ノートと私(2)
次に夢中になってノートを使ったのは、大学4年生の時、「就職日記」をつけました。
当時は、雇用機会均等法なんて発想すらなく、女性は結婚を期に退職するのが当たり前の時代。4年制の大学の女子大生の就職は厳しく、募集があったとしても、自宅外通勤は不可。それに加えて、私は大学の講義を真面目に受けていなかったので成績は中の下。就職部の資料室で、隅から隅まで求人票のファイルを見ても、こんな悪条件が揃った私など採用してくれる企業なんて皆無に近かったのです。
“何にも取り得がなくて、PR出来るものがないんだったら、就職活動をしながら培うしかない!”と思い、自分自身のことを、自分の言葉と文章できちんと伝えられるようになるために、日記を書こう!と思ったのがきっかけでした。
また、当時「4年制大学の女子大生の就職は土砂降り」と言われていましたが、“本当にそうなのか?私自身の活動を克明に記録して実証してみよう!”と思いました。
書いていたのは
毎日、その日の行動、本や新聞を読んで考えたこと、就職対策講座を受講して考えたこと(この当時から、日経新聞はけっこう読んでいました)
資料請求のために考えた文面、送付した企業と返信状況の記録
企業を訪問したときには、訪問した企業までのアクセス、面談をして下さった方のお名前と面談内容(受け応えの詳細)などです。
日記はゴールデンウィーク明けから書き始めましたが、最初はつぶやきのような文章でした。
5月6日
ゴールデンウィークも終わった。気分を変えて頑張ろう。
今日から、早く学校へ行って、資料室へ足を運ぼう。努力するんだ、恵子頑張れ!
スクールバスで、T次長(当時の就職部の次長)と一緒だった。
厳しそうな人。でも、思い切って声をかけてみた。思わず「私、G社(スポーツ用品のメーカー)を受けたいんです!」なんて言ってしまった。
すると「Mさん(当時女子大生の担当窓口だった職員の方)にしっかりくらいついていきなさい」と言われて、
「はい!頑張ります!」と、笑ったつもりが、顔が引きつっていたように思う。
それが、就職活動を進めるにつれ、1日2時間くらいかけて、活動の様子を克明に記録するようになっていました。
その日の出来事を書き、その出来事にもう一度向き合うことで、「次はもっとこうしよう!」「そうか、そういうことだったんだ!」と様々なことに気づくことができて、苦しいどころか毎日楽しくて仕方がない就職活動になっていました。その時に使っていたノートがこれです。
夏休みの自由課題のつもりで、のびのびと楽しんで書き綴りたいという思いと、表紙と中身のギャップが面白いかなと思ったからです。
せっせと日記を書いて、時々就職部にノートを持参して進捗状況を報告し、職員の方にアドバイスをいただく日々。
そのご縁で、就職活動のモニター学生に選ばれ、メンバーとお互いの活動について報告し合いながら、ますます活動に夢中になっていきました。
また、「女子学生でちょっと変わった活動をしている子がいる」と、新聞社に紹介されて取材を受けて記事にしてもらったり、就職部から推薦され、新聞社(別の新聞社)主催の「公開模擬面接」というイベントで、会場にいる大勢の採用担当者を前にして、人事担当者の面接を受ける女子学生役を演じ、アルバイト代として1万円を頂いたこともありました。(当時の女子学生の平均的な時給は400円~450円)
そして、様々な体験や思いを綴りながら、5カ月後の10月6日。第一志望の物流会社から内定をいただきました。
就職が決まった後は、後輩のためにと、日記を大学ノートに書き写して、就職課に寄贈しました。
こうして、ノートを取ることが、「自分のための記録」から「自分だけじゃなく誰かの役に立つような記録」に発展していきました。
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