【長編小説】もう一度あなたに会うために(1話~5話)
2024年。再婚したあの人と暮らす生活はすごく幸せだった…。それなのに突然過去に戻ってしまった私は、もう一度あの人に会うために、忠実に人生をやり直すと決めた…それが例え、辛い過去だったとしても…
前篇 あの人に会うまで
1話 12歳の春
2024年、57歳。
私は、主人と二男と暮らしている。長男は結婚し独立しているが、たまにお嫁さんと孫たちに会うのが楽しみで、主人が休みの日は、二人でドライブに出かけ、たまに旅行に行く。穏やかで幸せな生活。
あの日までは、本当に幸せだった…
確かに私の人生は壮絶で、25歳の頃の私は「もう一度、中学生に戻ってやり直したい」と思っていたけれど、今になって過去に戻るとは思っていなかった。
戻ったのは12歳中学1年の春…
ある朝、目が覚めると
いつもと違う天井
えっ、ここはどこ?
飛び起きて周りを見ると、そこは私が暮らした実家…
昔、使っていた机。中学の制服。
どういうことなの?
私は、何が何だか分からずに混乱していた。
暫くすると、母が来て
「ゆうこ、起きて学校に行かないと、朝練あるんでしょ?」
と、言いながら部屋に入って来た。
おかあさんだ、おかあさんが生きている
と、心で思いながら
「うん、起きてる。支度する」
と、とりあえず答えておいた。
落ち着いて考えろ、私
なぜ?こんなことに…どうしたらいいんだろう?
私は洗面所に行き、身支度をしながら考えた。
当時、私はバスケット部に入っていて、毎日朝練に行かなければいけなかった。
本当は誰もいない所に行き、考えたかったが、
まずは、支度をして学校に行こう。
鏡を見ると、子どもの私がいる。
本当に過去に戻ったんだ…
若い!肌も綺麗だな…(笑)懐かしい顔
しかも、すごく痩せている(笑)
まっ、今はそれどころじゃないな
支度を済ませ、母に
「行ってきます」と言い、家を出た。
学校に登校…ふっ、懐かしいな
と考えながら、学校に向かう。
すると、懐かしい友達たち
クラブに行くと懐かしい先輩。
教室に着くと、懐かしい先生。
思うことは色々あるが、
とにかく、今日1日を何とか無事に過ごそう。
授業を終え、クラブに行き
友達と他愛のない話をしながら一緒に帰った。
「私、スーパーに寄るから、ここで」
と言い、友達と別れた。
すぐさま、スーパーの隣の公園に行って公園のブランコに座った。
これから、どうする?
昨日までの記憶もちゃんとある。忘れていることも沢山あるが、
この記憶を持ってもう一度人生を送れば、お母さんを助けることが出来るんじゃない?
母は、私が中学1年の5月に亡くなった。
突然倒れ、3日後に亡くなった。
倒れた日も亡くなった日も分かっている。
あの日、倒れた母を私がちゃんと見ていれば母は亡くならかったのでは…
と、ずっと後悔していた。
母を助けることが出来る…
でも母を助けると、その後の人生はどうなるのか?
辛い頃、母が生きていれば…と何度思ったことか…
しかし、あの辛い日々があったから
あの人に会えたのではないか…
夫婦でも何度もそう話し合った。
今までの人生があったから、私という人格が形成されたんじゃない?
だから好きになったんだよ。
と、あの人は言ってくれた。
二度目の人生を、少しでも変えてしまったら
あの人に出会えないかもしれない。
あの幸せな日々に戻りたい。
だから、この二度目の人生。
どんなに辛い日々を、もう一度送ることになっても
変えることなく、二度目の人生を送る。
暗くなりかけた公園で、そう誓った。
今日は5月1日。
母が倒れるまで、あと3日…
2話 母の死
1979年5月1日
朝、リビングに行くと父と母が話をしていた。
内容は…
夜中に電話が鳴った話。
兄は工業高校に行ったが、バイクに乗ったり
夜も帰らなかったり…
いわゆる不良だった。
夜中に電話が鳴ったのは、警察からだったらしい。
兄を保護したと言われ、父が迎えに行ったとのこと…
こんな兄のことに対しても母は、すごく心配をしていた。
兄は、私とは違う後悔をしていたのだろう。
あと3日で、母は倒れる。
そう思いながら一日を過ごした。
学校に行き朝練をして授業を受け、またクラブに行き家に帰る。
当時の祝日は、5月3日憲法記念日。
5月5日は、こどもの日。
現在のみどりの日は無く、飛び石連休だった。
5月3日は親戚が来て、夜みんなでごはんを食べた。
わいわいと楽しい1日を過ごしたが
私の心は、明日のことでいっぱいだった…。
明日は、母が倒れる日。
私は、本当にあの日取った行動をとれるのだろうか。
母を助けたいという気持ちがないわけではない。
でも、57歳の私の幸せのために、同じ行動をとるしかない。
そう考えながらいつの間にか眠りについていた…
翌日、父に起こされ目が覚めた。
父が「お母さんの具合が悪いから、先生を呼んでくる。お母さんをみていて」
私は寝ぼけながら「わかった」と答えた。
当時の私は、今日学校だったと気付いて
朝練に行かないといけないと思い、支度を始めた。
母の具合が悪いと言っても、風邪程度のものと思っていたから。
母はその後、起き上がり普段着ないブラウスに着替えトイレに行った。
後でわかったことだが、母は脳溢血で倒れ、その後トイレで二度目の発作をおこしていたのだ。
その後は、意識不明。
3日後の7日に亡くなった。
これから、その出来事が始まる。
母が助かれば、過去は変わるかもしれない。
そうすれば、これから起こる長く苦しい過去もなくなるかもしれない。
でも、目をつむれば「あの人」の笑顔が浮かぶ。
過去が変われば、「あの人」に会うことは出来ないかもしれない。
そう考えているうちに
母は起き上がり、余所行きのブラウスを着始めた。
「おかあさん、大丈夫?」
と母に尋ねるが、母は何も言わない。
これから母はトイレに行く。何とか止めなければ…
でも、どうやって止める?私の力で止められるのか…
兄は、昨日から帰ってないから、一人だ。
そう考えている間に、母はトイレに行ってしまった。
私は、トイレを開けることもできずに、ただ立ちすくしていた。
父が帰って来て、「お母さんは?」と聞かれ
「トイレに行ったよ」と答えるしかできなかった。
結局、母は近くの病院に運ばれた。
それからのことは、あまり覚えていない。
私には結局…後悔しかなかった。
5月7日の朝。
病院に行くように言われ、母のそばに行く。
母の意識はそのまま戻らず、息を引き取った。
最後に母の目から涙がこぼれた。
苦しくて苦しくて…
一度目の人生よりも苦しかった。
また、助けられなかった…
でも、薄情な私は
これで良かったんだという気持ちも大きかった。
「あの人」に会うためだ。
そう、思うしかなかった…
私は、これから起きる壮絶な人生に
立ち向かえるのか不安になった。
3話 母が亡くなってからの私、そして兄は
母が亡くなって、父も私も生活が変わり大変だった。
最初は、父が頑張って夕食を作っていたが、メニューを考えるのも大変だったので
夕食セットを頼むことにした。
それなら、レシピもあるし私でも作れると思った。
気持ち的には、主婦歴40年以上なんだけれど…
13歳の私には、手が思うようにならない。
過去に戻るまでの私は、慣れっこだった包丁も、うまく使えなかった。
父は次第に帰りが遅くなっていった。
一人で夕食を作り、食べる日々。
兄は高校を中退し、仕事もせず遊んでいた。
ある日、学校から帰り兄の部屋をのぞくと
新聞紙の上に髪の毛がごっそり置いてあった。
驚いたけど…
昔、こんなことがあったな…と思い出した。
確か…この後に兄が帰って来てあまりに可笑しなことを言うから
慌てて父に電話したんだった。
それから、私が夕食を作っていると兄が帰って来た。
過去の通り、兄の髪の毛はツルツル坊主になっていた。
部屋の髪の毛は自分で剃ったあとの残骸だったのだ。
それから、夕食のきんぴらごぼうを作り、味見をしていた時
兄が、のっそりと部屋から出てきて
「美味しい?」と気持ち悪い笑みを浮かべて言ったのだ。
兄とは会話もなかったし、そんなことを言ったこともないのに…
あまりに様子がおかしかったので、本当は叫びたかったが
怖くて声が出なかった…
それから、私は過去の通りに父に電話をする。
「お兄ちゃんがおかしい。すごく気持ち悪いの、早く帰ってきてー」と言った。
父が帰るまで、家にいるのが怖くて、私は外に出て待った。
この時の兄は、シンナーでおかしくなっていたのだ。
過去にもう一度、経験しているのに、やっぱり怖いんだな…
それからの兄は、どんどんおかしくなっていった。
友達と学校から帰り、家の前で喋っていると
兄が急に窓を開けて、シンナーでボケた顔で
ゆっくりと頭を下げ、またゆっくりと窓を閉めたり
私は恥ずかしくて…
こんな日がいつまで続くんだっけ?と考えた。
過去の細かいことは覚えていない。
でも、過去ではこの後で、
父が親戚に相談をして精神病院に入れようという話になったような気がする。
それがいつなのかは、分からないが
このままいけば、いつかそうなると信じるしかない。
本当に何もかもが過去の通りになるのか…
それも分からなかったけれど…
とにかく成長して大人になって「あの人」に会うんだ。
私を支えていたのは、そのことだけだった。
この気持ちを、ずっと持ち続けることにも不安はあったが
私が強く思っていなければ叶わないから。
それから数か月たって、精神病院に入れると言われた兄は
しびれてシンナーを止め、親戚の中華料理店で働くことになった。
あと何年、分かっている過去をやり直さなければいけないのかな…
私はまだ13歳…
「あの人」に会うまで、あと26年…
4話 変わっていく私
中華料理店で働いた兄は、叔父と喧嘩をして辞めてしまった。
でも、シンナーに手を出すことはなく
車に興味をもつようになっていた。
帰りの遅い父、兄も家にいない。
寂しかったけれど、自由な毎日…
14歳になった私は、次第に学校からの帰り誰もいない私の家で集まって
みんなでタバコを吸ったりするようになっていた。
クラブも辞めてしまい、パーマをかけたり
服装も変わっていく。
そんな時、私は同級生に恋をした。
そして告白され、付き合うことになった。
凄く…凄く嬉しかった。
それなのに、私がタバコを吸うのを嫌った彼の言葉で彼のことを嫌になる。
未来でも、彼とはずっと友達で
友達の中でも特別な存在なのに…
彼と、ずっと付き合っていたらどうなっていたのかな…
と、何度も考えたことがある。
だから、未来の私は中学生の頃に戻りたいと思っていたのだ。
別れたいと言ったのは私だった。
どうせ私の人生は、これから
苦しい道のりになると分かっている。
このまま、別れなければ楽なんじゃない?
心が揺れる。
でも、今でも目を閉じると浮かぶのは
「あの人」だ。
人生が変わってしまったら、会えなくなるかもしれないのだから…
これから辛くなると分かっていても
私は行動するしかなかった。
それからの私は、先輩と付き合ったり
たまたま知り合った年上の人と付き合ったり
夜遊び、家出、学校からの保護者呼び出し…
友達と二人で先生を監禁。
どんどん荒れていった。
気持ちは大人なのに
恥ずかしい気もしたが、
今の自分は子供で…
根拠の無い自信だらけの不思議な感覚。
それはそれで楽しい毎日だった。
そして、15歳になった私に待ち受けていたのは受験。
学校も休んでばかりだったし
授業に出ても教科書を開いていない。
勉強も途中から、まったく分からなくなっていた。
それでも受験しなければならなくて、受験先を決めた。
私立を2校受けるが、不合格。
それは知ってた。
これから私は、定時制の高校を受験する。
そして受かることは分かっていた。
受験の2日目に、担任から電話があった。
「私立高校に繰り上げ合格したから、そっちに行かないか
定時制に行っても4年も行くようなんだぞ、
辞める子も多いから、3年生の高校に行った方がいいと思う」
と言われたが、私は定時制の受験を受けた。
人生には、こんなにも決断を迫られる時が来るんだ…
苦しかった。
高校が違っていたら、人生は変わってたのかな…
過去に戻って人生をやり直すという話はよくあるけど
人生を変えないようにやり直さなければいけないのは
ホントにキツイな…
それでも私は、変えない選択をした。
これから、私の人生を辛くする
出会いがあると分かっていても…
「あの人」に会うために…
私は選択を変えたりしない。
5話 元夫との出会い
15歳の春
私は定時制の高校に入学した。
定時制といえば、夜間に学校に通うイメージだが
その学校は、朝から昼までの通学だった。
朝の通学は、全日制の生徒と通うから世間的には定時制とは分からない。
ほとんどの友達は、午後からバイトに行くが
私は家に帰って家事をしていた。
友達のバイトが休みだと遊びに行く。
同級生と付き合ったり別れたり…
そんな毎日が続いていた。
秋…
私は、人生を左右する出会いをする。
その日が刻々と迫っていた。
この出会いが無ければ…と何度も後悔した。
今でも人生を振り返ると涙が出るほどに辛い過去。
でも、その人生を乗り越えたから
57歳の私は、幸せだったのだ。
だからこの出会いを、57歳の私は
後悔していなかった事を思い出していた…
ある夜、親友が訪ねて来る。
それがきっかけで元夫と出会うことになるのだ。
その日は、定刻通りやってきた。
夜、親友が突然家に来た。
親友の家は複雑だったが…
「聞いて、ずっと叔母さんだと思っていた人が、お父さんの愛人だった」
泣きながら言って来た。
そうだった。この話は私も衝撃だったからよく覚えている。
私もその叔母さんには、何度も会ったことがあるから
ショックだった。
親友が落ち着いてから
「遅くなったから、いつもの所まで送っていくよ」
近くの病院まで送っていって、またそこで話し込んでいた。
「何してるの?」
外車から降りて来たおじさんが話しかけて来た。
「いえ、べつに」
それから色々話をした。
おじさんは、その病院に入院していた。
事故で入院しているらしいが、元気そう。
その病院は、そういう病院だった。
「外車に乗ってみない?」
親友はすぐ
「乗ってみたい」
私は大丈夫か?と思っていたが
あっという間に話は進み、車に乗り込むことに…
わかっていることだが、今の心だと
思うことはいっぱいだ…
何をしてんだか…
それから、私たちは隣の町に行った。
そこで、私は別の車に乗ることとなる。
運転手がいないすきに、偽名を使おうと思っていたけど
そんな暇もなく
「じゃ、行こうか。ゆうこちゃん」
そう言いながら運転手が戻ってきた。
親友が私の名前を喋ったのは、二度目の人生も一緒だった…
その運転手が、元夫だった。
そこからなぜか、おじさんは消えていて
親友も違う車に乗せられていた。
一緒に喫茶店に行って4人で話をした後
別行動になった。
私は、元夫が寝泊まりしている
マンションに向かった。
顔は怖いが…
そんなに悪そうな人でもない。
そう思ってしまった私は、彼と一夜を共にした。
その頃の私は、子どもだった…
顔の怖い外車に乗ったお兄さんを
格好いいと思っていたのだから…
私、16歳。元夫、23歳の出会いだった。
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