
『後光』の射す家
月の出ていないどんよりとした日でした。
その日は少しだけ知らない脇道に入りました。すると何軒かの家が立ち並び、そこの一番左端の家の玄関がまるで『後光』が家を包んでいるかのように光っていました。その光が余りにも神々しいので一瞬時を忘れて見入ってしまいました。それは娘も同じだったようで、暫く無言でその光景を眺めていました。
人は本当にびっくりした時は声がでないのかもしれません。「はっ!!」と我に返り
「見た!?」
「視た・・・。」
会話はそれだけで後は無言でその場所を立ち去りました。
早く家に帰りたかったのと、何とも言えない恐怖から帰りは行きとは違うルートを辿ることにしました。辿ることにした筈が・・・気付いたら何故か例の家の付近に出ていました。
「ヤバい。」
本能レベルでそう思い、来た道を戻ろうとしたのですが、何故か私の意志とは裏腹に引き寄せられるかのように例の家に向かう自分に驚かされました。
「お母さん、何処に行くの?待ってよ!!」
背後で娘の叫ぶ声が聞こえましたが、私の歩みは止まりませんでした。
いよいよ、例の家が視界に入るか入らないかの地点で30~40歳位でしょうか?背の高い男性が例の家の方向を向いて立っていることに気付きました。
「お母さん、どうしたの?早く帰ろうよ!!」
帰宅を促す娘とは裏腹に、私はその男性がどうしても気になるがあまり、付近の自販機で飲み物を購入し様子を窺うことにしました。
その男性は「ただそこに立っていただけ」なのです。
「ねえ、私の話聞こえているの?ねえ、飲み物買うの?」
「静かに。ちょっと怪しい男性が居たから自販機で飲み物を買うよ。」
小声で娘に意志を伝え、財布からお金を取り出そうと下を向いた瞬間、私の視界に「青いジーンズ」が映りました。
私の後ろは電柱しかない筈でそれも人1人も入る隙間なんてない筈なのに・・・!?
「えっ!?」
と思い思わず振り返りましたが、誰も居ません。
娘が増々不信がり、
「お母さん、さっきからどうしたの?何か変だよ?」
「私の後ろに人が居たの!!!」
と小声で言うと
「誰もいないよ?」
と娘。
もしかしたら先程の男の人が自販機に並んだのかも・・・と無理くり自分を納得させ、お金を入れようとしました。
「ナニコレ・・・。」
何故か全ての飲料水が『準備中』に変わっていました。
さっきまで『販売中』だったよな?途中で自販機の表示が変わることなんてあるのでしょうか。
何だか気味が悪くなり、自転車を漕ぎ帰宅を急ぐ反面、どうしても例の家が気になるので、遠目から
例の家を垣間見たところ、何の変哲もない普通のオレンジがかった色の玄関灯でした。
「夢でも視ていたのかな・・・」
私は一刻も早くその場を離れたい気持ちになり、無我夢中で自転車を漕いでいました。
「お母さん、早いよ~!!ちょっと待ってよ~!!!」
娘が叫んでいる声が聞こえ、やっと我に返りました。
「ごめんね、何か怪しい男性が立っていたでしょう?怖いから早く帰ろう!!」
そう言い終わるか終わらないかの内に先ほど立っていた男性?と思しき人が何故か私達より前方の方角に立っていることに気付きました。
しかもこちらを見ているのです!!!
「!!!!!!!!」
私は全身鳥肌が立ち声にならない悲鳴をあげました。
私は怖さのあまり、全速力で自転車を漕ぎ娘を置き去りにしてしまいました。
「お母さん、待ってよ!!!本当にどうしたの!?」
「さっきの男性がそこに居るの!!何で居るの!?とにかく早く帰るよ・・・!!」
と言い、迂回ルートの道を全力疾走しやっと交差点に出ました。
ここなら車が通っている筈!!
と期待していましたが、時間が遅い所為か、日中であれば車の通りが多い場所でしたが、人っ子一人の姿も見えません。
いえ、正確には
『あの男性以外は。』
私は娘に
「例の男性が付いて来ているの!!早く!!!逃げるよ!!!」
と叫び無我夢中で帰宅しました。
後日冷静になって考えて見ましたが、あの『後光』みたいに光っていた家と男性と何か因果関係でもあるのでしょうか?
私達は、あの男性の邪魔をしてしまったのでしょうか?
見てはいけない物を見てしまったのでしょうか?
私と娘は同じ『人ならざるもの』を一緒に見ることはありません。
たまたま二人同時に見たとしても性別、服装、年齢等違う『人ならざるもの』が見えるのです。
でも後日よく聞いてみたところ、あの男性は娘も確かに「視た」らしく、
しかも私の認識と一致していました。
つまり、あれは実際にあった出来事なのですが、日が経つにつれ
夢だったのではないか、そう都合よく思い込もうとする自分が居ました。
その後もあの「視た」ものが現実であるという確証が欲しいのか、何かに導かれるかのように例の家を見に行きました。
何故かその場所に行きたくて行きたくて仕方ないのです。
「今夜は光っているのだろうか・・・」「あの男性は居るのだろうか・・・」
等半ば恐怖と闘いながら何度あの路を通ったことか知れません。でもあの日見た光景を目の当たりにすることはありませんでした。
しかし、ある時娘が突然
「お母さん、もしかしたらその家とか道とか男の人が私たちを呼んでいるのかも・・・」と言うのです。
でもその通りで毎回例の家を見に行ってるのにも拘わらず、何もないのです。
何故何もないのにあの場所に行きたくて仕方ないのか・・・。
考えても自分の事なのに理由は分からないのです。
その後冷静になった途端急に恐怖が込み上げて来て、
「もう例の家を視に行くのは止めよう。」と言う結論に達しました。
追記:例の家を何度も見に行ったと書きましたが、その他にも不可思議なことがありました。
そのことは又の次の機会に書かせて頂きます。
この度は私の体験談を読んで頂き有難うございました。