ようかい食堂と別れ/私小説⑧-1/ストレスジャンププール
はぁ〜ぁ…
駅のホームのベンチに座りながら、メールの送信ボタンを押すか躊躇い、ため息が溢れた
送る文面は、、、
"もう、会うのやめよう
今まで、ありがとう
さようなら…"
送るしか…
ないよな…
うん…
だって、もう会うの無理だし…
会いたいとも思えない…
送信を押そうとしたら、握り閉めていたスマホが手汗で滑り落ちた!
ヤバ!
画面が割れるかも💦
と頭に不安が過ると同時に、不意に足元がプールの様に水面が広がっていく!
えっ!?
ちょっと何これ!?
時々、駅の天井や壁から、雨漏りして修繕しているのは、見かけるけど…
あたしのスマホが、水面に沈み込み、消えていった!
混乱する頭の中で、スマホを探そうと水面に手を入れると、辺りが暗くなり意識が無くなっていった…
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なんか美味しそうな匂いがするなあと、目を開けると…
目の前に、"ようかい食堂"と書かれた、お店の前に立っていた
足元を見ると、あたしのスマホが落ちている
拾ってスマホに触ると「送信」を選択する画面のままだった
よかった〜
壊れていないと確認が出来て、一安心する
それにしても、ここはどこなの?
ようかい食堂を覗いてみると、ゆるキャラぽい、可愛い河童がいた!
お煎餅を美味しそうに食べながら、お茶を飲んでいる
なんか、幸せそうでいいなと思ったら、あたしの視線に気付いたみたい
河童が、ニコッと笑って、手招きしてくる
えっ、あたし呼ばれているの!?
恐る恐る、店内に入り、河童に声を掛ける…
「あのう、ここって…」
「よく来たね。まあ座りなよ。おいらの、お煎餅、よかったら食べる?」
か、か、か、河童が、しゃべってんだけど…
とりあえず席に座り、差し出された、お煎餅には手を付けず、河童に聞いてみた
「ここって、持ち込みが大丈夫な、お店なんですか?
何か、注文しなくても?」
「うん、大丈夫だよ。
店長もいるけど、昼寝がしたくなったから、お店の奥で休んでるよ。」
人間と違って、妖怪は自由でいいなあと、うらやましく思う
「ここに来れる人間は、稀なの。
美味しい、お茶もあるから、ゆっくりしてね🍵」
と、お茶も勧められた
ここは夢?幻なの?
お茶を頂くと、不思議と気持ちが、落ち着いてきた…
あっ、そうだ
あたし、メールを送らないと…
けど、気が重いな…
「ねえ、よかったら、ここに来る前に、何があったか聞かせて貰ってもいい?
おいら、人間の話しを聞くのが好きなんだ。」
と河童に言われて、驚いた
妖怪が人間の話しに、興味があることに
人間同士ですら、他人の話しを聞くよりも、自分の話しだけを、ただ聞いて欲しい人が多い中で、、、
見ず知らずの人間の話しを、聞いてくれようとする河童は、奇特だなと思う
妖怪に、相談や悩みを話す?
不思議な状況に戸惑いながらも、誰かに、胸に抱える苦しさや重さを、ただ聞いてほしいとも思う…
意を決して、あたしは、何があったかを話すことにした
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さっきまで、あたしは友人と会っていた
ファミレスで、お互いの近況報告をしたり、他愛のない話しをしながら、楽しく過ごしていた
けど、あたしが注文した、ハンバーグきのこ定食の事で、雲行きが怪しくなった…
元々、流行とかに流されやすい部分は感じていた
昨年位から、丸くて大きい形のメガネを着用する人が増えたけど、友人もその1人だ
ファッション雑誌等で、そういった眼鏡を以前は、、、
"ダサイ"
と、酷評して扱き下ろしていたのにね…
変節と手のひら返しに、内心は、とても驚いている…
"やれ、有名人や芸能人が使用しているから"
"宣伝費をふんだんに使い、拡散人物を起用して、繰り返し広告で見聞きさせ、流行感を出し、みんな着用しているからという演出に、私だけが乗り遅れる訳にはいかないという、焦りや圧力を無意識に受ける"
あたし自身は、テレビを見るのを止めて何年も経つから、、、
"流行だの"
"世間や世の中が、そうだから"
"みんなやってる、みんなそうだから"
という感覚が、薄くなっていた
以前は、気が付かない内に、よく流されていたから、行動に至る心情は、理解できる
だからといって友人に、あたしと同じ考え方や行動を、求めることはしなかった
けどさ…
あたしが頼んだ「ハンバーグきのこ定食」が配膳された時に、友人の一言から、不穏な空気に変わった
「ねえ、ヴィーガンって知ってる?
あたしも、最近なったんだ。」
と言われ、食事の手が止まり、眉間に皺が寄った
"ビネガー(お酢)"だったら、笑えていいけど、
間違いないよね…
「…ふ〜ん、それで?」
と聞くと、どうやら著名人がヴィーガン=完全菜食主義者に、なったブログを読み、感化されて、しまったようだ…
何を食べるか選択するのは、友人の自由だけどさ、、、
ヴィーガンの生き方が、いかに素晴らしいか、動物達がどんな苦痛を受けるているかと、懇々と力説してくる
ここまでは、まだ聞いてられたけど…
あたしが注文した料理まで引き合いに出され、いかに人間が残酷かと言われて、頭に血が上り、顔が熱くなった
食事中にする話題とは思えず、とても不愉快だ
あたしのことを変えようとか、思い通りにしようとか、巻き込もとする意図も感じられた…
心の中で、「は〜ぁ」と、ため息をつく…
以前、会った時は、こんな人ではなかった
人しての配慮や思いやりが、あったのにな…
まるで別人の様に、人が変わってしまったようだ…
残念だけど、この手の手合いになってしまうと、話しが通じず、分かり合えないのは、よ〜く知っている
悪徳商法の被害者になり、加害者側にもなった人
悪徳宗教に入信してしまい、月間入信者獲得目標の達成と、指導者等から褒められたい、認めて貰いたいが為に、"あなたの幸せや人生の為"と善意を装い勧誘する人
両者に共通するのは、同じ地獄に、引き込もうとすることだ…
悪徳と名を冠するのは、自己啓発・政治・広告やCMもあるかな
労働契約を守らず、不当な労働条件で働かせて、利益を上げる会社は、悪徳企業か
不急の検査を行い、不要の薬を出し続ける医療者は、悪徳医療だよね
おっと、目の前の現実から逃げたくて、考えごとばかりしていた
ヴィーガンが、正しいと思い信じるのは、友人の自由だ
けど、それを押し付けようとしたり、強要してくるなら、友人でいられないし、友人でいたくない
あたしなりに考えて思う、食と命についての結論は、他の生物から命を貰わずに、生命維持が出来る生物は、いないと思うのだ
動物の肉を食べたら、ダメと言うけど、生きる為に食べる、ライオンやハイエナや熊といった人間以外の肉食行為は、どうなるの?
生態系の均衡は、度外視?
植物だって、人間には植物語が聞こえないだけで、同じ命があるんじゃないの?
SDGSとやらで、コオロギを食べる様に勧められてるけど、虫は声を発するし、人間が虫語を理解できないだけで、苦痛を与えて命を奪っているのは、肉食行為と同じではないの?
あたしは、屠殺の経験も立ち会ったこともないけど…
お魚を釣って、陸上げされて呼吸困難で苦しんでいるのは感じるし、自分の手で三枚おろしにした時に、命を奪っていると痛感する
けど、日本語の「頂きます」には、命を大切に頂くことへの、敬意や感謝も含まれる気がする
そんな、あたしの思いや考えも、友人に伝えてみたけど…
ダメだった
あたしの考えや思いが絶対に正しいとか、間違いないとは思わない
色々な人がいるし、色々な考え方があるのも、できる限り理解しようとしたり 、尊重して大切にしたいとは思う
今の友人は、著名人の言葉や考え方だけが、唯一絶対になってしまい、忘れ捨て去りたい、過去の亡霊の様なあたしの存在は、どうしても認めたくないみたいだ…
なんか悲しいね…
せっかくの休日に会って、お互いに、楽しく、いい時間を過ごせるだろうと期待してたのにな…
友人の変貌に、喪失感と埋めようのない溝を感じた…
パワハラ上司と一緒の空間にいる様な、居心地の悪さと不快感の中で、あたし自身から決断を迫られていた…
この場から、一刻も早く立ち去りたいという、強い気持ちだ
その選択が齎すものは、決別や別れである…
全体や本質を見ようとせず…
特定の考えや見方に固執して、独善・偏見・一方通行になった人に、届く言葉はないよね…
目を閉じて、深く息を吐いた
あたしの様子に構うことなく話し続ける、友人の話しを遮った
「あのさ、あたし帰るね。」
一瞬、驚いた表情を見せたが、それに構わず、食事代を置いて席を立った
外に出ると、ようやく解放された安堵の気持ちと共に、涙が流れてきた
あたしの名前を呼ぶ声も聞こえるけど、耳を貸さずに、ただ駅に向かうことだけを考えて歩いた…
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お読み頂いて、ありがとうございます。
一話完結を目指しましたが、続きが書けず、長くなったので💦
今日は曇りで、雨も少し降っている空模様
今日も、いい1日で、ありますように