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小説投稿20年、現在57敗中…(⑦持ち込み原稿で、55万円課金)


売れない小説、売れない題材

 2014年――。

 なんとしても「勝ち組」をテーマにしたこの作品を世に出したい。

 強い想いがありました。

 ブラジルでの邦字新聞記者時代から、こうした作品を書きたいと、数年にわたって少しずつ取材を行い、当時の関係者らに(一部HPに掲載)インタビューしたり、事件のあった場所を訪れたりしていたからです。いま思えば、ブラジルで苦労した人たちや、「勝ち組」に騙された被害者らの声が込められていたため、彼らからも背中を押されていたような気がします。

 さて、ただむやみに企画書を送るだけでは無理だ、と悟った私は(分かるのが遅すぎるのですが)、もっと狙いを絞らなければと、ブラジル関係の書籍を刊行している東北の出版社に連絡しようと思い立ったのです。

 以前から気になっていた会社で、そこが手掛けたブラジル関連の本も数冊持っていましたし、「良書をけっこう出していて、知る人ぞ知る地方出版社だよ」と聞いたこともありました。

 同年1月に、電話して企画書と原稿を送りました。わりとすぐに返答がきて、「この作品に出てくる『偽宮様』と、日本で会ったことがありますよ。ちょっと検討してみます」などとあり、これはいけるかもと鼻息を荒くしました。

 しかし、その後、連絡が来なくなりました。催促のメールを送って、やっと2月末に届いた返事には、

「内容は面白いのですが、営業的には難しいです」との回答。

 かなりトーンダウンしていました。

 それでも、しばらく時間をおいて、3月上旬ごろに「あの件は、どうなりました?」みたいなメールを送ったところ、4月になって届いた返答には「共同出版のような形式なら可能ですが」とのことでした。
 腕を組んで、うな垂れてしまいました。

 それで、メールのやり取りだけではらちが明かないなと、東北に出向くことに。アポを取って、5月に直接訪問してみたのです。

 対応してくれた担当者は、

「ブラジルものは、なかなか売れないんですよね」

 開口一番、そう言って頭を掻きました。
 売れない小説のうえ、売れない題材、向こうはリスクを負いたくなかったのでしょう。「売れない、売れない」、その台詞が頭の中でグルグル回りました。

 それでも、何とかならないですかね、と懇願したところ、

「著者の買い取り、なら……なんとか」

 と提案されたのです。



持ち込み原稿で、55万円課金

 結局、500部印刷して、うち200部を55万円で著者が買い取るという取り決めになりました。

 まあ、共同出版というか自費出版に近い形です。もちろん、印税などは無しです。「増版したら、考えても良い」と一応言われましたが、増版の見込みなどありませんでした。

 以前の「237万円必要」(①会社をクビに参照)という自費出版の会社に比べれば、かなり良心的であったものの、やっぱりもやもやしたものが残りました。

 6月に校正作業などを経て、8月には数個のダンボール箱に詰められた書籍が送られてきました。初めて、まともな装丁の自分の本が出たので、手に取ったときにはガッツポーズをとったものです。

 とはいえ、ダンボール箱にぎっしり詰まった本をどうすればいいのか、と悩みました。
 知り合いに贈呈したり、買ってもらったりして、なんとか70部ほどはさばけました。数万円ぐらいは回収できたかもしれません。それと、無謀にも東京の大手出版社や、マスコミ関係にも勝手に送ってみましたが……これは、もちろん無視されました。ゴミ箱に直行、だったのでしょう。

 残った本は、10年経ったいまでも、ダンボール箱に入ったままです。押し入れで埃をかぶっており、妻からは「これ、邪魔なんだけど」と、ときどき詰られます。

 それでも、「ブラジル移民の声が詰まっているんだ」

 言い返して、その度に埃を拭き取っています。


(つづく)



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