小説投稿20年、現在57敗中…(④隠れて執筆活動)
文章教室に通う
さて、2006年ごろに話題を戻します。
すでに41才となっていました。まっとうな就職も出来ず、アパート管理人の仕事などを細々とやりながら、図書館で小説を書いたり、小説の勉強のため、気に入った作家の文章を書き写したりしていました。
特に、素晴らしいと思ったのは、
「邂逅の森」(熊谷達也)でした。
東北のマタギの世界を描いた作品です。「熊谷先生」と心の内で呼ぶことにして、何度も読み返したり、写したりしながら、こんな作品を目指そうと意気込んでいました。
しかし、やはり独学ではどうしても限界があるだろうと、文章教室に通うことにしたのです。
そこで、道新文化センター(北海道新聞社系列)が主催しているカルチャー教室のパンフレットを手に取ったところ、どの講座も受講料は、1万5千円(月2回実施の3カ月、計6回分)ほどだったので、これならなんとか払えるかなと、拳を握りました。
なんか怖そうな「一道塾」
目を引いたのが、
「一道塾」
でした。なんか怖そうなネーミングで、「もしかして竹刀かなにかで叩かれるのでは」なんて。
そのうえ、紹介文には、「一道塾は、ノンフィクション作家の合田一道さんが道新文化センターで主宰するノンフィクション作家育成の錬成塾です」 とあり、ますます腰が引けました。
講師の合田先生について調べると、道内の歴史に関する著作などが百冊以上ある有名な先生でした。
それで、とりあえず行ってみようと門を叩いたのです。
なかなか、実践的な講座でした。
先生は、道民雑誌「クォリティ」に掲載枠をもっていて、受講者が提出した文章を、教室でチェック、指導します。OKが出されたものは、雑誌に掲載される、といった流れでした。掲載内容は、「北海道、沸いたあの日」「北の事件簿」など、北海道に関するものがテーマで、受講者がそれぞれ関心のある事項を選び、取材して原稿用紙10枚ほどの記事にするのです。私は、雪まつりや、ジンギスカン料理に関する記事などをいくつかクォリティに掲載してもらいました。
ただ、取材にあたっては、自分の身分がはっきりしていなかったので、少し苦労しました。記者なら、「〇〇新聞の記者ですが」と一言で取材させてもらえますが、こちらは単なる生徒に過ぎないので「一道塾がやっている企画で…」などと説明しても、相手は不審な色を見せるだけでした。それでも、北海道ならでの人のおおらかさがあってか、あまり断られることなく取材させて頂きました。
その他、「エッセイの小窓」というコーナーにも掲載でき、雑誌に著者として自分の名前が掲載されるというのは嬉しいものでした。原稿料などは、なかったものの、モチベーションアップにはつながりました。
良き仲間たち「シナリオ実践教室」
また、2008年から、同じく道新文化センターで行われていた「シナリオ実践教室」にも通い始めました。もともとシナリオに興味があったのと、シナリオを学ぶことで小説の勉強にもなるだろうと思ったからです。
こちらの講座も、ためになりました。
講義は、受講生が書いた作品を集めたシナリオ冊子を作り、毎回、一作品を全員で合評するといった形式でした。大体一人5分ぐらいで、受講生10人ほどから意見や感想を聞かせてもらうのです。
一道塾では先生が絶対の存在で、先生の指導を遵守するといった姿勢だったのに対し、こちらは合議制というか、先生はどちらかと言えば全員のまとめ役的な存在で、受講生が主体となった内容でした。
印象的だったのは、自分の作品が合評されるとき、みなそれぞれ表現は違うものの、同じような意見や感想が出てくるという点でした。「主人公の人物設定が甘いよね」「人柄が伝わってこない」「人物のリアリティが感じられない」と、口を揃えます。一人からの意見だけなら、そうかなと首を傾げましたが、それが何人にも指摘されると、やっぱり人物が描けていないかと、納得させられました。
そのうえ、シナリオ教室では、同じ志をもった仲間と知り合いになれたことも大きかったと思います。講義のあとは、たいてい「後会」がセットになっており、親睦がさらに深まりました。同じような趣味を持つ仲間の飲み会なので、話題のほとんどは、本や映画、ドラマについてでしたので話がはずみます。
また、自分の読書量の少なさを痛感させられましたし、中には「本ソムリエ」を自称しているメンバーもいて、私の作品を読んでもらったり、いろいろなアドバイスをもらったりしました。
みな、読書量が半端ないので、その指摘は的を射ていて、本当に役に立ちました。
(なお、2024年10月現在、「一道塾」も「シナリオ実践教室」も実施されておりません)
隠れて執筆活動
妻からは、「たいして稼いでいないのに、そんなにカルチャー教室ばかりに通って」とか、「無駄なお金を使っているだけじゃないの」などと嫌味を言われていました。向こうはアルバイトもしていて、一応稼いでいましたから、何も言い返せません。
なので、執筆活動は「仕事」ではなく「趣味」と、位置付けられており、執筆よりも皿洗いが優先事項でした。隠れるようにコソコソと書くしかありませんでした。
ですが、こうした教室のおかげで「40才からの就職活動、現在24敗中…」が、クォリティ主催の「北海道ノンフィクション賞」を受賞することができ、一応出版もされました。
とはいえ、簡易装丁のワンコイン文庫で、原稿料も印税なども一切なし、もちろん出版契約もなく、全く稼ぎにはなりませんでした。
(同書は、2022年10月、出版元から正式に許可を得て、自らKindleの電子出版で発行しました。こちらは印税が入ってきます。ただ、無料公開時には、アクセスはありましたが、有料250円にした途端、全くアクセスされなくなりました。これまで、知り合い以外で売れたのは5部ぐらいです)
もう一つ、良かったのは、受賞をきっかけに知り合いになった編集者から、旅行ガイドブック執筆の仕事を紹介されたことでした。「北海道南米移住史」の仕事が終わるころだったため、なんとか仕事が途切れることなく継続できるようになって助かりました。
ただ、こちらも厳しいものでした。
取材費上限30万円、発行部数6千部、印税8%の契約(ここでは、ちゃんと出版契約書を交わしてもらった)で、全道をくまなく回るといったハードな取材が必要であり、できるだけ取材費を節約するため車中泊やキャンプ必須、時給換算すると400円ほどでした。
それから、この仕事のために中古車を購入したので、維持費もかかったし、トータルではマイナスだったかも。
(つづく)
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