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PSG-R.Madrid 2ndレグに関しまして|LLNK_1206ロリ大卒業記念特別無料公開記事

1stレグ振り返り

レアル側

 内容的にはPSGの完勝と言えるものだったが、一方でレアルも傷口はかなり小さく抑えたという見方もできる。
 レアルに関しては、極端に撤退した4-5ラインの形成に関しては、賛否が分かれるだろう。
 撤退のメリットは、PSGのある弱点を明確に突けることにある。PSGの最大の弱点は攻撃陣の連係精度だ。ネイマール、メッシ、エンバペの3人は、選手としての格で言えば史上最も豪華な3トップだが、交通整理能力に関してはかなり凡庸だ。それは、ネイマールの代わりにディ・マリアが投入されていたこの試合でも変化はない。ディ・マリアは4人目のアタッカー、もしくは2人目のアタッカー(アシストマン)としての価値は高いが、交通整理役の3人目としてのアタッカーの素養は持っていない。この点に於いてはネイマールの下位互換という言い方もできる(4人目としてはディ・マリアの方が上だったが)。
 交通整理ができないチームに、引いて守るのは大正解だと言わざるを得ない。スペースを自分で作れないチームに、スペースを与えなければそれは失点にならない。PSGのゴール期待値(xG)は1.91。レアルの0.13が示す通りの圧倒的な内容であったが、その内容は実はチャンスにそこまで結び付かなかったという現実がある。
 ただし、この作戦によって0.13になってしまったというのは問題だ。勝利の可能性を放棄したに等しい数字だからだ。
 ただし、この数字になるのを前提でアセンシオを使ったとしたら、それは面白い仮説になるのではないだろうか。少なくとも今のレアルで、0から1を生み出せるのは彼のミドルシュートだけである。それ以外の能力を見ると正直レアルのスタメンレベルではなくなっているので(ACLさえ切らなければとは思う)、普通ならスタメンでは使わないが、xGが0.13の試合で途中投入しても彼のxGは0に近い数字になるはずだ。
 ただし、彼もミドルを打つオープンスペースが必要なので、スペースが広がらない序盤から中盤での起用はやはり向かなかったのが結果だ。賭けるべき一発芸だからこそ、それが最大化される終盤まで我慢すべきだったというのが結果論的な結論になるだろう。

PSG側

 PSGに話を戻すと、交通整理役の不在をうまく突かれてしまったが、そこで焦らず自分たちもポゼッションを使って塩漬けに応じたのは次善策として良かったように思う。ダニーロは中盤と最終ラインを行き来するだけに留めたし(他の試合では前方へ駆け上がるシーンも多々存在する)、パレデスもほぼアンカーの位置から動かなかった。特筆すべきはポルトガル人2人の危機察知能力だろう。ダニーロはクロースを基本的に監視しながら、ネガティヴ・トランジション時にはヴィニシウスに標的をすぐに切り替えた。やっている動きの質と量はインサイドハーフの素養だが、この動きを忠実に実行するにはアンカーのポジショニング能力が必要だ。これはチームメイトである(純正IHの)ガナ・ゲイエには難しいタスクなのではないか。彼の代わりはマルキーニョスの中盤起用くらいだろう。ダニーロ・システムの課題は、ダニーロ本人が純正アンカーであるために、この試合のように90分このタスクをこなし続けることは難しい点だ。ヌーノ・メンデスは、プレスが間に合えばカルバハルに突撃し、間に合わないと判断すればアセンシオのところまで帰った。こちらも予測能力と身体能力が両立していないと厳しい。少なくとも、逆サイドのハキミは前者の仕事(=フェルラン・メンディやクルトワに突撃する)しか出来ない。タスクの割り振りはかなり絶妙であると言える。
 少しリスクを感じさせたのは、その守り方だ。PSGは守備時に3-2-3-2に変形したが、それはレアルの4-3-3に1人ずつマークを付ける方式であった。数的同数であって、数的有利は作れていないので、事故が起こるとかなりリスクはあるように見える。
 ただ、この試合では単純に質で上回るという自信が監督にあったのかもしれない。もちろん、これまでも本質的にはプレス重視で、あまり後方で取るところに拘りはなさそうな監督なのだが。
 ミスマッチが起こりそうなのは、アジリティーに差があるヴィニシウスとダニーロのところだが、ダニーロを3バックの中央に下げてマルキーニョスを右サイドに出すよりも、ダニーロをそのまま3バックの右に下げる方が手数が少なくて済むという判断が一つ。もう一つは、ポジション取りが割とフリーダムなベンゼマに対して、より機動力のあるマルキーニョスをつけておきたいという意図があったはずだ。ヴィニシウスよりも起点になるベンゼマを警戒したという見方も可能だ。
 PSGにとって僥倖だったのは、クロースの機動力不足だろう。そもそも中盤の選手が一長一短であるPSGにとって、パス能力という長所と機動力・守備力という短所が明確なクロースは、対面さえ相性の良い選手を当てればハマる可能性がある選手だった。ポチェッティーノの選択は、同じような選手を当てることだった。同じく機動力はないが守備力のあるダニーロを守備時に、同じく機動力と守備力がなくてパス能力のあるパレデスを攻撃時に当てることで、両者の良さが出るように、クロースの弱点がクローズアップできるようにローテーションできたのではないか。パレデスである理由は正直見えにくかったが、彼の縦パスを活かすにはクロースはうってつけの相手だったのだろう。逆に言えば、この方式はレアル以外にはハマらない可能性が高いとも言える。
 メッシにカゼミーロを見させたのは、カゼミーロのビルドアップでの貢献が大きくないと見たと考えられる。過去の試合から、むしろ警戒したのはアラバとミリトンからのロングフィードだったのではないかと推察される。この2人にはスタミナがあるディ・マリアとスピードのあるエンバペでしっかりチェックさせていた。両方とも守備力が特段高いわけではないが、プレスで押し込めるだけのスピードはある。
 ここで疑問として挙がるのが、カゼミーロとモドリッチは何故持ち上がらなかったかという点だ。カゼミーロはメッシを剝がすだけの技術は有しているし、モドリッチも対面がヴェッラッティとはいえ完封されるほどではないはずだ。しかし、ここにヴェッラッティの守備能力の神髄がある。
 ヴェッラッティは、正確にモドリッチについていたわけではなかった。メッシのサポートでバイタルエリアには必ず上がっていた彼のネガティブ・トランジションでの役目はコース限定である。特にメッシがマークすべきカゼミーロにボールが渡っていた際には、自分が本来マークすべきモドリッチへのコースを的確に遮断していた。トランジション時にクロースをマークしていたパレデスも、モドリッチへのコースはかなり切っていた。モドリッチはそもそもボールに良いところでほとんど触れられなかったのではないだろうか。
 もちろん、このシステムは不安点も多い。そもそもバイタルエリアまで上がってメッシのサポートをしながら、ネガティブ・トランジションで的確にコース切り守備ができて、その後も的確に撤退できるのはPSGどころか世界中を見渡してもヴェッラッティと全盛期のモドリッチくらいではないだろうか。要するに、ヴェッラッティがいなければ割と破綻するプレスでもある。ヴェッラッティが称賛される所以は、その守備センスの高さにある。
 わざわざ3バックにして、SBを高い位置まで上げた理由も、ヴェッラッティの存在がポチェッティーノの強気を生み出したと言える。プレス強度を重視するなら、後ろの枚数を余らせるよりもマンマーク状態を作る方が賢い。ヴェッラッティがいれば、前で起こる事故も最小限に留められるから問題ないというところだろう。裏を返せば、ヴェッラッティがいなければPSGはこの試合で撤退戦術を取っていた可能性が高い。
 後ろにハキミがいるリスクを避けたかったのも要因の一つだ。OMとのフランス・ダービーで勢い良すぎる対人守備を披露して退場した通り、対人守備では危なっかしいプレーが多い。これまでの3バックでは、所定の位置に戻ってこないという課題もあったが、そもそも前方で守備させれば問題ない。そして、彼の最大の武器であるスピードとスタミナを活かすために、また対面の攻撃能力も考慮して、ハキミにはフェルラン・メンディにつかせながら、機会があればクルトワへのプレスもタスクとして課したのであろう。かなり上手な使い方だと思う。

展望

 レアルとしては、抜本的に変えないといけないが、変えたところで大量得点を取るリソースはさすがにない(むしろあったら1stレグのようにはなっていない)。2-0を目標にして、まずは守備から考えていく必要があると思われ、LBは守備的な選手を選択すると見る。中盤はPSGの強度に対抗するならクロース-カマヴィンガ-バルベルデなのだろうが、モドリッチを外すかクロースを外すか、或いはカマヴィンガを外すかは迷いどころだ。PSGに強いニースを参考に4-4-2でも良いかもしれないと感じたが、それはそれでセカンドトップの人選に迷う。少なくとも言えるのは、スタート時のフォーメーションと勝負をかける際のフォーメーションを大きく変えたほうがいいというだけだ。それが4-4-2から4-1-4-1か、もしくはその逆なのかは私には判断がつかないが(守備強度的に前者だと思っている)。
 PSGはヴェッラッティ、ダニーロ、メンデスがいなければ守備面でかなりの方針転換を迫られる。攻撃では今一つかみ合わないが、守備面では基本的な能力に穴がないドラクスラーはスペイン勢には刺さりそうで、いささか冷遇しすぎな感はある。パレデスのところの不安を、ドラクスラーやワイナルドゥムで解消したい。
 ワイナルドゥムの名前を挙げたのは、前線の交通整理をやらないといけないと感じているからだ。現状フィルミーノもリシャルリソンも、ハヴァ―ツもいないのだから、そのジェネリックとなりうるのはオフ・ザ・ボールの動きは間違えないワイナルドゥムではないだろうか。
 難しいのはネイマールの入れ方だ。順当ならそのままディ・マリアのところだが、メッシとの距離感が気になる。初期位置は遠目で配置したほうがいい2人だが、このシステムだとどうしても近づいてしまう。左右が入れ替わるのも難点だ。ネイマールとメッシの入れ替えの方が案外きれいなような気はする。もっとも、これだとファイナル8当時のシステムに相当近くなるし中盤の攻撃力不足が目立つかもしれない。難しい判断だ。
 どのみち、相手がこちらを把握した&ボールを握ろうとする2ndで打つ手をポチェッティーノは考えなければならない。このシステム自体もここまで振り返ればわかる通り対レアル専用システムのニュアンスが強く、この先勝ち進んだとしても、相当の準備を強いられ続けることになる。ポチェッティーノにとっての“ファイナル”は続く。
≪この項・了≫

p.s.
小坂菜緒ちゃん復帰の代償で、変なスペインのおじさんがついてきました

著者:こしゃルーム

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