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【長編小説】もう一度あなたに会うために(26話~30話)

2024年。再婚したあの人と暮らす生活はすごく幸せだった…。それなのに突然過去に戻ってしまった私は、もう一度あの人に会うために、忠実に人生をやり直すと決めた…それが例え、辛い過去だったとしても…

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前編 あの人に会えるまで

26話 変わっていく元夫

元夫は、毎晩遅くまでフラフラしていた。

それはいつもと変わらないのだが…

刑務所で知り合った友達と、その彼女が

一緒に遊びに来たり、そんな日もあった。

その彼女は、隣の県の子で…

慕って来たので

その彼女とは、たまにメールしたり

電話したりしていた。

ちょっと変わった子だったから

正直、軽くあしらっている感じだった。


ある日、その彼女から電話があった。

「お姉ちゃん。私ね、お姉ちゃんに言わないとけないことがある」

ためらいながら、彼女は話し始めた。

「実はお兄ちゃん(元夫)が話があると言って会いに来た。それで、ホテルに連れて行かれて薬を打たれた。それで関係を持ってしまった。お姉ちゃん、本当にごめんね」

衝撃的だった…

元夫は、前の事件の時は友達の奥さんの家に行っていたし

怪しかったけど…

それまでは、女遊びをしたことが無かった。

クズだけど、マメだし覚せい剤をしても

女に狂うことは無かった…


元夫に彼女から電話があったことを話すと

「あの娘はおかしいし、構って欲しいから嘘を言ってるんだろ。本気で聞かなくていいよ」

と言った。

1回目の人生の時は、

確かにおかしい娘だったので…

その言葉を信じてしまった。

でも、おそらく本当のことだったんだろう…

その後は、二人の関係が続いている感じは無かった。


それから元夫は

朝になっても帰って来ていない

ということが増えて行った。

元夫は朝帰りをすることはなく

夜中に帰って来ることが多かった。

私は、疲れて先に寝てしまうのだが

夜中に目が覚めて、元夫がいなかったら

そこから眠れなくなってしまう。

赤い目をして会社に行くことも…

次の日、会社から帰っても元夫は帰っていなかったことも…


この頃、私は捜査員の人に

元夫が帰って来ないと

電話をして相談したりしていた。

元夫が出所してから連絡は取りあって

いたようなので

「自分からも連絡をしてみる」

と言ってくれ、色々と話を聞いてくれた。


元夫が帰って来た時に

問い詰めてみると

「知り合いに頼まれて友達の母子家庭の妹家族の面倒を見ている。変な関係ではない」と私に話した。

そんな話はデタラメなのは知ってるよ…

と思いながら話を聞いて

信じた振りをしていた。

1度目の人生は、本当に信じていたのかもしれない…


それから、ある夜

知り合いの奥さんから電話があって

「元夫が誰かと揉めて警察署に連れて行かれたけど飲んでいて暴れそうだから、従業員に運転させて家に帰すね」

そう言ってくれた。

尿検査はされなかったようだった。

とりあえず、マンションの下に車を停めて貰った。

元夫は、酔っ払っていて睡眠薬も一緒に飲んでいるようだった。

話もできる状態ではない。

そのまま、寝かせた。


翌朝、奥さんにお礼の電話を入れると

「あれは、覚せい剤やってるね。匂いがすごかったよ」

と言われた。

分かってます。と思いながら…

知らない振りをした。


マンションの下に停めて貰ったけれど

邪魔になるので、車を動かすのに

元夫の友達に来て貰って

駐車場まで動かして貰ったが

その時の彼の様子があまりにも

いつもと違っていた。

覚せい剤を効かせていたのだろう。

元夫には、そんな型がなく分かりにくい。

でもウロウロするのが、元夫の型なんだろうと

捜査員の人が言っていたのを思い出した。


元夫は、何も知らず眠っていた…

でも、目を覚ましてから起こることを

私は知っている…

27話 忘れたい光景

私はその日、二男を保育園に預け仕事を休んだ。


しばらくすると元夫は目を覚ました。

昨日あったことを話すと

「迷惑掛けてごめん」と謝った。

でも、いきなり「出かけてくる」

と行こうとするので

まだ無理だと止めたが、聞かない。

でもまだ呂律が回っていない。

私は思わず…

「どうしても行くなら私も一緒に行く」

と元夫に言った。

元夫は、仕方なさそうに「分かった」と言った。


それから支度をして下に降りると

元夫は、隣の大家さんの会社の従業員に

突っかかっていった。

なんとか宥めて、大家さんの会社にも謝罪して

駐車場に向かった。

私は免許を持っていないから

代わりに運転をすることが出来ない…

それは、めちゃくちゃな運転だった。

怖い思いをして何とか着いた場所。

それは、友達の妹だという女のマンションだった。

家に一緒に入って挨拶をした。

「私が精神的に不安定だから、お世話になっている」

と女は話す。

元夫は「ゆうこも嫌だろうから、もうここには来ないことにする。最後に二人で話したいから玄関の外で待ってて」

と言ったので、私は承諾し玄関の前で待っていた。

これから、起こることも分かっている。

でも、タイミングが重要だ…

元夫は、なかなか出て来なかった…

私は、タイミングを見計らい

部屋に入って行った。

すると思った通り…

元夫と女がキスをしていた。

私は、鞄で元夫を叩いて

「好きにしろ」と叫んで出て行った。

隣にタクシー会社があったので

タクシーに乗って家に帰った。


1度目の人生も

腹が立って仕方なくて…

涙も出なかった。

でも今は、その時の思いとは違う。

もう少し…もう少しの我慢だ…

と言い聞かせた。

でも、キスの光景が頭をよぎってしまう。

忘れたいのに忘れない光景となった…


元夫から何度も電話が入っていたが無視した。

家の電話が鳴ったので出てみると

さっきの女だった。

「私は家庭を壊す気はない。もう会わないから許してあげて下さい」と言ったが

私は「もう要らないから、そちらで好きにどうぞ」

と言って電話を切った。


元夫が帰って来て

話がしたいと言い、言い訳を並べて来た。

女とはもう会わないから別れないでくれと言う。

嘘なのは分かっている。

このまま別れてしまいたい。

でも、別れるのは今では無い。

でも別れた時期はいつだったか…忘れかけていた。

今ではないことは確かだ…

とりあえず、もう会わないと約束させて

許すことにした。


もう連絡をしないと思っていたのに

毎朝、メールが入っていることに気が付いた。

仕事に行くのに起きられないから

起こして貰っていると言う。

私はおかしいだろうと怒った。

すると、もう連絡も取らないと言い

もう連絡をしないと書いたメールを私に見せ、送信した。

女から何度もメールが来ていたが…

元夫は無視していた。


それから暫くして

女が自分の実家の空き家に火を点けて

ボヤを起こし、女は火傷をして入院した。

後に、捕まったと聞いた。


精神的に不安定なのは本当だったのかもしれないが

この女も覚せい剤繋がりだったのだろう。

これでこの女とは切れることになった。


1度目の人生では、これで落ち着くと思っていた…

でも、順調に進んでいる。

私は、辛い過去を心の奥にしまい込んでしまう傾向があったから

離婚した頃の記憶が定かでないことが不安だった…

28話 戻った?

私は、これから何が起きるのか

どのタイミングで離婚するのか…

あまり覚えていないことに不安になり

親友を呼び出した。

これまで、親友の告白を聞いてから

ずっと、これからの話や順調に進んでいる話等を

会う度にして来た。

だからいつも通り

「これからって、何が起きるんだっけ?私、肝心な離婚のきっかけが思い出せなくて…」

と話すと、親友は

「え?どういうこと?旦那と離婚するの?ま、その方がいいとは思ってたけどね」

と言った。

「え?タイムリープのこと、覚えてないの?」

と聞くと

「タイムリープ?何それ?なんか流行りの物?」

と言う。

「冗談だよね?」

と聞いても

「冗談じゃないよ。逆に、ゆうこが何を言ってるのか分からないんだけど」

これは…マジか…

忘れているわけじゃないな…

まさか!戻ったの?

戻るってあるんだ…

でも、それしか考えられなかった…


とりあえず、親友には話を誤魔化して

いつも通り、たわいもない話をして帰らせた。


戻るとしてもいつか分からないよね…

私も、57歳の私に戻りたいよ…

でも、私は死んだのかもしれないし…

戻ったってどうなるか…


私は、母が死んだ時も

葬式が済んで落ち着いてから

初めて学校に行った時に、友達と笑っていたら

「ゆうこ、もう学校に来てる。しかも笑ってる。悲しくないのかな」

とか言われたり…

本当は悲しくても、ずっと泣いているわけにいかないし

心の奥にしまって考えないようにしていた。

元夫が逮捕されてニュースや新聞に出た頃の

社会情勢を覚えていなくて笑われたり…

記憶が飛んでいることがよくあった。


でも、なるようになるしかないか…

と思うしかなかった。

ただ、タイムリープを知っている

唯一の親友が居なくなったことが不安だった…


それから、元夫は仕事場の社長が通っていた

飲み屋のママと知り合った。

私も、二男を連れて飲みに行った。

それから、元夫はそのママと

よく連絡を取り合っているようだった。

私にも、色々相談したらいいよ

とママと連絡を取るように言って来たり…

でも、ママは私よりも3歳くらい年上の人で

敬語を使ってメールしてたら

なかなか馴染めなくて…いつの間にか

メールしなくなった。


元夫は、前に警察署に連れて行かれた件で

警察に呼び出されていた。

警察の呼び出しの前日

ママは、娘や孫を連れて家に来た。

その時に、元夫が

「これで暫く会えなくなるかもね」と言うと

ママは泣きだした。

私は、なんで泣くの?と不信感しか無かった。

こんな事があったような気がするけど…

本当にこれからの事を覚えてない…

でも、このママは元夫と何かあるな…と感じた。


翌日、元夫は警察署に行ったが

何事もなく、帰って来た。


その後もママの存在はあったが…

よく分からないまま日々が過ぎて行った。


元夫は相変わらず帰りも遅く…

夫婦喧嘩をすることも増えて来た。

昔、兄嫁から「思ったことを全部言ったら喧嘩になるから、心の中で言うようにしてる」

と聞いてから、それを実行していたが

私は、これまでのことで気持ちが大きくなり

言い過ぎることも多々あった。

しかし、あまりにも元夫の行動がおかしすぎて

言うしかなかった。


こうして夫婦喧嘩は、どんどん増えていった…

29話 心がどんどん壊れる…

夫婦喧嘩が始まると…

長男は、関わらないように部屋に籠る。

でも二男は、喧嘩を止めようとする。

喧嘩の途中で自分の手で私の口を押えて

「お母さん黙って」と言ったり

そんな二男を見ると

私も元夫も、もう喧嘩するのは止めようと話をするが…

顔を合わせれば喧嘩をしてしまう。


そんな中、長男が学校を数日休むことがあった。

喘息もたまに出ていたから、休ませていたが

心配した学校の担任の先生が

学校に来た長男に

「何かあったのか?心配事があるなら聞くぞ」

と言ってくれたらしく…

長男は

「最近、お父さんとお母さんの仲が悪くて心配」

と言ったそうだ。

そう…担任の先生が話してくれた。


そんな長男の気持ちを知らずに

いや、話したはずなのに…

元夫は家に帰らなくなっていた。


毎日、帰らない夫を待ち…

眠れない毎日が続く…

寝不足で会社に行った…

そんな私を心配して…

会社の男性の同僚が

「目、赤いけど大丈夫?」

と声を掛けてくれた。


捜査員の人にも相談していたが

元夫は、捜査員の人にも

連絡をしなくなっていた。


元夫は帰って来ない。

前と同じパターンだから

確実に浮気をしている。

相手は、あのママなのか…


たまに帰って来ても

色々と言い訳をする。

1度目の人生では、それを信じようとしていた。

でも、その日さえも帰って来なかった。

苦しい、眠れない…

心がどんどん壊れていった。

割り切れば良いのに割り切れない…

もう何ヶ月、こんな生活を送っているのだろう…


もう限界だった…


そんな時に、親友が電話をくれた。

苦しい思いを話して…

「元夫は、浮気じゃない。仕事して遅くなったから車で寝てしまったって言うから信じるしかなくて…」

親友は

「ゆうこ、どう考えてもおかしいよ!それを信じようとする、ゆうこもおかしくなっているよ」

と言った。


まさに、その言葉だった。

その言葉を待っていたんだ…

私は、我に返った。

私…おかしくなっているの?

そうか…

こんな生活の中で、おかしくなってしまったんだ…


やっと気が付いた。

今まで、自分が何とかしなければ…

私がいなきゃ、ダメになる。

私が更生させる。

そうしなければいけないと思い込んでいた。


私は、本当の元夫が分からなくなっていた。

マメで優しくて浮気をしない。

そんな元夫は、今は何処にもいない…

もう、私が知っていた元夫はいない…

むしろ、私は最初から本当の元夫を

知らなかったのかもしれない…


私の中でプツンと何かが切れた…

もう、浮気相手が誰だろうとどうでもいい。

離婚しようと決めた。


メールで元夫に

「大事な話がある」と送った。

それでも、なかなか帰って来なかった。


帰って来て

「もう限界です。離婚して下さい」

と伝えた。

「別れたくない」と色々言っていたが

「もう決めたから」と強く言うと

元夫は仕方なさそうに「分かった」と言った。


前に喧嘩をした時に

次に何かあったら提出するからと

離婚届けを書いていたから

それを提出すると話した。

それから、家を出るように言った。

行くところが無いとか言っていたが

「そんなことは知らない。とにかく出て行って」

と言うと

簡単な荷物だけ持って、出て行った。


私は、翌日

離婚届けを提出した…


私は、36歳。もうすぐ37歳になる…

長男は高校3年生。二男4歳。


あと3年で「あの人」に会える…

30話 結局…別れられない

長男に、お父さんと離婚したと伝えると

寂しそうに…

「そうか…分かった」と言った。


私は、離婚届けを出した足で

生活保護の担当に離婚したことを伝えた。

その時の担当は同級生ではなく…

他の人に代わっていたから良かった…


私は、元夫に離婚届けを提出した事を伝えた。

元夫は生活保護の担当に

離婚したから住む所がないと言いに行き

「公園で寝るしかない」

と担当に言うと

「そうして貰うしかない」

と言われたと…

笑うしかなかった。


飲み屋のママは結婚していた。

だから、どこでどうしていたのか…

1度目の人生でも知らなかったし…

どうでも良かった…

後に、元夫は近くにマンションを借りた。


元夫は

「話がしたい」

と連絡して来たが…

「話すことはない」と突っぱねた。

すると「二男を遊びに連れて行こう」

と言うから

私は、遊びに行くならいいか…

と思って行くことにした。


元夫は

「やり直したい、やり直せるように頑張るから考え直して欲しい」

と言った。

これから、どうなるか知っている私は

そんなの嘘だと分かっていた。

1度目の人生の私でも

そんなの信じられなくて…

戻る気は更々なかった。


それから、元夫は

荷物が残っているからと会いに来たり

「二男をどこかに連れて行こう」

と口実をつけては会いに来た。


正直、遊びに行くのは嫌では無かった。

私も、そういう面で元夫を利用していたのかもしれない…

6月は蛍を見に行き

夏は海や川に泳ぎに行ったり

花火を見に行ったり

冬はイルミネーションを見に行った。


でも、元夫の事をおかしいと思う事もよくあった。

私が、熱を出した時

二男を見て欲しいと頼んで

帰って来た二男に

「今日、お父さんと何したの?」

と聞くと

「おばさんも一緒に遊びに行った」

と言った。

元夫が、二男を川に連れて行くと言って

連れて行った時も帰って来た二男は

「おばさんとお姉ちゃんと小さい子と行った」

と言った。

私は、やっぱ相手はあのママか…

続いているんじゃないか…

と思いつつ、やり直す気も無いし…

どうでもいいやと思っていた。

そう思いながらも

会う事もやめられない自分がいた。


長男の卒業式にも一緒に参加した。

その後、ランチして映画を見た。

元夫の帰りを待つ心配も無い。

たまに会って、何処かに行って…

そんな関係が、すごく楽だった。


結局、別れられないんだよな…

そんな自分が、1度目の人生は

すごく嫌だった。

でも、これを超えなければ…

私に明るい未来は無い…


長男は、高校を卒業して

友達と住むからと家を出た。

就職も決まっていなかったから

フリーター生活。


ある日、長男から

「話がある。彼女を連れて行くから

お父さんも呼んでおいて」と言われ

元夫とも

「結婚したいとか言うのかな…まさか、子どもが出来たとか?」

と話していた。


長男が彼女を連れて帰って来て

話したことは、やはり…

「子どもが出来たから結婚したい」だった。

やっぱりか…

私、おばあちゃんになるのか…

知ってたけど…

まぁまぁ、ショックだな…

彼女は1歳年上の素直そうな可愛い娘だった。

良かった、何はともあれ長男が落ち着くなら安心だ。

長男は、これを機に就職した。


翌年、男の子が生まれた。

私は38歳でおばあちゃんになった…

二男は6歳で叔父さんに…

長男は私と同じ19歳で父親になった…


私は、ささやかな幸せを感じていた…

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