「返事だけはいい部下」を動かす方法【中国駐在あるある】
「没問題!」って言っていたのに問題発生。中国駐在員なら全員、経験があると思います。 「知道了」「明白了」「没問題」。返事だけはしっかり「わかりました」と言うのに仕事を完了できない部下、いますよねぇ。
今回はこの「中国マネジメントあるある」をどう打ち止めるかという話。私の会社ではほぼ撲滅しています。あるあるで終わらせませんよ。
返事だけはいい部下:遭遇例
「大丈夫」と言ったのに全然大丈夫じゃない。特に中国では「あるある」どころか「あるあるあるある」と言いたいほど頻繁に遭遇します。例えばこんな感じです。
仕事を依頼した時の返事
パターン① 明白了/知道了
シンプルに「わかりました」。さわやかに返事をしてくれます。
パターン② 好的/好了/好嘞
もう少しカジュアル。「オッケーです」「わっかりましたぁ」といったニュアンスです。
パターン③ 没問題
文字通り「No Problem」。「まかせてください」「問題ありません」。うーん、頼れる感じがします。
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特に赴任して間もない頃は、何を頼んでもこのように快く返事をしてくれる人が多いと思います。
製造や物流の現場だと、いきなり喧嘩腰に「あぁ?」「いや、それは自分の仕事じゃないです」なんてガンガン当たってくる人もいますが、それはあなたへの態度というより、いつもそんな感じの人(もしオフィスや管理職でもいたら、それはちょっと…)。
さて、気持ちよく引き受けてくれてから数日〜数週間後。進み具合を確認しておきたくなりますよね。部下に「進捗はどんな感じ?」と声をかけると、次のような答えが返ってきます。
進捗確認時の返事
パターン① 差不多
漢字が示す通り「(完了から)差が多くない」。「だいたいできています」というニュアンスです。
パターン② 応該没問題
「大丈夫(なはず)です」「(たぶん)大丈夫」。「大丈夫です!(没問題!)」という断言ではないものの、差不多より確からしさが高い表現です。
こんな風に言われれば、「よかったよかった、だったらこのまままかせておいて大丈夫だな」と思いますよね。
蓋を開けると
しばらく経って、そろそろ納期という頃に「できた?」と声をかけてみます。どうなっているでしょうか。
パターン① 指示と違うことを進めている
指示と違うことをやっていたり、言った通りに進めていなかったり、「どうしてそっちへ行っちゃったんだ」と頭を抱えたくなるような事態になっている。入口から間違っているので全部やり直し。さあ、どうしたものか。
パターン② えっ、このレベル…ほぼやり直し
仕事のクオリティーが驚くほど低い。1か月あったのに、30分か1時間でやっつけたとしか思えない、という状況。
パターン③ いま着手したところ
1か月なり1週間なりの時間を与え、途中で声かけした時は「没問題」と言っていたにもかかわらず、全然できていない。よくよく聞いてみると、実は昨日始めたとか、今週になってから慌てて着手したことが判明。「没問題」と答えた時には手も着けてなかったんかーい!と愕然。
パターン④ 別の仕事を優先していた
後から他の人の指示を受けて、そっちの仕事を優先していたから頼まれたことはやってないと言ってくることも。こちらとしては「だったら言ってよ」。どっちを優先すればいいか聞くなり、別の至急対応が発生したから納期を延ばしてくれと相談するなり、一声かけてくれと言いたくなります。
パターン⑤ やり方がわからなかった
挙句の果てにはこんなことも。
部下「やってません」
駐在員「え? なんで?」
部下「やり方がわからなかったんで」
……朝依頼して、昼に確認して、「ちょっとやり方がわからなくて、これから先輩に聞くつもりでした」ならわかる。しかし頼んだのは1か月前。途中で「どうなってる?」と確認した時は「没問題」と答えたはず。なのに「やり方がわからないからやってない」って。怒りを通り越して脱力してしまいます。
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ここに挙げたケースが決してレアではないことは、現地で働いている人ならわかりますよね。必ず遭遇したことがあるはずです。
これを「あるある、中国は大変だよね」で終わらせてしまっては、現地のリーダーとして赴任する意味がありません。こういう部下たちをどう動かすか、やらせ切るかが、駐在員の腕の見せどころです。
ちなみに私も中国へ渡った当初はさんざん手を焼いたものの、現在はほとんど解消しました。私たちが実践してきた方法を紹介します。
返事だけいい部下を動かす方法
動かす方法① 鵜呑みにしない
何事も鵜呑みにせず、言ってることではなくてやってることを確認します。「わかりました」と言われても、本当にわかったかどうかは、こちらが工夫してチェックします。
指示した後や指示内容の確認時に、「じゃあ、頼まれたことをもう一度言ってみて」とか「先週、3つ依頼したけど、覚えてる?」と聞くのが効果的。さっきの「わかりました」は、実は何もわかっていなかったということがわかる…かもしれません。
進捗確認で「差不多」、だいたいできてると言われたら、「まとまってなくていいから、今の段階を見せてくれる?」と返します。これで実際の進み具合(まだ手もつけてないとか)がわかり、入口から方向が間違ってるケースも修正できます。
動かす方法② 変に大人扱いしない
小さい子供を持つ親(私もそうです)は、よく「ウチの子は約束をすぐ破る」と愚痴をこぼします。
例えばこんなシーン。
子「ゲームしたい!」
親「宿題やったの?」
子「まだ」
親「どうするの?」
子「1時間だけゲームしてからやる」
親「1時間ね。約束だよ」
子「うん!わかった!」
……これで約束を守れるお宅は大変素晴らしい。が、そのお子さんが特別に素晴らしいのであって、ノーマルではないことは世の親みんな知っています。
普通は、親もバタバタしていて約束の時間が過ぎてから気づき、「あっ」と思って見てみると子供はまだゲームに夢中……。
親「もう2時間もやってるよ! 1時間って言ったじゃない!」
子「あー…うん…ゴニョゴニョ」
でも、これで「ウチの子は約束を守れない」と嘆くのはちょっと待って。これは子供じゃなくて親の問題です。
小学生以下の子供は、まだ脳がそこまで発達していません。目の前に誘惑があれば、理性ではねつけるのは無理。監視の目がない状態で「1時間だけゲーム」は、最初から間違いなく破られる運命にある。
だったらルールの方を変えて、例えば「宿題が終わってからゲームをする」と決めればいい。子供に約束を破らせない環境づくりは親の役目です。
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大人の社員育成を子育てに重ねるのは恐縮ですが、社員もある意味では同じです。
頼んだ仕事を自立して完遂できない部下は、「本人が大丈夫と言ったんだから」と変に大人扱いして放置せず、きっちり見ていなければなりません。
誰かのサポートを受けながらでも自分で最後までやり切った方が、約束したのにできなかったという経験よりずっと部下自身の糧になります。そういう経験を10回、100回と重ねていくと、だんだんゴールまで行くことが習慣化します。そうしたら後は大人扱いして大丈夫。できなかった時だけ注意すればいいです。
動かす方法③ 事後の指摘をやめる
納期間際に全然できていないとして、発覚した後に注意しても手遅れ。本人の努力ではもう間に合わない。上司の駐在員が自分でやるか、他の人に仕事を振り直すしかありません。
上司や先輩が肩代わりしてくれて、本人が最後までやり切る機会が消滅した後に、いくら小言を言っても効果はないです。瞬間的に反省するかもしれませんが、自分で最後までやり切ったという経験が積み上がらない以上、次もたぶん無理。意味のない事後指摘は打ち止めにしましょう。
動かす方法④ こちらがポカヨケ
中間地点でチェックを入れたい時、「1か月後が納期だから、2週間経った時に状況を報告して」と言われて自主的に報告できる部下は、すでに仕事も自立できている可能性が高いです。
大半の社員は、2週間後に報告に来たりはしません。こちらも忙しくてついスルーしてしまい、何日か後に催促しても「忘れてました」で終わり。気づいたら納期が迫っていて、肩代わりパターンに陥ります。
これをこちらが許していると、「あの駐在員は報告しなくても何も言ってこない」「納期に間に合わないと叱られはするけど、誰かが代わりにやってくれる」と学習してしまいます。これは非常にまずい。
では、どうするか。おすすめは指示したその場でリマインダー(指定した時間に自動で通知するもの)を設定すること。スマホやパソコンなら元から機能がついているし、秘書や通訳などしっかりした管理スタッフがいれば彼らに頼んでもいい。
私が指示する時は、まず本人に「今ここでリマインダーを設定して」と言います。特に重要なことや、納期破りの前科がある社員であれば、同じ案件の先輩や教育係にも設定させる。私自身も裏で自分のリマインダーを設定します。
特に最初のうちは、それでも設定していなかったり、通知を見落としたりすることがあります。でも私には自分のリマインダーが来るので、期限を超えているのに何も言ってこなければ、まず先輩を呼びます。
ここで「リマインドを見て意識していたけれど、昨日は本人と連絡が取れなかった」と答えるのはまだいい方。先輩自身がその場で聞き流して、リマインダー設定していなかった、というパターンもあります。
この場合は先輩をきっちり指導。上がやらないことは下もやらない。それから先輩同席で本人を指導し、進捗を確認し、間に合わなそうだったら「この1週間は優先して進めてね。締切のリマインダーを今ここで設定して」と釘を刺します。もちろん先輩の方もじっと見る。
ここまでやって設定しない社員はほぼいません(いたら後述のえんま帳→評価→契約更新に反映)。
リマインドの手段は、パソコンでもスマホでも手帳でも何でもいいです。本人と先輩/上司にポカヨケを設定させ、させっぱなしではなく自分もやるのがポイント。最終的にこちらが食い止められないと、お互いルーズになり、厳しいことを言えなくなります。
動かす方法⑤ えんま帳
これは私たちが人事制度改革をサポートする時に使っている重要な仕組みです。上司が評価対象者の観察メモを週次でつけていくというものです。
部下に納期破りがあれば、もちろんメモします。
「3月3日、1か月前に指示した作業について、途中報告では問題ないと言ったにもかかわらず、後から着手遅れが発覚」
「5月15日、3月にかなり厳しく指導したが、また納期遅れ。今回はリマインダー設定を厳命した」
といった具合に、6月、7月と経過を追いかけていきます。
評価の時期になったら、その期間分のえんま帳を見直します。そうすると「1月にも3月にも5月にも同じことを言っている」とか、「1月、2月はできていなかったのに、3月、4月は少なくとも報告はできた。6月にはこちらが忘れていたのに本人からリマインドがあった」みたいなことがわかります。
動かす方法⑥ 試用期間の判断と評価・処遇に連動
えんま帳に残したメモの内容は、試用期間終了時や1回目の労働契約更新、評価や処遇に反映させます。
試用期間中なのに何回言っても素直に指示が聞けなかったとなれば、正式採用は見送ります。部下の納期確認漏れが重なった先輩は、確実に評価を落とします。
やるべきことを自立してやり切っているか、会社の評価を実利で示します。
今日のひと言
実利・実害の伴う対策が鍵
返事だけで動かない部下の撲滅には、こちらが実利・実害の伴う対策を打つことが鍵。「中国人だからやらない」「うちの社員はダメなヤツばっかり」などとボヤいている駐在員は要注意。彼らが動かない原因の8割以上はこちら側にあります。
上に挙げた対策は、どれも駐在員が自分でできることばかり。部下たちには、自分の仕事は最後まで責任を持ってやり切る、これをシビアに習慣づけできるように進めてみてください。
対策を続けていけば、私自身の組織が大きく変化した経験から言っても、現地社員たちはきっちり自立できるようになります。個人の能力とは関係なく、仕事人として最低限の適性と責任感があれば、必ずやれます。鍵はこちら側の仕掛けです。