【長編小説】もう一度あなたに会うために(61話~65話)
2024年。再婚したあの人と暮らす生活はすごく幸せだった…。それなのに突然過去に戻ってしまった私は、もう一度あの人に会うために、忠実に人生をやり直すと決めた…それが例え、辛い過去だったとしても…
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後編 あの人に会ってから
61話 助けられなかった…
私は、A子の部屋でA子を見つけた…
それは…明らかに自〇だった…
まだ温かかったA子を抱いて動かそうとした…
でも私だけの力では、どうしようもない…
私は、ホームの上司にすぐ電話をした。
「A子ちゃんが自分で………」
「え!?すぐ行きます」
それから上司が2人来てくれた…
「救急車呼んだんで…どこですか?」
「部屋です」
2人でA子を床に寝かせて…人工呼吸を始めた…
私は、呆然として…何も出来なかった…
どうか…夢であって欲しい…と願った。
2人が交代で人工呼吸をするけど…
回復しない…
上司の1人が…遺書らしき物を見つけた。
救急車が来るまで、ずっと人工呼吸をした。
救急車が来て…
「最初に発見したのはどちらですか?」
と聞かれたから…
「私です」と答えた。
「第一発見者なんで、一緒に来て下さい」
そう言われ…副園長と一緒に救急車に乗った。
病院に着くまでの間、A子には救急隊の人が人工呼吸をしていた。
病院に着いて、事情を話す。
それから、しばらくして…
医師から呼ばれ…
「手を尽くしましたが…ご臨終です」
と言われた…
私はひたすら「ごめんね…」を繰り返し言うしかなかった。
児相には連絡をしていたので、児相の担当の人が来られた。
お母さんに連絡をしてるけど…繋がらないと…
警察の人も来て…簡単な事情聴取が始まった。
その日の様子…
他の子の状況…色々聞かれた。
17人を1人で見ていたと話すと…
「1人で17人ですか?」と驚いて
「日曜日だからですかね」と言われたので
「そんな感じです」としか答えられなかった。
それから、「詳しくは警察署で聞かせて下さい」
と言われ…母への連絡等は児相の人に任せて…
警察署に行くことにした。
副園長は、車を取りに行ってから行くと…
そこから…私は歩いて警察署に向かった。
歩きながら…涙が止まらない…
分かっていても、どうしようもなかったことを悔いた…
もし…過去に戻れるとしたら…
絶対にA子を助けたいと思っていたのに…
時間が変わったら、他の子が見つけたり
大騒ぎになるかもしれないと…変えることを恐れてしまった。
結局…私にはどうすることも出来なかった…
私は、やり切れず…
あの人に電話をしていた。
あったことを話し…今から警察署に行くと伝えた。
警察署に着いて…事情聴取を受けた。
警察は、施設でも捜査をしたようだが…
他殺の可能性も探っているようだったから
色々聞かれて…
最後に供述調書を書いて…
今度は、児相に向かった。
そこには数人の人がいて
そこでも色々聞かれた…
A子の遺体は、警察署に運ばれたが…
母とはまだ連絡が取れていないと…
私は、そこから副園長に送って貰って
駐車場に行った。
23時過ぎていた…
泊りは、代わりの人が入ってくれていたので
今日は、もう帰っていいと言われた…
明日、日勤で入るようにと…
それから、家に帰った。
あの人と二男が待っていてくれて…
「お腹すいてるんじゃない?」
と言われて…
そういえば、夜ごはん食べてなかったと気付いた。
あの人がインスタントラーメンを作ってくれた。
こんな状況でも、お腹は空くんだ…
と悲しくなった。
後悔しかなかった…
A子は、慕ってくれていたのに…
どうして…もっと話を聞いてあげられなかったのか…
どうして…あの時に声を掛けられなかったのか…
どうして…助けられなかったのか…
あの人は、「私のせいじゃないよ…」
と言ってくれたけど…
私のせいとしか考えられなかった…
私は、ほとんど眠れず…
翌日、施設に向かった…
62話 残った子ども達のために
翌日、出勤すると…
ホームの職員から
「園長が話があるらしい…園長室に行って下さい」
と言われたので園長室に向かった。
ノックをして…
「失礼します」
と言って園長室に入ると…
「昨日は大変だったね。ショックとは思うが…残った子ども達のために、これからも頑張って欲しい」
と言われた…
「はい。そうですね…分かりました」
と言って園長室を出た。
私は…
すぐ辞めるなんて考えてはなかった…
元々…3年は辞めないつもりだったから…
それから…
放送があり…全体集合がかけられた…
園長からA子が亡くなったという話がされた…
みんな驚いて…
泣きだす子もいた…
私も、園長の話を聞きながら…涙が止まらなかった。
園長の話が終わり…
ホームに戻りながら…
子ども達が
「先生が見つけたんでしょ?なんでA子は亡くなったの?」
と聞いて来る。
私は…
「倒れてたから救急車で病院に行ったけど…詳しいことは分からないんだ」
と言うしかなかった…
職員の間でも、子ども達の動揺を防ぐだめに
亡くなった原因は言わないようにしようと話をした。
ただ…A子を発見した時に、みんな運動指導で体育館にいたから
幸いだったと…みんなが口にした。
子ども達の中には、親が自〇で亡くなった子もいる。
子ども達には、すべてが隠された…
心理の先生からは、あの時にいた職員同士で話すのが一番いいと言われた。
他の人には気持ちが分からないから…ということらしい。
それから…
私は、通常通り何もなかったかのように勤務した。
警察からは、何度も電話があって色々聞かれた。
子ども達の中には…
私に相談して来る子もいた。
A子と仲が良かった子は…
A子が亡くなった日の朝に、A子と喧嘩をしてしまった。
ちゃんと謝って仲直りしておけば良かったと泣いた…
その子は
「A子が亡くなったなんて、まだ信じられない」
と何度も話をしに来た…
A子とトラブルになったホームで一番権力のある子は…
「私とA子が喧嘩したから…まさか自〇じゃないよね?」
と言った…
一応、ホームの子全員に聞き取りも行われたが…
中には、何とも思っていない子もいた。
A子に色んな物を貸していた。返して貰えるのか…
と言って来る子も…
A子の葬儀には、園長と副園長が行った。
みんな、A子の遺体はいつ帰って来るのか…
みんなで送ってあげたいと願っていたが…
その願いは叶うことはなかった…
私は、あの日以来…
A子の部屋に入っていない…
というか…むしろ入れなくなっていた。
それから日数が経ち…
子ども達が、だいぶ落ち着いた頃…
母が、荷物の整理と話を聞きに施設に来られた。
母は、施設のせいだと怒っていると…
児相の人に聞いていた…
応接室で、話をしている所へ私も行った。
「当日、発見した職員です」
と紹介され…
A子の部屋に向かった…
A子の部屋に入るのは、あの日以来だった。
私と、当日人工呼吸をした人と一緒に
当日の説明をしたが…
母には、私達が殺したかのように…
言われた…
何を言われても仕方ない…
そう思ってひたすら聞いていたけど…
普段、A子が普段どんな話をしていたのか…
と聞かれたから
「お母さんの話や人間関係のことなどが多かったです」
と言ったけど…
それ以上、何も言えないような雰囲気だった…
本当は、A子がお母さんの手助けがしたいと言っていた話とか
したかったのに…
お母さんは、ひたすら怒っていて…
何も言えなかった…
お母さんにしてみれば…
施設や児相に怒りをぶつけるしかなかったんだろう…
そうするしか…保てなかったのかもしれない…
ごめんなさい…
分かっていたのに…
私が助けられなかったから…
結局…残った子ども達を守るために…
私は、何も出来なかった…
A子ちゃん…
あなたを見つけた経験も…
私の初めてになったよ…
63話 受験と別れ
それから…
何気ない毎日が繰り返され…
受験シーズンになった。
その年のホームの受験生は5人。
施設の子は優遇されることも多い。
もちろん中学の先生からの推薦も必要だけれど…
公立は、推薦で受ける子も多かった。
成績があまり良くない子は…
私立の推薦を受ける子もいた。
ただ…他県から来た施設の生活に慣れていた子は、
出席日数が足らず…
一般入試で私立を受けることになった。
施設では、高校に行かないといけないルールになっていた。
基本…通信の学校はダメだから…
遠くの高校の寮に入る等、パターンは色々用意されたが
その子は、ここから通える高校を希望したので
私立の高校と、遠いけど公立高校を受験することにした。
その子の希望は、私立高校だった。
それなのに、その子は呑気に遊んでいたから…
「勉強してるの?」
「してるよー」
「本当かなー」
「本当、本当」
と、そんなやり取りをよくしていた。
受験当日、その子は他県の子で土地勘が無かったから
私はその子の引率をして受験会場に行った。
すごい坂の学校だった。
駅で何時間も時間を潰した…
試験が終わる頃…また、すごい坂を上がって迎えに行った。
「どうだった?」
「うーん。結構、問題解けたと思う…分からないけど…」
と笑いながら答えた。
私は、みんなの受験の前に…
御守りを貰いに行って…5人に渡した。
「ありがとう」
とみんなが言ってくれる中で…
1人の子が…
「私、御守り貰ったの…初めてかも…先生、ありがとう」
と言った…
それは、なかなか話をしてくれなかったB子だ…
私は、嬉しかった…
結果、全員合格した…
そして3月…
中学を卒業。
2人の子が、同じ施設だけど…
場所が違うホームに行くことになった。
1人は、ホームで一番権力を持っていた子…
そして、もう1人は…
なかなか話をしてくれなかったB子だ…
施設を出る数日前に…
B子が手紙をくれた…
―――いつも、我儘や愚痴を聞いてくれて有難うごさいます。
初めて会った時「なんだこいつは!」と思ったけれど…関わっていくうちに、とてもいい人だと思いました。
たまにキツイことを言ったりするけど、いつもちゃんと聞いてくれるからスッキリするし心が軽くなるので助かっています。
話を聞いてくれるだけでなく、私が間違ったことを言ったら、そこはちゃんと教えてくれるので、ちゃんと考えてくれているなと思います。
先生は、いつもホームの人の事を考えてくれているので、とても嬉しいし、有り難いなと思っています。
みんなから色々頼まれても、ちゃんとやってくれている所とか凄いなと思うし、いつも助かっています。そして、自分の仕事も他の人の仕事もコツコツと、ちゃんとこなしていて凄いと思うし尊敬します。いつもお疲れ様です。
先生の優しいとこ、面白いとこ、ドジなとこ、他人の事を考えるとこ、人一倍頑張っているとこ、すべてがステキでカッコいいと思います。
これから色んな形で恩返していけたいいなと思っています。
もし、先生が良かったら私が高校を卒業して、ここを出たらご飯とか一緒に食べに行きませんか?
ま、とりあえずいつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
大好きだよ―――
こんな風に見ていてくれたことが…すごく嬉しかった…
涙が止まらなかった…
私は、本当はいけないのだけど…
ラインのQRコードを渡した。
施設では、高校生になったら携帯を持てる。
いつかのために…
64話 1年後…
施設の様子は…
権力のある子が違うホームに行って
ホームの感じが凄く変わった…
A子ちゃんも、あと少しの辛抱だったのに…
と、ふと思った…
それから…目まぐるしく月日は流れ…
A子ちゃんが亡くなってから、もうすぐ1年を迎える時…
私は、A子ちゃんの命日に勤務になってないことにホットしていた…
でも、事情が変わり…シフトが変わった…
そのシフト表を見た時…
涙が止まらなくなった…
私は泊りで…しかも…
あの日に一緒にいた、2人の上司も
一緒の勤務だったからだ…
勤務前なのに…
涙が止まらない…
私は、この気持ちを…感情を…
どうしたらいいのか…分からなかった…
何とか…勤務に入ってから
心理の先生から、たまたま電話があったので相談してみた。
すると、次の勤務に入った時に
またシフトが変わっていて…
上司から配慮が足りなくてごめんなさいと謝られた…
その日の勤務は休みに変更されていた…
心理の先生が、園長の奥さんに掛け合ってくれていた。
私は、心理の先生に
あの時のA子ちゃんの顔が忘れられない…
と相談をしたことがある。
その時に先生は…
「どうせだったら、笑顔のA子ちゃんが出てくるようにしてあげて」
と言われた。
私は、もっともだと思って…
なるべく笑顔のA子を思い出すようにした…
それでも…あの日のA子の顔も…
忘れないのだけど…
それから…
C子のお父さんが亡くなった…
C子は姉妹でホームに来た子…
そして…A子とも仲が良かった子…
よく相談に来てくれた子…
母と父は離婚をしたけど
児相が父と連絡を取って…
父が親権を取る裁判をして…
親権は父になって、名前も変わった。
そして…父とも交流を重ね…
このままいけば、いつか父の元に帰れると思っていた矢先だった…
父は自〇だった。
突然のことで、誰もが驚いた…
急遽、姉妹は葬儀に向かった。
C子が葬儀から戻ってからは
父の話もよく聞いた…
父の遺書らしきものが、父の携帯に残っていたこと…
自〇現場の話や、自〇の方法、写真などを
誰にも見せられないけど…
と言って、見せて来た。
正直、キツかったんだけど…
それでも、その子の気持ちを考えると…
聞いてあげるしかなかった…
そして2月…
突然、長男から電話があった。
「母さん、明日時間ある?」
と聞かれたから
「明日、泊りなんだよ。どうかした?」
「下の子が病院で検査したら、頭に腫瘍みたいな物があるって…」
「明日、転院するんだけど先生から説明があるらしくて」
「上の子を預かって貰えないかな」
私は、明日泊まりだから変わりもいないし…
「ごめん。休めない…何とかなりそう?」
「伯父ちゃんに相談してみる」
そう言って電話を切った。
翌日…
兄嫁に上の子を預けて、説明を受けた長男から連絡があった。
大きく説明すると…脳腫瘍だと…
明日、緊急手術をするらしいと…
下の子は、まだ2歳なのに…
翌日、泊り明けで長男の家に行った。
長男が、病院に行っていて
家にはお嫁さんと上の孫がいた。
9時過ぎから手術が始まったらしい…
私が行ったのは13時…
まだまだ掛かるらしい…
夕方になっても長男からの連絡はなかった。
そして、18時半過ぎてから
ようやく長男からの連絡があって…
手術は成功したと聞いた。
良かった…
でも…これからまだ…
抗がん剤の治療が始まる…
これから、長い入院生活になって…
長男夫婦の大変な生活が始まる…
2回目の人生も、もう54年生きて来た…
私が57歳になるまで、あと3年…
まだ…帰れないのか…
いったい、いつ帰れるんだろう…
それとも…このまま、いつか死んでしまうのかな…
65話 長男の生活
長男の生活は一変した…
治療は、1年くらい掛かるかもしれないと説明を受けた。
これからお嫁さんは病院で付きっ切りになる…
上の孫は、幼稚園…
誰が面倒見るのか…
仕事はどうするのか…
考えなければいけない事は、いっぱいだった。
長男は夜勤のある仕事をしている。
夜勤は無理でも、日勤だけでも出れないかと考えた。
でも上の孫を見る人がいない。
兄嫁が週3回なら面倒を見れると言ってくれたらしい。
それで、長男は私に週2回見れないかと言って来た。
でも、私の仕事はシフト制でおまけに曜日固定で休むことは出来ない。
泊りもあるし…
それは難しいと言うしかなかった。
役所にも相談に行った。
幼稚園の送り迎えと、帰ってから長男が帰るまで
面倒を見てくれるボランティアの人はいないかと聞いてみたけど…
すぐの事にはならないと…
色々調べたけど…他にもあてもなく…
児童養護施設の一時預かりもあるけど…
預けっぱなしになってしまう…
長男は、それをしたくないようで…
結局…
幼稚園から保育園に変えることにした。
次は近所の空いている保育園を探したが…
これまた、すぐの事にはならない。
翌月の申し込み期限までに、申し込み書類を揃えて
提出してから決定まで待ち…
決まれば翌々月から、やっと入園となる。
長男は、とりあえず有給で休んでいたが…
会社にも相談をした。
1年まで休職出来る制度はあるけど、その間は無給となる。
だから、介護休暇を取ることになった。
ハローワークにも行って、給付金の相談もした。
とりあえず困るのは生活費だ…
あの人が…
入院が済むまで援助してあげようと言ってくれた。
私が家に入れているお金と貯金から、毎月援助をすることにした。
その間、お嫁さんと長男で交代で付き添った。
コロナの関係で、付き添いは1人と決められていた…
面会も出来ない…
孫の様子は写真のみ…
2歳の孫は、髪の毛もなくなって…
痩せていて…
お嫁さんも疲弊して…
見ていられなかった…
その間に…施設の子ども達は受験をして…
今年の受験生は4人…
私は、またお守りを渡した…
志望校に行けなかった子もいたけど…
全員合格して…2人ホームを出た。
1人は、すごく頭が良くて、しっかりしている子。両親は2人とも自死で亡くなっている。
そしてもう1人はお父さんが自〇で亡くなったC子だ…
C子は、手紙をくれた。
―――――まずは2年間本当にありがとうございました。
ホームの中で誰よりも相談しやすくて、相談した時は適当にあしらわず親身になって相談に乗ってくれて、ありがとうございました!すごく助かりました。
私がお母さんやお父さんのことで、いざこざがあって相談しにくかったことでも、いつも最後まで話を聞いて肯定してくれてありがとうございました。お父さんの時には特に助かりました。
そして、どもってばかりで、いつも落ち込んでしまう私を慰めてくれてありがとうございました。
先生には感謝し切れない程、感謝しています。本当にありがとうございました。
施設に来た始めの頃は、暴言が絶えず情緒不安定で頭がクレイジーだった私ですが、どんなに先生に暴言を言おうが泣こうが、いつもなだめて少し落ち着いたら、いつも通り話しかけてくれる先生のおかげで、少しは落ち着いたかなと思います。
みんなが先生の事が一番好きというのも、先生が物分かりが良くて優しいからだと思います。
その優しさは多分ずっと続けると疲れると思うので、時には休んで下さい。
本当に色々なことがあって楽しくて充実した2年間でした―――――
孫の心配もある中で…
この手紙には救われた…
本当は仕事を辞めて、長男の手助けがしたい…
そう思っていたけど…
私の存在が子ども達の役に立つなら…
この時の私は、そう思っていた…
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