑張るからさ!!だからお願い。演劇の学校に行かしてよ」

ミサキ 「(遮り)ダイゴ!!」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「いい加減にしなさい……あんたはもう大人でしょ?しっかり先を見なさい」

ダイゴ 「……」

ミサキ 「……先生」

リコ  「……はい。それでは案内します」


リコ・ミサキ、 教室から出る

ダイゴ 、力が抜けたように椅子に座る。

しばらくしてバックからノートや教科書を机に出す。そして台本を書き始める。


ダイゴ 「何だよ……夢を見ちゃいけないのかよ」


ダイゴ、台本を投げる。

そして机に置いてあるものを落とす。


ダイゴ 「俺がやりたいことあったらいけないのかよ!!!」


ダイゴ、椅子に座り、机に顔をつける

ススム 、静かに教室に入る


ススム 「……リコ先生が早く来てだって」

ダイゴ 「……」

ススム 「どうしたんだよ?……こんなに散らかして……(落ちたものを片付ける)

ダイゴ 「……」

ススム 「……どうだった三者面談?」

ダイゴ 「……」

ススム 「……」

ダイゴ 「……ダメだった」

ススム 「……」

ダイゴ 「演劇の学校許してもらえなかった」

ススム 「……」



ダイゴ 「もう行くよ。ありがとう教えてくれて」


ダイゴ、教室から出ようとする


ススム 「いいのかよ?」

ダイゴ  止まる

ススム 「いいのか?」

ダイゴ 「……」

ススム 「お前はそれでいいのかよ!」

ダイゴ 「……」

ススム 「何言われたかは知らねぇけど、お前のやりたいこと諦めるのかよ!!」


ダイゴ、ススムを投げ飛ばす


ダイゴ 「いいなわけないだろ!!」

ススム 「……」

ダイゴ 「でも、しょうがないじゃないか!!親が認めてくれないんだから!!」

ススム 「……」

ダイゴ 「いつもダメなんだよ…僕は……だらしないし」

ススム 「……」

ダイゴ 「何も特徴ないし、反抗する勇気もないし……」

ススム 「……」

ダイゴ 「そんなやつが出来るわけないんだよ」



ススム 「……ふざけるなよ」

ダイゴ 「……」

ススム 「何が、親が認めてくれないだ。何がだらしないだ。」

ダイゴ 「……」

ススム 「そんなの関係ないだろ!!(ダイゴの胸ぐらを掴む)

ダイゴ 「……」

ススム 「……一番大事なのは、やりたいかだろ!!」

ダイゴ 「……」

ススム 「親が認めないとか、言い訳にしかならないぞ……」

ダイゴ 「……」

ススム 「……お前は演劇の学校に行きたいんだよな?」

ダイゴ 「……」

ススム 「じゃ、諦めるなよ!!そこに行きたいってしっかり伝えろよ!!」

ダイゴ 「……うるさい」

ススム 「……は?」

ダイゴ 「俺の気持ちも分からねぇくせに勝手なこと言うなよ!」

ススム 「はぁ!?」

 

ダイゴ・ススム、喧嘩する

リコ 登場


リコ  「何してるの!?(止めようとする)

ダイゴ 「そんな事出来てたら、とっくにやってるよ!!」

ススム 「じゃ、やれよ!!」

ダイゴ 「出来ないから困ってるんじゃないか!!」

リコ  「いい加減にしなさーい!!」


ススム、ダイゴを離す


リコ  「ダイゴ君が遅いから来てみたら……」

ダイゴ・ススム 「……」

リコ  「ススム君。私はダイゴ君を呼んできてってお願いしたんだけど?」

ススム 「……」

リコ  「……(ため息)ダイゴ君。職員室に行きましょ」

ダイゴ 「はい……」


ダイゴ・リコ、 職員室に行く

ススム、椅子にすわる。そして机を思いっきり叩く

ミサキ、教室に入る


ススム 「ダイゴのお母さん」

ミサキ 「ごめんね。うちのダイゴが」

ススム 「いいですよ……」



ススム 「あの……ダイゴの話ちゃんと聞いてやってください」

ミサキ 「……」

ススム 「あいつ本当に凄いんですよ台本の話になると。全然話が止まらなくて」

ミサキ 「……」

ススム 「しかもスッゲー楽しそうで」

ミサキ 「………」

ススム 「あ、ちょっと待ってくださいね!」


ススム、落ちていた台本を手に取り。ミサキに渡す。


ススム 「これ見てください。ダイゴの台本なんですよ。これスッゲー面白いんですよ。まぁ、間違いは多いんですけどね」

ミサキ (ページをめぐる)

ススム 「それ、夢を見る少年と反対する母親のお話なんですけど、最後は頑張れって応援するんですよ

ミサキ 「……」

ススム 「ダイゴが言ってました。演劇はもしもの世界を演じられるから面白いって」

ミサキ 「……」

ススム 「それがダイゴの願いだと思います」


少し間


ススム 「ダイゴが羨ましいですよ。夢中になれる夢があって、俺なんか全く夢なくて。将来どうでもいいっていうか……」

ミサキ 「……」

ススム 「そんな夢を見るダイゴがとってもカッコいいと思います。だから!どうかダイゴに夢を追わさしてください!!お願いします!(頭を下げる)



ミサキ 「ダイゴは本当に心配で……だから安定している公務員を」

ススム 「分かります。親なんだから当然ですよね。だから話し合ってください。しっかりと……」

ミサキ 「……」

ススム 「だから別に安定した公務員でも間違いじゃないと思います」


ダイゴ 「お母さん」と言って教室に入る


ススム 「どうかお願いします。すいません、出しゃばったことを言っちゃって」


ススム 一礼してはける。

ダイゴと目が合うが話さす、はける。


ダイゴ 「お母さん。話したいことがあるんだ」


〇 教室 次の日 

ススムとリコが机に座っている


リコ 「将来の夢。二年一年六番 佐藤 進。私はジャスティンになりたいです」

ススム 「どう?先生」

リコ  「うん。やり直し」

ススム 「何ですか!?」

リコ  「ふざけているから」

ススム 「ふざけていないです」

リコ  「じゃあ、ジャスティンって何?」

ススム 「知らないんですか? ジャスティン・ビーバーですよ」

リコ  「それがふざけているの」

ススム 「えーダメですか?」

リコ  「ダメ」

ススム 「もう勘弁してくださいよ~」

リコ  「だったらちゃんとする」

ススム 「はーい」


少し間

ススム、作文を書き始める


リコ  「ススム君昨日はありがとう」

ススム 「俺はなにもやってないですよ」

リコ  「ダイゴ君あれから話し合ったらしいの……まだどうなるか分からないけど」

ススム 「そうですか」

リコ  「……ダイゴ君上手くいったかな?」

ススム 「分からないですよ」

リコ  「そうだよね」

ススム 「待ちましょうよ」

リコ  「え?」

ススム 「あとはあいつの頑張り次第と思います。俺たちは信じて待ちましょうよ。ほら「俺はダイゴを侍っているってね」」

リコ  「なにそれ?」

ススム 「何でもないですよ。そういえば今日あいつ来ないんですか?

リコ  「三者面談ないからね。もう来ないわよ」

ススム 「いいな……俺も遊びて」

リコ  「なら早く書きなさい」

ススム 「はーい」

リコ  「じゃあ。下で仕事してくるから」


リコ、教室から出ようとする


ススム 「先生」

リコ  「なに?」

ススム 「俺、見つかったよ将来の夢」

リコ  「……どうせ。また変なのでしょ?」

ススム 「違いますよ!! 今度はガチで考えましたから」

リコ  「そう。それじゃ期待しているから」

ススム 「良いですよ。素晴らしいものを書いてきますから」

リコ、教室から出る

ススム 作文を書いて満足そうに頷く。


ススム「将来の夢。二年一組六番 佐藤 進。俺は学校の先生に……なりたいです!!」

(完)

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