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【長編小説】もう一度あなたに会うために(11話~15話)

2024年。再婚したあの人と暮らす生活はすごく幸せだった…。それなのに突然過去に戻ってしまった私は、もう一度あの人に会うために、忠実に人生をやり直すと決めた…それが例え、辛い過去だったとしても…

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前編 あの人に会えるまで

11話 逃避行

逃げ出した私たちは

元夫の兄がいる四国へ行った。

兄の家に1日だけ泊まらせてもらい

翌日からは、元夫の田舎へ行った。

そこで叔父や叔母に会い

数日、そこで過ごした。


持っていたお金も底をつき

私の父に頼むため電話をすると

後に結婚した、兄嫁が電話に出た。

様子を聞いてみると…

元夫がいた暴力団のオヤジが

何度も訪ねて来たという。

兄嫁は妊娠しており…

後で、怨みつらみを言われたことを思いだしながら

「ごめん」とひたすら謝った。

父に電話を代わってもらい

お金を電子為替で送ってもらうように頼んだ。

父はブツブツ言いながらも送ってくれた。


私の父は、放任主義というか…

私の行動を止めたことがない。

どう思っていたのかは分からないが…

困った時は助けてくれる、そんな人だった。


それから私たちは

車で移動しながら求人誌を見て

住み込みが出来るところを探した。

そして、三重県のパチンコ屋で仕事をすることになった。

長男を見るため交代で働いた。

元夫はホール、私はカウンターで働いた。

しかし、そこも合わず

給料を貰ったあとで逃げだした…


また求人誌を見ながら放浪し…

兵庫県の養鶏場に落ち着いた。

社宅があり、元夫は1日働いて

私は、長男と一緒に玉子を集める仕事をした。

生活も落ち着きつつあり、私は安心していた。


そのうち、元夫の免許の更新が近づいたので

元夫だけ、故郷へ帰ることになった。

その日に戻るはずだった元夫は

戻ってこなかった…

翌日には戻って来て

新幹線に乗り遅れたと言っていたけれど…

怪しかった。


それから、暫くして

ある日、3人で故郷へ帰ることにした。

故郷の駅に着いた元夫は

「行きたいところがある」

といい、繁華街に向かった。

そこで、「人と会うからここで待ってて」

と言われ、私と長男は待っていた。


なかなか戻って来ないので心配していると

そこに現れたのは、知らないおじさん…

「お父ちゃん、また悪いことしてるわ」

「今、逮捕したから」

それは刑事さんだった。

私は頭が真っ白になった…


やっぱり、同じことが起きるんだ…

私が止めたとしても元夫は、同じことをしたのだろう。

分かっていてもショックで…


実家に戻ることも出来ず…

その日は、高校の時の友達に電話をして

迎えに来て貰い泊まった。


朝、目が覚めて…

夢じゃないかと思ったけれど…

やっぱり、現実だった。


元夫、二度目の逮捕。

覚せい剤を買いに行ったところを捕まったらしい。

覚せい剤所持。


私は、実家に連絡をし

実家に帰らせてもらうことにした。


数か月に及ぶ、逃避行は終わった…

12話 葛藤

私は21歳になっていた。


警察署で事情聴取を受けたり…

養鶏場に連絡をして、兄と一緒に

荷物を取りに行ったり…

絶望の中でも、ゆっくりはさせてくれなかった…


警察署にいる間は接見禁止

拘置所に移った元夫は

面会に来て欲しいと

手紙を出して来た。


面会に行くと

待って欲しい

もうしない

今度こそ止めると言う。

手紙にも、それを書いてくる。


ここで離婚すれば…

私は、これからも苦労するであろう

人生から解放される。

1回目の人生で、どれほどそれを望んだことか…

長男はまだ2歳で

これから一人で生きられるのだろうか…

しかし、その選択をすれば

未来は変わってしまう…

「あの人」には会えない。

私が過ごしていた未来は

今どうなっているのだろう。

私は死んだのかもしれないな…


「あの人」は、今どうしているのだろうか…

「あの人」は、私より6歳年下…

「あの人」はまだ、15歳か…

その頃、どこに住んでいたのかも分からない。

たとえ会いに行ったとしても…

私と「あの人」が愛し合うのは

今ではない。


考えても答えは1つしかなかった…


私は、待つという選択をした。


長男を連れて面会に行くのは嫌だったので

兄嫁に見て貰い、面会に行った。

裁判で、証人出廷もした。

また「被告人が悪いことをしていたことに

気付かなかったあなたが、再犯しないように

見ることは出来るんですか」

とキツイことを色々言われたけれど…

耐えるしかなかった。

判決は1年。


それから離婚をした。

母子家庭の手当を貰うには

拘禁では、1年過ぎてからしか貰えない。

だから、離婚して内妻で面会に行った。


仕事は、兄嫁と交代で行くことにした。

朝から夕方までは、私が長男と甥っ子を見て

夕方からは兄嫁に長男を見て貰って

居酒屋で働いた。


そこで、私は少しだけ恋をする。

16歳の見習いの男の子に

誘われて、遊びに行ったりしたが

ただ「あの人」を思いだすだけだった…

彼には彼女もいたけど

年上の私に興味をもっていただけなのだろう…

彼女は店の古株のお姉さんの娘だったし…

それ以上、何もおきなかった。


刑務所は隣の県でも、バスで4時間かかる。

めったに行けないが

日帰りで4時間かけて会いに行った。

4時間かけて行っても

会えるのは

たった30分。

そして、また4時間かけて帰る。

手紙は毎日書いた。

書くことがないから

日記のような手紙…

長男の成長の写真を一緒に添えて…


1年後、元夫は出所した。

いきなり、本人から電話があって出所を知った。

今回は、引き受け人なし。

私は実家にいるから

引き受け人にはなれなかったのだ。

そんな人のために

保護会というものがあり

そこに帰ることが出来る。

ただし、仮出所で出ても満期までは

そこで過ごさなければいけない。

1回目の人生は、嬉しかったのだけれど…

今回は複雑だった。


私の気持ちも大人になりつつあった…

13話 2回目の出所後

元夫は、満期まで保護会にいなければいけない。

その間

元夫は、そこから仕事に行き

休みの前の日に

会いに来た。


会いに来たら

一緒にどこかに行き、安い宿に泊まる。

そして駅で別れる。

長男には、元夫がいない間も

「この人がお父さんよ」

と写真を見せていたので

すぐ、馴染んだ。

だから、帰る時になったら

「お父ちゃん~帰らないで~」

と毎回、泣いていた。

それを見ると…

待っていて良かったと思えた。


満期までお金を貯めて

一緒に暮らしてやり直そうと話し合った。


そして

満期を迎え、家族揃って

生活することになった。


元夫は近くの工場に働きに行った。

出かける時は、ベランダから

「お父ちゃん、行ってらっしゃい」

と声を掛けていた。

幸せな日々…


しかし、長くは続かなかった。

元夫は、腰が痛いなど

体調を理由に

仕事を休み…

ついには行かなくなった。


そして、刑務所で一緒だった人達と

つるむようになっていった。


刑務所で一緒だった人と

どうやって連絡を取るのかと

不思議だったけれど…

小さい紙に連絡先を小さい字で書き

それを、シャーペンの中に

しのばせていたのだ。


私は…

その努力を違うことに使えよ

と思うようになっていた。

そんな生活でも

長男は、元夫が帰って来ると

「お父ちゃん、お帰り~」と

嬉しそうにしている。


そんな長男の気持ちも知らずに

元夫は、毎日コソコソ何かをしていた。

そして、長男の4歳の誕生日会を実家で

開いてくれた日も、来ることはなかった。


これから起きる大きなことを

知りもしないで

元夫は、どんどん悪の道に進む。


私は、これからの事実を

元夫に伝えるかどうか悩んだ。

でも、なんて言う?

「あんた、もうすぐ捕まるからじっとしていて」

そんなの信じるわけない。

しかも、打ち明けるメリットは私にはない。


そうまでして、助けたって

元夫は…


悩んでいるうちに

その日は、やって来た。

いつかは分からなかったから

日々、過ごすしかなかった。


元夫は、刑務所仲間と出かけて行った。

数時間たってから、家の電話がなった。

これかもしれない

と思いながら電話に出る。

刑務所仲間からだった。

「元夫と質屋に行ったけど戻って来ない。捕まったのかも」

やっぱりね…

元夫は、免許書を偽造していた。


「知ってる」と思いながら

警察からの電話を待つ。

やはり、警察から電話がかかって来た。

公文書偽造同行使

覚せい剤使用

車の窃盗にも関与していた。


またも私は絶望する。

テレビや新聞でも報道される事件となった…


私は、慌てて荷物をまとめて

実家に帰らせて貰った。

分かっていても

辛いものは辛い…


私は、23歳になっていた。

「あの人」に会えるまで

あと、16年…

14話 3度目の逮捕~

今回は、共犯者もいたので

警察にいる期間は長かった。


私は実家に戻り

また兄に手伝って貰い

住んでいたアパートをコソコソと

引き払った。

兄には嫌な思いもさせられたけど

お世話になりっぱなしだ…


今回の裁判は、長くかかった。

私は、証人出廷したが

やはり検事に

「なんで一緒にいて全く気付かなかったのですか」

と言われた。

気付かなかったと言ったが

1回目の人生でも薄々気付いていたのだ。

私は、元夫の様子がおかしいと感じると

こっそり鞄の中を見ていた。

鞄の中に注射器を見つけたこともある。

でも、その度に元夫は言い訳をしていた。


元夫は私に覚せい剤を進めたことはなかった。

だいたいは夫婦ですることが多いらしい。

なぜか、元夫は私には絶対にしなかった。

警察に事情聴取に行くと

たいていの奥さんは、尿検査をしろと言われるらしい。

私は、それを言われたことはない。

警察の人も、私はやっていないと分かるのだろう。

女の人が覚せい剤をすると

持っている男を渡り歩くようになるらしい。

くずな男だったけれど

それだけは救いだった…


元夫は、またも待って欲しいと

泣きながら言う。

私が必要だと…

私は、なんとかこの人を立ち直らせたかった

この人は、私がいなくなったら

どうなるか分からないと思い込んでいた。

しかし、今回は罪状も沢山あり

何年になるか分からない…

1度目の人生の私は

待つ自信がなかったのを覚えている。


私は、実家の近くにアパートを借りた。

長男が入れる保育園を探し

その近くに仕事を見つけた。


当時は、土曜日も面会出来たので

月2回の土曜日の休みに面会に行った。

裁判の日は休ませて貰い

傍聴に行った。


判決は3年6か月

元夫は、長くなる懲役を延期させる目的も兼ねて

控訴したが、結果は棄却

その分、未決拘留の算定は少なくなった。


それから、つまらない毎日が始まった。

長男を保育園に連れて行き

仕事に行く。

仕事が終わると

長男を迎えに行き

一緒に帰る。

長男が寝ると手紙を書く。

そして、翌朝ポストに投函する。

そんな毎日…


唯一、楽しみだったのは

長男が保育園の散歩で

私の会社の前を通る時に

「おかあさーん」と叫ぶ

窓を開けて手を振ると

「おかあさん、仕事頑張ってねー」

と言ってくれた。

会社の人も容認してくれていて

長男が叫ぶと

「来たぞ」と言ってくれていた。


私は、週末になると実家に帰っていた。

でも、兄家族の幸せそうな姿を見るのは

正直、辛かった…

そして、1年が過ぎた頃

私のことが原因で

父と兄が大喧嘩をしてしまった。

兄は怒り、家を出ると言い

私に実家に戻るように言った。


私は、アパートを引き払い

実家に戻り、父と暮らすことになった。


それからの生活は

私の唯一の青春の日々となった。 


私は、25歳になっていた…

「あの人」は、まだ19歳。

15話 25歳の青春

私の父は、兄たちと暮らしている時も

時々、飲みに連れて行ってくれた。

長男は兄嫁に見てくれるようにと

父から頼んでくれていた。

兄嫁も父から言われると断れなかったようだ。


父と暮らすようになってからは

「長男を見てやるから遊びに行ってこい」

と言ってくれて…

それからは、月に何度か

友達と飲みに行ったりした。


私は、みんなが車の免許を取って

遊んでいる頃、長男が生まれていたので

一緒に遊ぶことが出来なかった。


だからか…

その頃はそれが楽しくて仕方なかった。


父は、毎朝私と長男を保育園まで送ってくれて

帰りも、私が長男を迎えに行った後で

近くの駅まで迎えに来てくれていた。

土曜日は、父が長男を迎えに行ってくれて

昼で終わる私の仕事場に迎えに来てくれて

温泉に行ったり

冬には、一緒にスキーにも行った。

この頃が人生で一番父と過ごした日々だった。


そんなある日

元夫の兄から元夫の父が亡くなったと

連絡が入った。

元夫にはすぐ手紙で知らせたが…

服役中に父親が亡くなるって

どんな気持ちなんだろう…

葬式にも行けず…辛いんだろうな


そう思いつつも、その頃から私は

元夫が帰って来る日が近づくたびに

不安に襲われていた。

また戻って来たら、また私は

毎日、元夫を疑い

鞄の中を見たりするのか…

そんな自分もすごく嫌に思えた。

手紙も、どんどん書けなくなっていた。


「あの人」はどうしているのだろう?

今なら、結婚する前に住んでいた家にいるかもしれない

そう思って、家の近くまで行ってみた。

家も分かっていても

ピンポンなんて押せるわけがない。

今、会ったって過去が変わるだけだし

私たちが出会うのは今ではない…

そう分かっていたけれど

一目会いたいと思い暫く近くにいたが

会えなかった…


それから、私は会社で一人の

青年と出会った。

彼は仕入先の配達の人で

その受け取りをしていた私は

倉庫でよく話をした。

彼はまだ19歳だった…

「あの人」と同じ19歳。

彼とは誕生日が1日違いで

すぐ26歳と20歳になった。

友達カップルと長男と彼と私で

遊びに行ってからは

もっと距離が近くなっていて

気付いたら好きになっていた。

彼に彼女がいると聞いた時には

もう遅かった…

分かっているはずなのに…

気持ちは止められないんだな。


それから、週末の夜になると

彼が迎えに来て

遊びに行く。

長男は父に頼んで…

毎日が楽しかった。

彼は、彼女と別れると言った。

私も、籍は入ってないとはいえ

元夫がいる身だったので

彼女と別れることは強要していなかったけれど…


私も元夫と別れる決意をした。

まず、父と兄に言った。

そうすれば、気持ちが揺るがないと思ったからだ…

父と兄は、すごく喜んでくれた。

私は、元夫に

「別れて欲しい」

と手紙を書いて出した。


手紙を書きながら

分かっていてもなぜか、涙が溢れた…

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