【長編小説】もう一度あなたに会うために(21話~25話)
2024年。再婚したあの人と暮らす生活はすごく幸せだった…。それなのに突然過去に戻ってしまった私は、もう一度あの人に会うために、忠実に人生をやり直すと決めた…それが例え、辛い過去だったとしても…
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前編 あの人に会えるまで
21話 幸せな時間の終わり
二男が生まれて、生活は一変した。
でも、元夫も二男が可愛くて仕方ないようで…
どんなにウロウロしようとも帰って来て
お風呂に入れてくれた。
二男は、なかなか寝ない子で
お風呂に入れたら疲れて寝るかなと思っても
寝てくれない…
テレビが砂嵐になって、それを聞いていたら
寝てくれるかなと思っても寝てくれない。
車に乗るとすぐ寝るので
夜中に元夫と3人でドライブをして
寝かせたりしていた。
元夫は、私の母乳がよく出るようにと
団子や大福を買って来てくれたり
クズだけどマメな人だった。
私は、二男の寝顔を見ながら
自分も横で寝る時に、すごく幸せを感じていた。
ささやかな幸せ…
生活保護の担当が
個人病院でも出産費用が出ると言ったから
個人病院にしたのに
いざ、聞いてみると
一部しか出ないと言う。
自分はそんなこと言ってないと…
個人病院は高いので
20万くらい差額が出てしまった…
病院に行って
分割にさせて欲しいとお願いしてみた。
快く良いと言ってくれたから良かったけれど…
ささやかな幸せを感じながら
生活する毎日…
可愛くて仕方なくて…
赤ちゃんの頃の二男は
なんとなく…母に似ていると感じていた。
そんな毎日も
もうすぐ崩れていく…
1度目の人生では
そんなことなんて思いもせず…
幸せを感じていた。
二男が生まれて1か月半経った頃
元夫は、いつも通り出かけて行った。
借りていた駐車場は遠くて
いつも歩いて駐車場に行っていた元夫。
元夫が出かけて少しして
電話が鳴った。
「鞄を取りに来て欲しい」
と言われたが、周りがなんだか騒がしい…
少しして電話に代わったのは
刑事さんだった。
5度目の逮捕…
「私は、これからどうやって一人で二男を育てたらいいの?」
涙も出なかった。
本当に悲しい時は、涙も出ないんだ…
そう、思っていた前回の人生…
今回は、分かっていたけれど…
心も体も正直で…
眠れないし
急に汗をかいたり
色んな症状が出る。
自分ではどうしようもなかった…
元夫の逮捕を父に知らせたら
「生まなければ良かったな…」
と言った…
悲しかった…
また父に悲しい思いをさせてしまった…
元夫は、接見禁止で会えない。
でも、刑事さんから
差し入れをしに来て欲しいと連絡があった。
しかも、時間を指定され、
着いたら警察署の裏にまわるようにと…
「いったい、なんだろう?」
と思いながら、二男を連れて警察署の裏に行ってみると
取調室の窓から
元夫が顔を出した。
涙が止まらなかった…
元夫も泣いていた。
私は毎日、二男を連れて警察署に行った。
接見禁止の間も
差し入れをしに行くと
それに合わせて取調室に連れて行ったり
取調室から戻ったりと
元夫が待ち合いの前を通るように配慮してくれた。
小さな子供を置いて
懲役に行かなければいけない
元夫を不憫に思ったのだろう…
その時の担当の刑事さんには
本当にお世話になった。
これから、まだまだ色々なことが起きる。
でも、順調に1回目の人生と同じことが
起こっている。
このまま、頑張っていれば
いつか「あの人」に会える…
心も体もボロボロだけど
それだけが支えだった…
22話 謎の男
元夫が逮捕されて、困ったことが
二男をお風呂に入れることだった。
私が二男をお風呂に入れて
長男が受け取ってくれ
タオルで拭いておむつをし、服を着せてくれた。
ミルクをあげたり、おむつを替えたり
買い物にいく間、見ていてくれたり、
たまにはお風呂も入れてくれた。
長男には、本当に助けられた。
元夫は、覚せい剤だけではなく
カードの窃盗の容疑もあって
長くなるかもしれないと言われていた。
長男に「お父さん、3年くらいかかるらしい」
と伝えると
「3年なんて、すぐじゃん」
と、あっさり言われた。
私は拍子抜けした。
長男にとっては
どんなお父さんでも尊敬する父なのだ…
前回の人生では、
待てるかどうか不安だったから
マジで長男の言葉に救われた…
でも、今回は迷っている場合ではない。
何年だろうが、待つしかないのだ。
元夫が逮捕されて
何かあったら、あの捜査員の人に
連絡するように言われていたので連絡をした。
それから、変化があったら私から連絡をしたり
向こうからも、時々連絡をくれるようになった。
これがきっかけで、これから先も彼は心の支えとなってくれる。
元夫の接見禁止がとけて
面会に行くようになった時
元夫から、弁護士を頼みたいから
知り合いに会って、お金を貸してと頼んで欲しいと言われた。
その知り合いは私も会ったことがある人だった。
帰ってすぐ連絡をすると
翌日には家に来てくれた。
元夫が言った通りにお金を貸して欲しいと伝えると
「何の見返りもなく出来ない。元夫に内緒で自分の女になれ。
自分なら綺麗に着飾らせ大事にする。考えてみてくれ」
と言われた。
その人には病気の奥さんもいる。
奥さんとは会ったこともあるし…
よくして貰った…
そんなことできるわけない。
私はそんなに安い女に見えるのか…
と怒りさえ感じていた。
いくら元夫のためとはいえ
好きでもない人の女になるなんて私は無理…
翌日、面会に行って
泣きながら言われたことをすべて話した。
元夫は
「そんなことはしなくてもいい。弁護士は国選弁護人にしよう」
と言ってくれたから
すぐ連絡して、断った。
でも、思ったよりあっさりと了承した。
弁護士は当番弁護士に頼んだ。
すると、その弁護士は
なりたてで、しかも刑事事件は初めてという人だった。
すごく不安だったけれど、初めてながら
色々調べて、カードの弁済の話をつけてくれたり
頑張ってやってくれた。
裁判は、二男も連れて行った。
情状証人としても出廷した。
それを見た裁判官が、ひどく同情して
声をかけてくれた。
カードの被害弁償の話もついていたし…
求刑は思ったより重くなく2年半だった。
その裁判に、女になれと言った知り合いが傍聴しに来ていた。
何で来るの?
何をしでかすか分からない…
私は不安でしょうがなかった。
しかし、私はこの男が
私にしてくることを知っているから大丈夫…
判決は2年だった。
これから、また待つ生活が始まる。
やりきるしかない。
不安はいっぱいだったが
着々と「あの人」に会える日は近づいている。
そんな風に強く誓っていた私に
親友が連絡して来た…
23話 出来事が変わった?
親友には、今回のことも話していたので
いつものように話を聞いてくれる感じで
連絡をして来たのかな…と思っていた。
親友は来るなり
「ゆうこ、旦那と別れた方がいいよ」
親友はそんなこと言ったことがなかったのに…
「ゆうこ、おかしいよ。よく考えてごらん」
確かに、私は親友の言葉で
元夫と別れる決意をする。
でも今ではない…
どうして?
早すぎるんだけど…
親友は、戸惑っている私に
これから起こることを話し始めた。
待って…
なんでそれを知っているの?
私が不審な顔をしていると…
「信じて貰えないと思うけど…私、どうやら急に過去に戻って来たみたい。タイムリープっていうやつ?」
と話し始めた。
「ゆうこが、今大変な思いをしてるから…」
「どうせダメになるんだし、早い方が良いと思って…」
私は、このままでは未来が変わってしまうと思い
すべてを打ち明けた。
私は、どうしても「あの人」に会いたいこと…
だから、分かっていても過去を変えないと決意していること。
今から起こることもすべて知っていること。
そして、私にあの言葉を言ったあの時に
その言葉を言って欲しいと…
親友は分かってくれた。
「私は、ゆうこの味方だから…どんな協力でもする」
そう言ってくれた。
まさか、私以外にもタイムリープした人がいるとは
思わなかった…
今までの出来事は
本当に順調に、忠実に
起こっている…
親友だったから良かったけど、
あと少しで「あの人」に会えるのに…
もしかしたら、他にもいるのかも?
不安になった…
でも、私は今できることをする。
元夫は、隣の県の時間がかかる刑務所に移送された。
その頃は、高速道路が一部出来ていて
時間は短縮されたけれど…
それでも3時間かかる。
しかも、一人で日帰りで
二男を連れて行くのは難しい。
元夫は、ある提案をしてきた。
最初は面会は月に1回。
月末と月初めが平日にあたる日
泊りで来れば
2日続けて面会が出来るという。
だから、長男の学校が長期休暇のある
3月、7月に会いに行くことにした。
12月は、年末年始で面会も出来ないから
1日だけ面会することに…
長男に荷物を持ってもらい
私は二男を抱っこして
バスで移動。
そして、安いホテルに泊まった。
楽しみもないといけないから
夜は、近くのボーリング場へ…
今まで長男を面会に連れて行ったことがなかったから
長男にとっては、初めての父親との面会生活。
よく一緒に行ってくれた。
本当に頼もしい長男になった。
出産費用の返済、元夫のカード盗難の被害弁償。
払うものも多く、大変だったけれど
これがあったから
長男も、強くなれたのかもしれない。
手紙は毎日書いた。
そんな苦労も無意味なんだけどね…と思いながらも
忠実に…毎日書いた。
私が書く手紙が毎日届くって
元夫には重要なことなのだろうか…
こっちの世界では
毎日、目まぐるしく色々なことが
起こっている。
二男を寝かせてから、寝る前に手紙を書く。
疲れて寝てしまいたくても
書かなければいけない。
正直、意味のない手紙をを書くのは
未来のためとはいえ、辛かった…
そんな生活を続ける中で
あの男が行動を起こしてくる…
24話 関わりを持った男達
元夫が逮捕された翌年
生活保護の担当が変わった。
お金を貰いに行った日
担当が変わったと紹介された人物は
中学校の同級生の男だった…
驚きと同時に
恥ずかしい…と思った。
生活保護を貰うだけならまだ良い…
夫が刑務所に行ってることは
ごく少数の人しか知らないのに…
中学校の同級生に知られるなんて…
そう思いながら帰った1度目の人生。
今回もそうなることを知っているとはいえ、
やはり恥ずかしい。
ま、彼も守秘義務があるから
言わないだろうけど…
彼は、真面目な人だし優しい人だったから
まだ、良かった…
それから、私に近付こうとする人から
突然、連絡があった。
その人は、元夫がよく行っていた奥さん
の元旦那で元夫の知り合いの人…
「元夫が奥さんに会いに行っていたと聞いた。
何をしていたのか…知りたくないか?
知りたかったら、今ラブホテルにいる。
子どもを連れて来てもいいから来て欲しい。
待っている」と言われた。
私は、何かされに行くようなもんだし…
もう今となっては、何をしていたのかなんて
どうでもよいと思って、行かなかった。
それから、連絡はなかったが…
だいたいは覚せい剤は夫婦でやるものらしいから
いいカモになると思ったのだろう。
ある日、ピンポンが鳴ったので
出てみると、チンピラみたいな風貌の夫婦らしき人達…
どんな用件かと聞いてみると
元夫が借金をしていたから取り立てに来たという。
借金の相手は、私に女になれと言ったあの男だった。
頼まれて来たという。
「元夫は、懲役に行ってます」と伝えると
「そりゃ、仕方ないわ」
と、あっさり帰って行った。
なんで、こんな仕打ちをするんだろう。
と怒りが沸き上がった。
やっぱり、黙ってはいなかったか…
これからも何かして来なければ良いけど…
と思っていたけど
そんなことも吹き飛ぶような事件が起こった。
ある殺人事件の犯人が捕まった後…
この男が、殺人教唆で逮捕された。
保険金殺人事件。
従業員に保険金を掛け、殺させたのだ。
その後、放火も発覚した。
裁判は長くかかったが…
この男は、無期懲役になった。
良かったと安心したけれど…
この男の奥さんはどうなったのだろう…
奥さんは、ずっと腎臓透析をしていた。
長くは生きられないと言っていたけれど
奥さんは大丈夫だろうかと
思ったけれど、知るすべもなかった…
そんな中…
捜査員の人は、時々連絡をくれた。
いつしかお互いのことも話すようになっていて
長電話もするようになっていた。
唯一、癒されるひととき…
「逮捕した男の奥さんと、こうして話をしてることが分かったら、大変」
と言いながら、よく話を聞いてくれた。
この人のことを好きになったりは
しなかったけど…
本当に私の支えになってくれた…
この人は、まだまだ支えになってくれる人。
こうして、色々な人と関わりを持って…
月日は、流れて行った。
一度目の人生では、
これから起こる辛い日々のことなんて
知りもせず、元夫が帰る日を
心待ちにしていた…
25話 きっかけの無い人
月日は流れ…
長男は中学3年生になっていた。
長男は、真面目でもなく
悪さをするほどの子ではなく
どんなタイプの子とも上手く付き合う。
そんな子だった。
二男に対してもシャイで
本当は可愛いんだけど
どうしていいか分からないタイプ。
周りの友達の方が可愛がってくれていた。
うちは、狭いマンションなのに
長男の友達が来やすい家なのか…
よく集まっていた。
そんな長男も受験となり…
頭が良いわけでもない長男は
結局、私立高校の推薦入試を受けることにした。
長男もそこに行きたいと望んだから…
お金の算段もした。
遠くの公立高校に行って交通費が掛かるより
近くの私立高校に自転車で行った方がお金は掛からない。
授業料は、減免制度があった。
拘禁が1年過ぎていたので
母子家庭と認定されていたから
入学金と学費は母子家庭の貸付金から借りた。
学費に関係する貸付金は無利子となる。
私は兄に保証人になって貰った…。
そして、長男は4月から高校生。
二男は、近くの保育園に入園することになった。
それから8月になり…
元夫が出所することになった。
出所の日は、元夫の知り合いの人と
私と二男で迎えに行った。
1度目の人生では、嬉しかった。
やっと、また一緒に生活できると
希望に満ちていた。
今は、不安しかない…
でも、耐えるしかない。
ある意味、未来に「あの人」に会えるという
希望があるから…
そう考えながら…
楽しい振りをするしかなかった。
出所した日に検察庁に
出所の報告に行った。
そこで、担当検事が言った言葉…
「あなたには、更生するきっかけが無い普通の人は結婚や子ども等で更生するきっかけがある。でも、あなたは結婚も子どもも親が亡くなっても更生出来なかった。何かきっかけがあれば良いんですけど…」
と言った。
本当だ…
この人にはきっかけが無い…
結婚しても、長男が生まれても
父親が亡くなっても…
母親が亡くなっても…
そして二男が生まれても…
更生出来なかった…
私が一緒にいる意味なんて、無かった…
1度目の人生で、そう思った。
ずっと、私がいないとダメになると
思っていたけど、元夫は変わっていない。
むしろ悪くなっている…
将来、別れる決断をしたのは
間違っていなかったと
改めて…思った。
それでも、父親が帰って来て
喜ぶ長男を見ると…
複雑な気持ちになる。
それでも、これから起こることを
私は止められない。
元夫が帰って来たから
母子家庭の貸付は借りられなくなる。
だから、社会福祉協議会から貸し付けをした。
民生委員さんにお願いをしたり
社会福祉協議会にも何度も足を運んで、
やっと借りることが出来た。
保証人は、元夫の兄に頼んだ。
半年後から、母子家庭の返済が始まる。
元夫は知り合いの所に仕事に行き
私も、暫くして
パートに行くことにした。
それから、暫くは落ち着いていたが…
元夫は、思わぬ方向へと
進むこととなる…
私は、35歳になっていた。
元夫42歳。長男16歳。二男2歳。
「あの人」に会えるまで
あと4年…
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