中国人の正しい”褒め方”教えます【中国駐在サバイバル】
悩ましいテーマですよね。同じアジアとはいえ異文化圏だし、まだ信頼関係も築けていない段階で厳しく指導するのは難しそう。かといって、自己に対する要求が低そうな部下を下手に褒めたら、それこそ安逸に流れて成長しない気がする……。
どうすれば中国人部下はこちらの求める方向に伸びてくれるのか。今回は「褒める」を中心に考えてみましょう。
なお、「褒める」というとイメージがしっくりこない人もいると思います。「承認する」「肯定する」「認める」などと読み替えていただいても大丈夫です。
褒める難しさ
日本人には、褒めることがあまり得意ではない人が多いかもしれません。特に中国人部下と日常的に接していると、褒めるってなかなか難しいなと感じるのではないでしょうか。
どこが難しいのか、駐在員さんたちに聞いてみました。
褒めるところが見当たらない
褒めたいんだけど褒めるところが見つからない、褒めるようなことをしてくれないという悩み。
このレベルで褒めるのは…
正直、上司としては全然満足できない仕事レベル。これで褒めるのは心情的に抵抗があるな…ということも。
これでOKと思われたら困る
まだまだ成長の余地があるのに、ここで満足してもらっては困るから褒めたくないという人も。
「えこひいき」と思われる
特に中国のように、縦の関係、とりわけ上司が部下をどう見ているかが非常に重要な組織や社会では、うっかり誰かを褒めるとえこひいきしてると思われます。他の社員が「どうせ私は評価されてないから」とすねてしまうこともあります。
本人が勘違いする
偉い人に褒められて社員が勘違いしてしまうケースもよく見られます。総経理が何かの機会に若手を褒めたら、本人は舞い上がってしまい、「自分は将来を担う人材だ、ゆくゆくは部長になって活躍してほしいと言われている」「特別扱いされてる」などと吹聴して回っていました。これでは周囲との関係も悪くなるし、本人も調子に乗って仕事が雑になり、結果的につぶれてしまいます。
以上のポイントをざっくりまとめると、褒めの障害になっているのは「気持ち」と「効果」の二つですね。褒めることに対する心情的な抵抗感と、褒めることによって本当にプラスの効果が得られるのかという懸念。確かに逆効果になってしまった事例を見ると、うかつに褒められないというのも無理からぬ気がします。
そんな彼らを褒める方法
褒める=人を動かす技術
では、どうやって褒めればいいのか。その前に踏まえなければならないのは、駐在員と現地社員の関係が、親子や家族とは違い、会社という営利組織における上司と部下であるという点です。
上司も部下も、会社という組織でそれぞれの役割を担い、責任を果たす立場にありますから、会社で上司が部下を褒めることは、いわば人を動かすための一つの技術です。自分の素直な気持ちの発露や感情表現ではありません。
ここは冷静に、人を動かすのに効果的な手段は使い、効果的でないことはしないと、上司の役割を踏まえて割り切ることが必要です。
この観点で考えると、いい褒め方の条件が見えてきます。
承認欲求を満たす
褒めることで部下の承認欲求を満たし、よりやる気になってもらう。上司と部下の関係もよくなります。
プラス言動の促進
仕事に対してポジティブな言動が増えていくような褒め方です。
負の効果の回避
職場に与えるマイナス効果を回避できる褒め方もありそうです。
こうした条件がそろえば、褒める意味・価値はあると言えますよね。ここを意識しつつ、具体的な褒め方を見ていきましょう。
褒め方① 対象言動を特定する
褒める対象になった言動を特定することが重要です。
例:「今週は遅刻なく出社してるね」
ちょこちょこ遅刻が目立ち、何度か注意もしたことのある社員が、今週は遅刻せずに出社していたとします。朝の会議でも元気そうにしている。ここで「今週は遅刻なく出社してるね」と褒めます。
ポイントは「今週」「遅刻していない」点に限定して褒めること。これなら「あなたにすごく目をかけている」「期待してる」というメッセージまでは出していないことが明白です。
例:「今回のメールは前提を明示していてよかったね」
これは私たちの会社のケースです。例えば、北京のクライアントから「○○についての法律規定はないか」という質問があったとします。北京には該当する法律規定はないが、上海や蘇州にはある。この時、いきなり他地域の規定を説明するのも、該当する規定はないとだけ伝えて終わらせるのも不適切です。
「北京には該当する規定がありません。ただ、他の都市には類似の規定があり、実務上でも参照されているため、ご参考まで紹介します」と前提を示した上で、他地域の規定を紹介するのが望ましい。
しかし、経験が浅いと、自己判断や思い込みで「お客さんはこういうことを聞いているはずだ」「だろう」と考えて返答メールを作成してしまい、先輩に注意や指導を受けることがあります。
そんな若手が次のメールでちゃんと前提を示せていたら、しっかり褒めます。ただし「今回のメールはよかった」ではなく、「今回のメールでは前提を明示できていてよかった」と具体的に言及します。
メール本文にはまだ甘い部分が残っていたかもしれませんし、明示した前提自体が不正確な場合もあります。漠然と褒めるのではなく、今回のメールで何がよかったのかを特定して褒めることが大切です。
褒め方② 褒めるというより肯定・感謝する
「グッジョブ!」「すごい!」みたいな大仰な褒め方がキャラ的に苦手な人(私もそうです)は、肯定する、感謝するというアプローチの方がやりやすいかもしれません。
例:「このレポートは説得力があった」
これは相手を褒めているというより、レポートの質、説得力を認めているという表現です。
例:「会議での注意喚起、助かったよ」
会議の席で、私が上海の規定やルールを前提に説明していた時、そのお客さんは他エリアにも拠点を持っていることを知っていた社員が「小島がいま話したのは上海の規定で、広州と天津には別の規定があります」と言い添えてくれたことがありました。
こういう時は会議が終わった後、「さっきは言ってくれてよかった。あのままだったら全部の拠点で適用できると誤解されたかもしれない。助かったよ」とフィードバックします。
これも「褒める」の一種です。大げさな褒め言葉は気恥ずかしいという人は、こういう声かけでも効果はあります。
褒め方③ 公平に区別する
何度も改善を求めたのに、あるいはチャレンジするように言ったのに、一向にやらない部下は無理に褒める必要はないと思います。
頑張っている人もそうでない人も同じように認められては、改善に取り組んでいる人や挑戦している人、成長している人に対して不公平です。
公平というのは、結果を同じにすることではなく、取り組みの違いに応じた評価をすること。だから公平に区別して、無理に褒めなくても大丈夫です。
褒められる人と褒められない人が出てくると、後者が腐るんじゃないかと不安に思うかもしれません。
厳しい言い方をすれば、社員は大人であり、営利組織である会社から給料をもらって仕事をしている立場です。そこが子供とは決定的に違います。
会社は社員に求めることをはっきり示し、指導・教育し、成長を後押しする。それでもやらない、やろうとしない人たちが、頑張っている社員を見て「えこひいき」と言うのであれば、チームから出てもらわなければなりません。褒めるとか叱るというレベルではなく、別の対応が必要です。
褒め方④ ウソは言わない
職場には提出物、レポート、客先対応などいろんなシーンがありますが、その中で、駐在員が無理なく評価できる点だけを褒めるということでいいと思います。認められないところまで漠然と含めて褒めたり、おだてる必要はありません。
改善はできたけど、まだ求めるレベルではないという時には、「前回よりよくなった」という褒め方がおすすめです。
その上で、「次はここまでチャレンジできるといいね」「ここまでできるようになったから、今度はこれもぜひ取り組んでみてよ」と次の成長や挑戦を促す。これで、多少褒めても「自分は将来を嘱望されているスター社員☆」みたいな大きな勘違いは避けられます。進歩は認めつつ、次の課題を出していくイメージです。
愛の対義語は無関心
部下を伸ばすには褒めることが大事と言われても、慣れていない人は、やっぱり「いちいち口に出して褒めなくてもいいだろう」と思いますよね。
でも、愛の対義語は憎しみではなく無関心。上司が無反応であることは、時に叱責よりも部下の成長を阻害します。
「褒めも叱りもしない」をずっとゼロが続く状態だとすれば、「褒めて叱る」はプラスにもマイナスにも波が大きい状態。浮き沈みをならすと結局ゼロかもしれません。しかし、この二つは全然違います。
人は褒められるとエネルギーが湧いてくるものです。肯定されれば新しいことにチャレンジしようという意欲が出てきます。
叱られも褒められもしない状態が続くと、部下の気持ちが上がるタイミングがありません。ずっと凪の状態より、上げて、下げて、上げて、下げての繰り返しがあった方が部下は成長します。得意不得意にかかわらず、褒めることは人を動かすための技術ととらえて、ぜひ試してみてください。
今日のひと言
自転車やエンジンのように褒める
自転車って、ペダルをぐっと踏み出して、反対のペダルを踏み込んで、を繰り返さないと進まないですよね。自動車のエンジンは小さな爆発によってピストン運動を起こします。エネルギーを放り込んでいかないことには何も始まりません。
同じように、組織に熱を与えて部下を動かしていくために、褒めるということを積極的に使ってみてください。
褒めることができれば、注意や指導で奮闘を促すこともできるはず。この両方があって人間は回っていきます。常日頃から褒められている部下は、時に厳しいことを言われても、反発して頑張れます。
承認する、肯定する、感謝することで部下にエネルギーを送り込みつつ、ダメ出ししながら次のチャレンジを促していきましょう。