100. 認められたい!
“このまま会社を辞めても、こんな状態では何の仕事もできない。できたとしても待遇面は大幅にダウンするだけだ!自分の力をつけてから、飛び出さなきゃ、なんの意味もない!”
派遣会社から突きつけられた自分の値段が、あまりにも低かったショックが、いつのまにか流産のショックをかき消し、会社を辞めたいという後ろ向きな気持ちを吹き飛ばし、再びわたしの心に火をつけた。
会社の中で、わたしがここにいることを、わたしがここで仕事をしているということを認められたい!だから、わたしは仕事をしている。
定岡さんもそうだった。定岡さんの担当している仕事には、定岡さんの存在感があった。たとえ実務をわたしや、他の人が一手に引き受けていて、定岡さん自身がまったく仕事をしていなくても・・・。
担当する仕事の量でも、仕事の種類でも、レベルでもなく、どんな仕事をしていても、わたし自身の存在を認めてもらえるような仕事、仕事ぶり。ふと、定岡さんが以前、わたしに話してくれたことを思い出した。
「ほんとに仕事が出来る奴っていうのはな、そいつが居なくてもその仕事がスムーズに運ぶように、日ごろから段取りしながら仕事してるんやで。デスクの引き出しの何段目には何が入っていて、この帳票は、ここに収めてあって、日々ミスなくやるべきことをやっている。
人間、いつ何が起こるかわからへんやろ?突然事故にあうかもしれへんし、熱出して起き上がられへんときもある。そんなとき、電話一本かけて、誰かに仕事を任せられるっていうのは、凄いことなんやで。
会社の命令で、担当を引き継がんとあかんようになることもある。そんな時、自分でもめちゃくちゃな仕事してたら、引き継ぐ相手に迷惑やろ?
おまえが、そういう目にあったから、それはよーわかっとるやろ?今やってる仕事が全てではないんや。いつかはその仕事から離れるときが来る。どんなに得意先に可愛がってもらっていても、ずっとその仕事はできへんのやで。
そのときがきたら、あっさりと後輩にその仕事を引き継いでやる。仕事の担当が突然変わっても、自分が作ってきた仕事をやっていく手順とかやり方が良かったら、後輩もそれを真似する。得意先の人も、いつまでも自分のことを覚えてくれているもんなんや。
でも、いざとなったら指名がかかる。『定岡さん、すまんが、どうしても君に助けてほしいんやけど・・・』。担当を外れても、そんなつながりが持ててるって、嬉しいと思わへんか?俺は、そういう仕事をやってきた」
まだ、定岡さんと一緒に仕事をしてなかった頃、与えられた仕事をこなすこともろくに出来なかった頃、そんなことを話してくれたことがあった。あの頃は、どういう意味なのか半分も理解できなかったけど、今、ようやくその意味が全部わかったような気がした。
“目先の仕事に追われて、ただこなしているだけじゃなく、仕事の本質を見極めて仕事をしていくってことなんだね!わたしに、基本が全然出来てないことを言いたかったんだね!”
目の前に漂っていた厚い灰色の雲が消え、サーっと晴れ渡っていくような気がした。
“どこにいっても通用するような仕事振り。基本をしっかり身につけること・・・”
そうなったら居てもたってもいられない。せっかくもらった休暇はあと2週間ある。この2週間を思う存分、気力の回復に使わせて貰おう!復帰する時には、気力100パーセントで仕事にも、会社の人たちにも、得意先の人たちとも接することができるように・・・!
そして、わたしは手始めに本を読むことにした。通用することって、どんなことなのか?わたしに何が足りないのかを知るために・・・。
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