娘に勇気をもらった日
写真の整理をしていたら
娘が幼稚園の年長の頃の音楽会の写真が
目に留まった
鮮やかな赤色のユニフォーム
白いスカート
真剣な顔でピアニカを演奏する姿
懐かしいなぁ
可愛い娘の姿に
心がほぐれていく
脳裏にあの日の感動が蘇ってくる
幼稚園内にある小さなホール
保護者席は満席
立見のお客もいる
我が子の最高のシーンを撮ろうと
入念にビデオカメラをセッティングする
お父さんやお母さんたち
“園生活もあと少しだね〜”
“〇〇ちゃんなんの楽器演奏するの?”
“なんか私が緊張してきたわ〜”
開園前の保護者同士の会話
まるで自分たちの緊張を
ほぐし合っているかのよう
私も自分ごとのように緊張してきた
娘はうまく演奏できるだろうか…
開演前
副園長先生が
“今日のために子どもたちは一生懸命
練習してきました
ここまで頑張ってこれたのは
お父さんやお母さんに
演奏している姿を見て欲しいという
思いがあったからだと思います
お父さん、お母さん、
子どもたちの演奏が終わったら
挙手して頂いて是非子どもたちに
声をかけてあげてください
私がマイクを持っていきます”
隣の保護者と
“みんなの前で話すなんて
ムリムリ(笑)と
目で会話する
子どもたちの演奏は
想像以上に感動した
たくさん練習を頑張ってきたんだろうなぁ
自分のパートに責任をもって
演奏しているように感じた
演奏を観ながら
娘が産まれた瞬間から今に至るまでの
想い出のシーン
私の頭の中の
映写機が映し出す
標準よりも少し小さな体で産まれた娘
たくさんのできなかったことが
できるようになった
胸がいっぱいになり
ブワ〜っと熱いものがこみ上げてきて
涙となって溢れてきた
娘だけでなく
園生活をともに過ごしてきた
周りのお友達の成長も感じられ
ハンカチで拭いても拭いても
止まらない涙
周りからは鼻をすする音
そこには
感動に包まれた最高の時間が流れていた
子どもたちの演奏が終わり
観客席から大きな拍手
誇らしげな子どもたちを見て
また涙する
子どもたちは舞台に残り
その場で三角座りをする
いよいよ
お父さんやお母さんの感想を聞く時
子どもたちは
ワクワクしながら
待っている様子
副園長先生が話す
“子どもたちに言葉をかけてくださる方は
挙手をしてください”
しーん…
誰も手を挙げない
周りの保護者同士苦笑いで
目を合わせる数秒が続く
そんな中一人の保護者が
手挙げた
その方はまっすぐに子どもたちを見て
目を潤ませながら
“素晴らしい演奏に感動しました
胸がいっぱいになりました
感動して涙がいっぱい出てきました
素敵な演奏を聞かせてくれて
ありがとう”
と子どもたちに分かりやすい言葉で
話されていた
子どもたちはお友達と顔を見合わせ
嬉しそうに
ニコニコしていた
他にどなたか声をかけてくださる
お父さんお母さんはいらっしゃいませんか?
あのお母さん
凄いな〜
堂々と話されている姿も素敵だったなぁ〜
と思いながらふと舞台にいる娘に
視線を移した
娘が何やら私に向かって
口をパクパクさせている
私が座っている場所に気付いていた
何を言いたいのかな?
何をしたいのだろう?
私が首をかしげる
今度は娘は片腕をあげて
また口をパクパク
よく見ると
“マ マ も あ げ て”
いや〜
さすがに無理だわ
って感じで
顔を左右に振ってみた
すると娘は
手を合わせて拝みだした
“お ね が い”
口パクが読めてしまった
絶対無理!
でも…
親としてこれでいいのだろうか
という気持ちでせめぎ合っていた
私が手を挙げて話したら
娘はどんな顔を
するんだろう
それに
いつか娘が勇気を出さなければ
ならないときがくるかもしれない
私の姿を見せることで
娘の心に残れば…
気づけば無意識に手が挙がっていた
“はい!〇〇ちゃんのママ
が手を挙げてくれました!”
という副園長先生の声で
ハッと我に返った
副園長先生がマイクを持って
こちらに近づいてくる
どうしよう
何を話そう
手を挙げたものの
話すことを考えていなかった
ドクンドクンドクンドクン
心臓の鼓動がはやくなる
口から心臓が飛び出しそう
という言葉があるけど
こんな感じなんだ
顔もかぁ~って
熱くなってきているのを感じた
私
今どんな状態?
緊張しすぎて地に足がついてない感覚
なんかふわふわする
手を挙げたことを今さら後悔していた
副園長先生から
マイクを受けとってしまった
手も静かに震えている
マイクってこんなに重かったっけ
不安な気持ちの中
舞台にいる娘を見た
娘は双眼鏡の形の様に手に丸みをつけて
2つの輪っかをつくり
その穴から私を覗き込んで見ていた
それがあまりにも滑稽で
クスッと笑ってしまった
お陰で私の緊張が少しほぐれた
その時 以前読んだ
人前で緊張しないコツが書かれた
本文を思い出した
『緊張するのは
生存本能が高いから』
『背筋をのばすと
セロトニンが活性化し
緊張にブレーキがかかる』
『人に見られている
という意識ではなく
こちらが相手を見る
といポジションに変える』
姿勢を正して正面を見ると
全体の情報がたくさん入ってきた
あくびをしている子どもを見つけられるほど
気持ちが楽になっていた
自分がどう思われるかって
自分のことばかり考えてしまっている
と気付いた
何も考えていなかったけど
拙い言葉かもしれないけど
私が感じたままを伝えよう
って思ったら
自分でもびっくりするくらい
スラスラ話せていた
最初は何を言ったか正直
覚えていない(笑)
でも締めの言葉は今でも覚えている
“もうみんな立派です!
こんなに立派に成長しているみんななら
小学校へ行っても大丈夫だって
思いました”
娘は舞台の上で
嬉しそうにニヤニヤしていた
音楽会が終わって
お部屋に迎えに行ったら
ママ〜って抱きついてきた
“ママありがとう〜
マイクでお話してくれて
嬉しかった〜”
また泣きそうになった
他の保護者の方々からも
子どもたちに話してくれてありがとう
とお礼の言葉を頂いた
あの時 娘からのサインがなければ
きっと手を挙げることはなかった
娘に勇気をもらった日
余韻に浸りながら
アルバムを閉じた
もうこんな時間
夕飯の支度しなくちゃ
最後まで読んでくださり
ありがとうございました☺