仕事とレジャーと人生の豊かさ
チクセントミハイ「フロー体験入門」第4~5章です。この本は本当に面白いね。前章までについてはこちらをご参照ください。
仕事がもたらすフロー状態
人生を豊かにするためには、スキルとチャレンジがともに高い水準にあるフロー状態になることが重要だという話でした。
研究によると、一般に年長の世代は仕事の中にフロー状態を見出し、中間の世代は仕事とレジャーの両方にフロー状態を見出し、若い世代はレジャーの中にしかフローを見出せない、という傾向があるそうだ。これは年齢的な問題もあるが、社会・経済の発達に伴い仕事の質が変化してきた結果も大きく影響している。
かつては狩猟や農業など、生きるための活動(仕事)がフロー状態をもたらしてくれた。今となっては時代遅れの伝統的な仕事を続けている老人を見れば分かる。若者からすれば無駄でしかない古いやり方も、老人たちにはフロー状態をもたらしてくれる生きがいなのだ。だから年長者は昔のやり方に固執して老害と化す。それが最も幸せな労働の形だと信じているから。
しかし、産業が発展して生活が豊かになり、ただ言われた通りに作業するだけで効率よくモノが生産され、創意工夫が必要とされない退屈な仕事が溢れてきた。単純な労働力として扱われる若者は、仕事の中にやりがいを見出してフロー状態を作り出すことが難しくなった。だから労働は悪であり、労働から解放された自由時間を手に入れることこそが幸福だと信じるようになった。
ところが、実際に自由時間を手に入れても、それを有益に使うことは難しい。自由時間をうまく使うためには、仕事に対するのと同じくらいの工夫と注意をつぎ込む必要がある。何もすることがない状態は人間を最も無気力で不幸にする。多すぎる自由時間は人生を衰えさせ、精神病などをもたらす社会災害に繋がると言われている。退職後の燃え尽き症候群は分かりやすい一例だ。
レジャーがもたらすフロー状態
平均的な人は、何もしないでいるための準備ができていない。目標がない状態では不安を引き起こし、不安から逃れるために人々は刺激を求めてレジャー活動を行う。テレビを見たりギャンブルをしたり酒に溺れたりする。仲間と集まって噂話にあけくれたり、恋愛やセックスを繰り返す。しかし、これらの受身的レジャーがフローを生み出すことはあまりない。
一方、ゲームやスポーツなど積極的レジャーはフローを生みだしやすい。北アメリカの先住民やイヌイットの若者たちは、狩りの楽しみがなくなったため、自動車に乗って過激なレースを繰り広げている。アラブの石油富豪も砂漠でキャデラックを乗り回している。
しかし、いくら積極的レジャーに身を投じても、それは本質的な意義の存在しない逃避である。生きるための仕事がフロー体験をもたらすとき、人生は最も充実するのである。
ということで、前回と同じ結論になるが、大切なのは、何をするかではなく、どのようにするかである。退屈な家事の中にも目標を見出だしてフローを作り出すことはできる。そのためには莫大な注意と工夫が必要ではあるが。
感想
会社の偉い人が、「昔はリゲインのCMで24時間働けますか、とか言っていた。今はコンプライアンスなどの問題でできないけど、そういう時代に戻りたいね」と言っていた。これはまだ、仕事にチャレンジがたくさん残っていた発展途上の時代だからこそ、仕事にフローが見出だしやすかったことに起因する。
今は、そもそも豊かになりすぎて、そこまでチャレンジがありふれては存在しない。そんな中でも注意深く世界を観察してイノベーションを起こす、新しいフローを生み出せる人材もいるが、その辺の野原ひろし的凡人が没頭できるようなフローはもう残っていないのだ。
昔に戻りたいというのは、チャレンジしがいのある発展途上の時代に戻りたいというだけであって、最近の若者のチャレンジ精神が足りないことの説明にはなっていない。しかし、そんなことには気づけないのである。だから若者は仕事に見切りをつけてレジャーに逃避するのである。
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