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妄想小説 報道の逆説 前編
第一章:報道の免罪符
拓は動画配信者として活動していた。社会の矛盾や不条理を暴くことをテーマにし、鋭い視点とユーモアを交えたコンテンツは一定の支持を集めていた。
ある日、彼はニュース番組を見ていた。そこで目にしたのは、事件の被害者が執拗に取材を受け、自宅を晒され、近隣住民の証言とともにプライバシーが丸裸にされていく光景だった。記者は家の前で待ち構え、問いかける。
「今の気持ちは?」
カメラが至近距離で捉える被害者の表情には、疲労と困惑がにじんでいた。「そっとしておいてください」と絞り出すように出した言葉が、翌日のニュースで何度も繰り返し放送された。まるで哀れみを誘うBGM付きのドラマのように編集され、ネットでは彼らの住所や家族構成まで特定されていった。
拓は画面を睨みながら思った。
「なぜこんなことが許される?」
報道の自由があるらしいが、それにしても相手の事を全く尊重しない強引な報道姿勢に疑問を覚えた。
疑問は怒りに変わり、やがて彼はひとつのアイデアを思いつく。
「もし、メディアが普段行っている取材手法を、彼ら自身に向けたらどうなるのか?」
彼の胸には、ある種の興奮と覚悟が渦巻いていた。
第二章:取材手法の逆転
拓はターゲットを決めた。大手メディアの幹部で、過去に「報道の自由」を盾に強引な取材を正当化していた人物であり、ちょうど局としての大きなスキャンダルがあり、取材をされないという事はありえない立場だ。
彼は手始めに、その人の自宅を調べた。住所は公開されていないものの、SNSや過去のインタビュー映像から手がかりを探し、ついに辿り着く。
カメラを片手に、拓はターゲットの自宅前に立った。
「よし、行くぞ」
インターホンを押す。カメラは回っている。
「はい?」
出てきたのは、ターゲットの妻だった。彼女は見知らぬカメラを前に戸惑いを隠せない。
「◯◯さんはいらっしゃいますか?」
「あなた、どなた?」
「個人で報道活動をしている者です。取材をお願いしたいのですが」
妻はすぐにインターホンを切った。
だが、それは想定内だ。何度もインターホンを鳴らす。もちろん相手は出ない。拓はしばらく家の前で張り込み、出入りする人々を観察し、近隣住民に話を聞いた。
「最近、この家に報道関係の人が来ることはありますか?」
「さあ、あまり見ないけど……」
「ご家族の様子はどうですか?」
「普通だよ。何かあったの?」
拓は収集した情報を動画にまとめ、ネットにアップロードした。そして、過去のニュース映像と並べて比較し、全く同じ手法であることを示した。
「これは単なる取材です」と彼は動画内で説明した。
反応は爆発的だった。
第三章:報道と公益性の欺瞞
動画は瞬く間に拡散された。「やりすぎだ」という意見もあったが、多くの視聴者は彼の主張に共感した。
「普段メディアがやってることをやり返しただけだろ?」
「報道の自由があるなら、個人がやってもいいはず」
「これこそブーメランだな」
SNSは大いに沸いた。メディアに対する不満が噴出し、批判の声が相次いだ。
だが、メディア側の反応は違った。大手ニュース番組では、拓の行動を「過激なネット活動家による嫌がらせ」と報じた。番組には「メディアの専門家」と称する人物が出演し、こう語った。
「これは明らかに取材の範囲を超えた行為です。報道機関は公益性のもと取材を行っていますが、個人が勝手にやるのは問題がある」
拓はその報道を見て、強烈な怒りを感じた。
「結局、自分たちは正義で、個人がやると犯罪扱いか?」
しかし、彼はそれを見越していた。むしろ、こうした反応こそが、彼の狙いだった。
拓はメディアの欺瞞をさらけ出すことで、人々に疑問を抱かせようとしていた。
だが、ここから先の展開は、彼の予想を超えていった。
(続く)