見出し画像

常態化するザル承認…現地法人の決裁や承認、どうしてる?【中国駐在サバイバル】

日本企業の中国ビジネスは、経営の現地化が加速しています。日本からのリモート統括も進む一方です。しかし、さらにアクセルを踏み込む前に振り返ってみてほしいことがあります。

今、現地法人の承認や決裁ってどこまで機能していますか。

期限ギリギリに「すぐ承認してください!」と迫られたり、「前任者からずっとこの調達先を使ってます」と言われたりして、まぁそうかと承認してないですか。

現地に常駐の駐在員がいてさえ承認や決裁が「破れ網」になっていたら、この上で現地化を進めると大変なことになります。

このnoteは、毎週水曜に配信するYouTube動画のテキストバージョンです。
記事の末尾に動画リンクがあります。


今の承認プロセス、機能してますか?

現地駐在員の元には、日々膨大な決裁事項が舞い込んできます。

まず客先。そして業者政府関連からも現地トップとして決裁を求められる。それから本社やグループ内での承認事項。社内の人事・労務・財務、おまけにISOのような外部機構に対応する決裁もあります。

特に業者関係では、半端ないボリュームの承認が求められます。材料や部品は量が膨大だし、設備や金型は一つ一つの責任が重く、それに付帯する契約や取引事項もあって厄介です。

総務関係もすさまじい件数になっています。会社によっては総務系の取引先だけで200社を超えることも。契約があれば発注があり納品がある。問題が起こればその対応を決めなければなりません。

その上、社内からも全部門・全部署が「承認してくれ」と迫ってきます。金銭に絡むこと、人事・組織に絡むこと、企業統治……。決裁事項はとめどなく生まれ続けます。

考えてみれば、現地法人は規模こそ小さいものの(たまに本社より大きいところもありますが)、フルセットの経営機能を持っているため、当然といえば当然です。

本社は人数も多いし、部署も分かれているし、それぞれの権限範囲も整理されているので、現地法人ほどすべてにおいて判断を求められることはないと思います。あらゆる承認事項が全部トップに集まるというのは海外現法の特徴です。

そんな中で承認や決裁はどうなっているか、現地の現実を見てみましょう。

承認・決裁の現実

判断期限ギリギリにあげてくる

「今週中に発注しないと間に合わない」というタイミングで出されると、真面目な経営者は文句を言いながらも承認せざるを得ません。ギリギリに決裁を求められ、「今後はもっと早く出せよ」と言いつつ、不十分なチェックでサインしています。

不明瞭な説明だけど、まぁいいか

説明を求めると、現地社員なりに説明するけれど、いまいちよくわからない。繰り返し突っ込んでみても、何を言っているのかわからない。わからないけど、これ以上掘っても出てこないだろうから、しょうがないなと決裁しています。

多過ぎて全数チェックは不可能

決裁の数が膨大すぎて、いちいちチェックなんて到底無理、抜き打ち検査さえ難しい。全数はおろか、たまの抜き打ちチェックもできず、ただ回ってきた書類に機械的に判子をついているだけという場合もあります。

中国語がよくわからず承認しちゃう

決裁書類はだいたい中国語です。担当者だって全部を訳してくるなんて気の利いたことはしないし、ボリューム的にも不可能。結果、読まずに承認してしまいます。

承認印を社員たちが押している

決裁がトップまで回ってこないケースです。会社の公印や法定代表印を社員が押している。あるいは公印ではないんだけども、会社の名前がついた印鑑を担当者が押していることがあります。

承認印のコピーが存在する

多いところでは承認印のコピーが5つぐらいあったりします。コピーがいくつあるのかわからないという事態に陥っている会社も。自分の知らないところで誰かが押しているかもしれませんよ。

先に業者と意思固め、後追い承認

先行して発注し、後追いで承認を求めてくるケースもあります。ひっくり返そうとしても、もう案件が走っていて損失補填が発生するとか、納期に間に合わないなどと脅されて、仕方なしに後追い承認しています。

ルール崩壊、現場判断で発注や処理

元々は承認ルートがあったのに、ルールが崩壊している。例えば、規則では総経理承認と書いてあるのに、実際には部長が決裁しています。私がびっくりしたのは、懲戒解雇を人事部長が決裁していたケースです。労働契約に関する決裁を部長にさせていた会社もありました。

契約書の内容を知らない

言葉の問題がなくても、トップ、それから現場の各部門長、課長クラス、担当者まで、契約書の内容を把握せずに承認していることは少なくありません。特に車関係など、客先やサプライヤーから提供された契約書を使っている場合。

トラブルになってから契約内容を見て仰天するパターンですね。一方的な不利益をもたらす条項が入っているのに、気づかず承認してしまっています。

他にも、発注量と納品量が一致しないまま承認している会社もありました。実際の現場におけるロスを見込んで、発注量より多めに納品するケースはよくあります。発注は100個で、納入は130個というような場合、決裁は100個のはずなのに、130個入ってきているからと130個で支払いを承認していました。

業者任せで計量・測定して、言いなりで金額を確定していることもあります。スクラップなどは目方をごまかされないようにこちらがチェックしなければいけないはずなんですけどね(こちらの担当がグルでごまかすこともありますが)。

ザル承認が発生する理由

ここまで見てきた中には、悪意のものもあれば、何も考えず無邪気にやっているものもあります。期限ギリギリに持ってくるのはたぶん故意だと思いますが、悪意がなくても非常に深刻な事態を招いていることは多いです。

こうした状態が発生する背景には大きく4つの問題があります。

量・言語・監視・是正の問題が絡み合う

決裁事項が多すぎれば、追いかけていられません。言葉がわからないと内容が理解できず、それも一因となって監視の問題が発生します。監視できなければ当然発覚もないわけです。しかし、問題が発覚したとして、誰が是正するんでしょうか。

トップが是正を命じたところで、量的に無理だとか客先に対応できないとか言われ、後回しにされたまま進んでしまいます。

結局、多勢に無勢で、なし崩しになっている。今のところ大きな問題はないが、どこにどれぐらいのリスクが潜んでいるのか、それが破裂したらどんなことになるのか、実は誰も知らない。ということで、なりゆき管理を放置するとどんなリスクがあるのか、見ていきます。

なりゆき管理が抱えるリスク

品質

承認の際にチェックができていないということは、客先に対して最も重要な品質面をしっかりチェックできていない可能性があります。さらに取引先との契約書を把握していないと、問題が起きても相手側に責任を問えず、こちらが丸抱えです。

コスト

これは説明不要ですね。チェックが甘ければ、発注量より多く払ったり、不当に高く買っていたりして、結果的にコストに響きます。

性能

設備や施設の場合、問題になってから気づき、「なぜこんなものを高値で購入しているんだ」となることが多いです。これは生産性やコスト、納期にもかかわってきます。

不正や癒着

ザル承認は不正や癒着の温床。承認を取りやすい部署が社内利権化していることもあります。人事権を握って、旨みの多い部署に自分の子飼いを配置しようとする動きも起こります。

企業統治

最終的には、企業統治の問題に跳ね返ってきます。全然ガバナンスが効いていない。だから組織の問題が起こるし、客先に問題を垂れ流しかねないし、業者との間にも問題を抱えてしまいます。

++

これらはすべてリスクに過ぎません。ザル承認が常態化していても、運がよければ何も起きないかもしれない。ですが、破裂して大変な事態になってしまうのは「運が悪かった」からではありません。ザル承認はロシアンルーレットと同じ。撃つ回数が増えれば、必然的に弾の出る確率は上がります。

現地法人の決裁・承認には、量の問題、言語の問題、監視の問題、是正の問題が絡み合っているため、なかなか急には解決できないと思います。しかし、なりゆき管理を続けるのはリスクが高すぎる。実際に破裂した会社の後始末を手がけていると、その代償の大きさを痛感します。

ちょっと宣伝。私たちも近年は発生した問題の対処だけではなくて、DAC DOCKという不正防止プログラムを開発し、有効な予防策を打てるようになりました。
規定類をすべて一旦リセットして、日本語版と中国語版を整備し直し、印鑑類を決裁権を持つところに集約し、管理・運用まで継続的にチェックしています。これで管理をあるべき姿に戻せます。

今日のひと言

なし崩し決裁に現実的な対策を!

決裁と承認というのは、なかなか一足飛びに理想的な状態には持っていけません。私も現実を見ているので、よーくわかります。わかるんですけれども、なし崩し決裁を放置するのは絶対にまずいです。

「ザル承認」というワードにドキッとした人は、できるだけ早めに現実的な対策に取り組むことをおすすめします。必要であれば知恵を出しますので。

YouTubeとWeChatで毎週「アジア時代の経営…和魂洋才亜力」をテーマに新作動画を配信しています。
中国・海外事業で経営を担う・組織を率いる皆さまが現地組織を鍛え、事業の持続的発展を図る一助になりますように。

いいなと思ったら応援しよう!