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#39 公共施設としての文化財という存在(の導入編)
さて、今回のテーマは「文化財」に焦点を当て、公共施設マネジメント×文化財みたいなことについて書いてみようかと思う。
僕が日常的に関わり、仕事の中心にいるのが公共施設(ここでは建築物に限定)という存在であるが、現状のように厳しい自治体財政をいかに健全化すべきかというミッションの基、全国で一斉に考えられるようになった公共施設マネジメントや公共FMの活動。
その活動の一環として、ほぼ全ての自治体で策定されている「公共施設等総合管理計画」において、公共施設の総量を縮減するといった目標が掲げられている。
僕たちのまちにおいても、2015年を起点として、向こう30年間で公共施設の総延床面積を30%以上縮減するといった目標を掲げ、施設の再編、不要となった施設の除却・売却・譲渡等を進めている。
とはいえ、文化財が相手となるとそうもいかない。
文化財は当然、「保存」が前提であり、みだりに解体などできるものではないため、総合管理計画で掲げた削減対象にも含まれないことが一般的な解釈だろう。
ではどうするか?
単純で短絡的な思考では「矛」×「盾」関係となってしまう文化財という存在。
そこで、公共施設マネジメント×文化財という文脈から、その対処法や処方箋について考察していきたい。
導入編となる今回は、僕自身が文化財に対して普段から気になっていることを中心に、自分自身の頭の整理も含めて、目次にあるような謎かけを解いていくこととする。
そもそも文化財にはどんな種類がある?
文化財の種類については文化庁のHPに詳しく紹介されているので、深掘りしてみたい方は、そちらで確認いただくとして、建築に関係が深そうな文化財は下の体系図のような感じだろう。
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体系化すると単純そうにみえるが、構図は結構複雑である。
パッと頭に入ってきそうにない感じだが、重要文化財の上位に国宝があったり、史跡や名称の上位に特別史跡や特別名勝などがあったりする。
また、重要文化財など指定を受けた文化財には、市の指定、県の指定、国の指定と、その中にもランク付けがある。
当然だが、市指定重要文化財<県指定重要文化財<国指定重要文化財という風に重要度は増していく。
また判りにくいのが登録有形文化財である。
国の登録有形文化財は、国からの登録を受けているので、市指定重要文化財よりもランクが上のように感じるが、指定と登録では指定の方が重いということで、重要文化財の方がより重要なものとされている。
(ほかにも各自治体の条例に基づく市登録文化財とかもあるようだが、ここでは省略)
その証拠に、重要文化財(もちろん国宝を含む)は、現状のまま後世に伝えるという目的をもち、元あった状態を保存することが前提となる。
一方で、登録有形文化財は、外観の保存規制はあるものの、内部は自由に改変することもでき、保存と活用を促進することが推奨されている。
ちなみにサムネイルにも貼っている写真は、昭和8年に建設された在りし日の旧津山市庁舎(現津山郷土博物館)で、国の登録有形文化財となっている。
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文化財が多いのはどの地域?
僕が住んでいて仕事で直面している津山市は、元々城下町でもあり、大きな戦禍に見舞われなかったということもあり、他のまちと比較して多くの文化財が残っている方じゃないかと思う。
では、日本の中での文化財の偏りというのはあるのだろうか?
ここでも文化庁のHPを見ると詳しく検索することができる。
検索の方法によって捉え方に差はあるが、建築系の重要文化財と国宝に絞っていうと、ともに京都府、奈良県、滋賀県という順番のようだ。
国宝建造物がない県というのもあるが、京都と奈良の数をみると、その集積具合の凄さがわかる。さすが古都!
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また登録有形文化財の方はというと、順番がちょっと入れ替わって、大阪、兵庫、京都という順番になる。
意外なことに登録有形文化財では奈良県が気持ち少なかったり、長野県や新潟県が多かったりする。
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近代建築は文化財になれるのか?
文化財というと、当然歴史的な価値が高いものが選定されていそうなものであるが、その年数の基準というものはあるのだろうか?
登録有形文化財を例にとると以下の基準となっている。
文化庁のHPによると、登録有形文化財という制度は、平成8年に誕生した比較的新しい制度のようで、登録の基準として、①国土の歴史的景観に寄与しているもの、②造形の規範となっているもの、③再現することが容易でないものとされており、原則として建設後50年を経過したものとされている。
ヨーロッパなどの建築は、築後数百年というものが当たり前であるが、建築物の寿命が極端に短い我が国においては、築後50年程度でも文化財になる可能性もあるということだ。
つまり戦後の近代建築でも十分にその資格はあるということで、例えば、以下のような有名建築家が設計した近代建築はすでに文化財(重要文化財や登録有形文化財)の仲間入りを果たしている。
・広島平和記念資料館(昭和30年築) 設計:丹下健三 ※重要文化財
・香川県庁舎旧本館及び東館(昭和33年築) 設計:丹下健三
・旧島根県立博物館(昭和33年築) 設計:菊竹清訓
・国立西洋美術館(昭和34年築) 設計:ル・コルビュジエ ※重要文化財
・林原美術館本館(昭和38年築) 設計:前川國男
・代々木競技場(昭和39年築) 設計:丹下健三 ※重要文化財
・旧大分県立大分図書館(昭和41年築) 設計:磯崎新
・寒河江市役所庁舎(昭和42年築) 設計:黒川紀章
今のところ、その下の世代の建築(野武士世代の建築家が設計したもの)は文化財になっていないようだが、今後、安藤忠雄さん設計の〇〇とか、伊東豊雄さん設計の〇〇とかが、文化財になるような時代が来るかもしれない。(50年なんて建築の歴史からするとあっという間だからね)
文化財は壊すことができるのか?
では、いったん文化財になった建造物を壊すことはできるのだろうか?
絶対ということではないようだが、基本的に解体は許されないだろう。
そもそも文化財を故意に破壊することは法律で厳しく禁止されているし、文化財は国民全体の財産として強い保護を受けており、破壊すると厳しい処罰が科せられることになっている。
ちなみに文化財は私物と公物の両方存在しているが、個人所有の財産ならまだしも、公共建築となっている文化財が解体されるということは滅多にない。
調べて見ると、平成17年に旧加納町(現岐阜市)で登録有形文化財となっていた旧町役場庁舎が老朽化のため解体されたという事例はあるようだが、文化財の公共建築が壊されるというケースは非常にレアケースだろう。
保存や維持管理のためのお金がない、というだけでは世論的になかなか納得してはもらえないだろう。
一方で、文化財に指定や登録がされた歴史的建造物が、その保存や維持管理ができないという理由で、個人の所有から自治体へ移管・譲渡されるケースは少なくない。
ただ、受け取った側の自治体においても財政的な余裕は無くなってきているのが現状である。
文化財を後世へきちんと継承していくためには、大きなお金を伴うのは間違いない事実。
そんな難しいミッションにどう立ち向かっていくのか?
みたいなことを後編となる「処方箋編」で記していきたい。
ちなみに、「処方箋編」は僕が役所とは別に活動している「NPO法人 自治経営 FMアライアンス」のアカウントで書いている。
こちらは「公共FMアングラBar」という有料のメンバーシップ制としていて、僕も含めたアライアンスメンバーのnote記事や、月イチ(毎月第3日曜日の21時〜)で開催するオンライン夜会(Zoom)をセットで楽しむことが可能だ。
毎月、公共施設にまつわる闇の話を本音で語りながら、そこから光を灯すことを目的としたアンダーグラウンドな会である(笑)
「処方箋編」は、そちらのメンバーシップ限定記事としているので、この「導入編」を読んだ方は「公共FMアングラBar」にもぜひジョインくださいませ〜。