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B5ノート中横罫



『私には2歳年上の姉がいた。姉は美人で、腕も足も長くて、肌が白くて、頭も良くて運動もできる。美しい母と父によく似ている。それに対して私は、鼻は大きく目は細く、歯並びも姿勢も悪い。骨格なんて大柄な祖父にそっくりだ。同じ親から産まれてきて同じ環境で育ってきたはずなのに、どうしてこうも違うのだろうと、ノートに毎日“殺して”と書いていた時期もあった(もう捨てられたけれど)。

前、Twisterで変な都市伝説の記事が流れてきた。“私立◯◯高校三年生の美人生徒が、毎年一人消えていく”それは姉の通っている高校だった。最初私は鼻で笑ったが、もしこれが本当なら姉はそのターゲットになりうる。私は待った。姉が高校三年生になって消えていくのを。考えたら顔のにやけが止まらなかった。これで、産まれたときからずっと姉と比べられてきた最悪な人生が終わるかもしれない。

6月が誕生日の姉は、高校3年生になったときに教習所に通わせてもらっていた。誕生日を迎えた少しあとに仮免許を取り、7月にはもう免許を取得していた。夏休みのある日、姉は私にドライブを誘ってきた。
「はるちゃん、2人で一緒に海に行こうよ」
頭お花畑が。誰がお前なんかと海に行くか。どうせ友達だってたくさんいるだろうに。あ、でもお前はもう消える人間かもしれないから、人生最後一緒の時間を過ごしたっていいか。容認した。姉からの誘いを受けたのは、もう小学二年生以来だと思う。「はるちゃんとお出かけなんて嬉しい。絶対最初に乗せたいと思ってたの」
姉との最後であろう時間を思ったより満喫していた。海なんて一生来ないと思っていた。帰りの高速道路で、姉はおかしなことを言っていた。

「はるちゃん、私だけがいなくなったら、お母さんをよろしくね」

どういうこと?と聞き返すと、悲しそうな顔で微笑んでいるだけだった。教えてよ。何も答えない。まさか姉も都市伝説を知っている?その可能性はあるけれど、姉は自分で美人だと自負するタイプの人間ではない。

「はるちゃんと私だけの世界だったらいいのにね」

え?何?

突然車が急発進して、大型トラックの真後ろに来た。大きな音と同時に目の前が真っ暗になった。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、それだけで頭がいっぱいになった。私は死ぬんだ。どういうこと?これは何?


目が覚めると病院で、私は生きていた。母がいた。なぜか、姉の名前を呼び叫んでいる。静香、静香。「晴海は死んでしまったのよ…」ここにいるのが晴海だよ?何が起こっているのだろう。もしかして現実を受け止めたくない系のアレ?

しばらくしてから医者の説明を受け、“静香”の体はあまり衝撃を受けなかったらしく、あと一週間もすれば退院ができるらしい。少し体は痛むがなんとか起き上がれることができて、母に車椅子を押してもらいトイレに向かって、そして鏡を見た。

その姿は本当に姉だ。姉だ。まさか。そんなことが。よくある中身入れ替わり系のアレだった。

にやけが止まらなかった。やった。私はやったんだ。これで、つまらない人生から開放されるんだ!

退院して3日後、父親がいきなり部屋に入ってきた。私はびっくりして声が出た。「何をそんなに驚くんだ?静香、体調は大丈夫なのか?」そんな平然と年頃の娘の部屋に入ってくるものなのだろうか。少なくとも私の部屋に訪ねてきたことはない。まだ少し体は痛い。と答えると父親は、「そうか。今度また、来るからな」といって部屋を出た。怖かった。とにかく“怖い”だけで頭が支配された。

夏休み明け、私は姉の通っていた高校に復帰した。なんだかにこやかな明るい女子三人組にトイレに呼び出された。「静香!お手洗いいこ!」姉の同じグループの女子たちだろうか。トイレに向かうや否や、髪を掴まれ便器に顔をうずめさせようとする。必死に抵抗する。一体これは何?「お前今日はいくら持ってんの?」カツアゲ?こんな正々堂々とカツアゲすることあるんだ、と少し感心すらした。「今日も男呼んでるからよろしくね〜」どういうこと?

数日過ごしてみてすぐに分かった。姉の人生は地獄だった。父親は深夜に姉の部屋に忍び込んで、非ぬことをしていた。嘘。信じられない。でもこれが事実。実際に今起こっているのだから。前に父親が部屋に入ってきたときの反応を見ると、日常的だったとしか思えないようだった。気持ち悪い。気持ち悪い。「車を壊しやがって」「俺への当てつけだろ?なあ」「しっかり返してもらうからな」


「はるちゃんと私だけの世界だったら」
姉は事故に合う前、そう言っていた。
今なら私も同じことを思っていた。
天井を見つめながら、涙が一つこぼれた。

誰にも知られないままなのは許せなかったので、この文を書くことにした。身内で姉の味方だったのは母くらいだろうか。高校の都市伝説が本当か嘘かは分からないままだが、こんな人生は耐えられない。

昨日、最後に姉の部屋を漁っていたら姉の日記を見つけたので、それと一緒にこの文を読んでほしい。誰が読んでくれるかわからないけれど。私たちの人生は、最初から壊れていた。』



ここで文は終わっていた。







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